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第六十二話 「憧れの人が、古い友達がいるのです」


 ボラーロの色街は、真っ昼間は流石に閑散としていた。

 まあ、ここは夜戦がメインだからな。


「わあ、この看板すご……」


 メイが一つの看板に釘付けになる。

 元の世界で言う所の、萌えイラストだった。

 しかも神絵師と呼ばれる人達が描くような、塗りのすっごいやつ。

 この世界にデジタル彩色とか存在しないだろうから、頑張ってアナログで塗ったに違いない。


「は、早く行きましょうよ。注目されちゃうでしょ」


 それもそうだ。

 色街に女の子が四人も。

 いくら蓄音機をミランダに届ける為とはいえ、これは完全にセクハラでしかない。


「この規模なのに、男同士のお店が無いなんて……」


 などと落胆している、歪みねえ約一名は放っておこう。


 いや、最初は俺だけで行こうと思ったんだよ。

 だが満場一致で却下されたんだ。


 理由は明白。

 俺一人だと何をしでかすか判らないから。

 またひょろっと助けに行って、今度こそ帰らぬ人になったとか目も当てられん。

 ……いや、昨日のは相手がメイだったからだよ?

 なんて聞き入れて貰えるとは思えなかったから、俺は黙っていたが。


 とにかく、みんなで行くしかない。

 事情はしっかり話したから、納得済なのが救いだな。



 *  *  *



 到着!

 今回、キリオは所用があって来れないらしい。

 出掛けにカマを掛けてみたら何故かはぐらかされたが、十中八九ザイトン絡みだろう。

 早いところケリを付けて欲しいから、キリオはそっちに集中してくれたほうがいい。


 だから俺が直接、話を付けるという形になる。

 一応は顔なじみだから、すんなり通してくれたが。


 娼館の支配人に案内され、俺達はミランダの部屋へと向かった。

 一人だと何だか不安だったし、みんなでだ。


 扉越しに歌声が聞こえる。

 悲しげで、透き通ったような歌声が。


「失礼します」


 俺は蓄音機を片手に、その扉をノックした。

 歌声が止まり、しばらくして扉が開かれる。


「いらっしゃい、シンさん。あら、皆様もお揃いで」


「折角なんで、顔合わせもしておこうと思って。迷惑でした?」


「いえいえ、とんでもない。ところで、お手元のそれは……もしかして?」


「そのもしかして、です」


 ミランダの表情が、目に見えて輝いた。

 やっぱりこの人は、歌が大好きなんだろう。

 こんな部屋で仕事をしていても。


 俺以外の勇者パーティのみんなは、部屋を見回してそわそわしている。

 落ち着けよ。

 まあボラーロの誇るナンバーワンの高級娼婦の部屋ともなれば、緊張するのも致し方ないとは思うが。

 かくいう俺も、最初は度肝を抜かれたからな。


 奥には真っ赤な薔薇の装飾が施された、天蓋付きのキングサイズのベッド。

 壁紙は豪奢そのもので、天井にも小さなシャンデリア。

 部屋の中央には花弁を浮かせたプールがこさえてある。


 うん。

 誰だよこんなの考えた奴。

 俺の想像を遥かに超えた何かが、この部屋に凝縮されてる気がするぞ。


「あの、それで! 拝見してもよろしいですか!?」


 俺達よりもずっとそわそわした様子で、ミランダは蓄音機に触れていた。

 俺が頷くや、ミランダはすぐさま蓄音機を持った。

 そうして、シャンデリアの明かりに照らしたり色々やっている。

 しまいには、愛おしげに抱きしめて頬摺りまでし始めた。


「歌、お好きなんですね」


 メイは感慨深げに言う。

 何か思うところでもあるのかね。

 それを察する術は今のところは無いが。


「憧れの人が、古い友達がいるのです」


 そう言って、ミランダはプールをずっと眺めた。

 水が関係する何か、って事なのか。

 それとも、単に俯いた角度がそこだっただけか。


「あ、ああ、ごめんなさい。それより、蓄音機の使い方を説明して頂けるかしら」


 何とも釈然としないが、まあいい。

 現時点でそれを詳しく訊けるだけの好感度があるかっていうと、そうとも言えないしな。


 ちなみに蓄音機と言うと棚ぐらいの大きさを連想するだろうが、実際には片手で持てる大きさだ。

 それこそタブレットPCくらいの。


 扱い方は簡単だ。

 録音スイッチと再生スイッチがあって、後はパネルに表示されたシークバーを弄って途中再生とかできたりする。

 メダルのようなものを取り替えれば、複数のデータを録音できる。

 まるでパソコンの音楽再生アプリを、アナログに落とし込んだような装置だ。

 よくこんなものを作れるよな。


「今夜、許可を頂いて録音してみます。ささやかなお礼ですが――」


 ミランダが俺の口元に顔を近付けようとした。

 が、急に俺は後ろに引かれる。


「オウフッ!」


「あら」


 引っ張ったのは、メイだった。

 目元が仮面で覆われた、いつもどおりの笑顔だ。

 だが、それでも不機嫌なオーラが見て取れた。


「ごめん。つい、ね」


 そうだよな。

 俺も危うく流されるところだったが、冷静に考えるとキスだもんな。

 いやー危ない危ない。

 この世界では紳士的に振る舞うと決めたじゃないか。

 誰彼構わずレディに手を出しては、紳士の名折れだ。


「ふふ。こちらこそ、ごめんなさいね。そちらの事情も知らず……とにかく、感謝してもしきれません」


「いえいえ。歌もまた、何かを生み出すという尊き行為でありますからして!

 僕はその背中を、ほんの少し押しただけに過ぎませんよ!」


「ねえ、ホントだと思う? ルチア」

「わかりません。殿方の事なんてっ」

「男の俺でも、ちょっと苦しい言い訳だと思うよ」

「下心がスケスケなんスよぉ~」


「勘弁してくれよ君達。ははは」


 引きつった笑いしか出て来ない。



 *  *  *



 蓄音機の受け渡しも済ませたので、俺達は表通りからボラーロの商業区へと戻った。

 そろそろ飛竜ちゃんのご飯もあげなきゃだしな。

 浜辺へと直行だ。


「メイ、まだ怒ってるか?」


「べつに? 最初から怒ってないよ」


「ならいいんだが」


 さっきからメイが怖い。

 反応が淡泊すぎるのだ。

 そのくせ、手はしっかりと握ってくる。


 いやいや、まさか嫉妬じゃないよね!?

 あくまで俺とお前は、作者と読者の関係だよね!?

 ……つい、ゆうべの事を思い出してしまうが。



 浜辺で待ち構えていた飛竜は、行儀良く座っていた。

 俺達を視界に入れると、すぐに姿勢を正す。


 そしてルチアが、お決まりのように飛竜の頭をなでなでするのだ。


「よしよし。よい子にしていましたね」


 対する飛竜の表情は、爬虫類だからあんまりよく判らん。

 仕方なく付き合ってやる的なオーラは感じられるが。

 意外とふてぶてしい奴なのかもしれない。

 愛想も無いし。


「とりあえず、一段落か」


 餌を頬張る飛竜の横で、俺はパソコンを確認した。

 後はそうだな……北方連邦の小国へ向かうにあたって、色々と準備しないと。



 勇者の仕事は、何も敵を倒すだけじゃない。

 味方である無辜の民を、救う必要がある。

 歌が好きでありながらも娼婦として働くことを選ぶしか無かったミランダも、その一人だ。


 一見すると地味かもしれないが、ミランダが俺達の事を広めてくれたなら。

 現状ではちっとも勇者扱いされていないファルドも、みんなにその顔が知れ渡ってくれるかもしれないのだ。


 これでアンジェリカが魔女になってからも、魔女の墓場が俺達に敵対してくる危険性が減るといいんだが。


 そう。

 これは敵を倒す為の活動ではなく、敵対者を減らす為の活動だ。

 活動内容に説得力があれば、それだけ協力者も増える。

 その為にも、がむしゃらに敵を倒すだけでは駄目だと痛感させられた。



 だから俺達の、次の目的は……。





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