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第五十八話 「ファルド、アンタの先輩って」


 夕刻。

 シャワーなど諸々の身支度を済ませた俺達は、城下町へと出発する事にした。


 飛竜は貸し出しではなく、そのまま俺達が購入という形に落ち着いた。

 やったねファルド! 移動手段が増えるよ!


 で、その前に装備の分配を決めた。

 丸腰になった俺は、とりあえずナタの刃を宙吊り野郎の杖に付けて貰った。

 かなり雑な手作り武器だが、何も無いよりはマシだな。

 まさかずっとパソコンで敵をブン殴るワケにも行かないし。


 モードマンからは蓄音機の試作品(何と手の平サイズ!)も貰ったが、これは武器じゃないしな。

 いや、もしかしたら今後の戦いで有効打になりうるかもしれないが。

 だったら尚更、乱暴に扱っちゃいけない。



 メイも以前のように槍をポンと出す事ができなくなったので、ひとまずルチアからクロスボウを借りた。

 城下町の武器屋で新しい武器を買うまでの、とりあえずの繋ぎだ。


 あと、キリオがあり合わせの布やら金具やらで、仮面とローブを見繕ってくれた。

 何に使うかって、そりゃあメイの顔と耳と尻尾を隠す為だ。

 仮面の目の部分は、スモークのレンズで覆われている。

 これで赤い目もバレなくて済むだろう。


 勇者と行動するとはいえ、人々にとって魔女は忌み嫌われる存在。

 だから、暫くは身分を隠すのがいいだろうという話になった。


 残念ながら、扇情的な服装を丸ごと隠すだけの布までは無かったがな。

 ……目のやり場に困るんだよ。


 タイツは破れて穴が開いてるし。

 胸元を包んでいる部分も、少しボロボロになっている。

 気合いを入れてめくれば、多分ノク○ーンでやれと言われるビジョンが見えてくるだろう。

 服も、新しいのを買うべきだな。

 という提案は、メイに蹴られた。


「こっちのほうが、今のあたしには性に合ってるから……。

 共和国には奴隷魔女とかいうのもいるしね。あたしは、勇者の奴隷。バレたらそういう形にしよ?」


 俺は咄嗟に、キリオを睨んだ。

 奴隷魔女とか聞いてないんですけど?


「……説明、してくれますね?」


「はい」


 苦々しい顔で説明するキリオの話をまとめると。

 どうやら最近、魔女を有効活用しようという話になったらしい。

 武力で追い詰めて屈服させた魔女を徹底的に調教して、その名の通り奴隷としてこき使うのだ。

 彼女達の名前も、墓場が自由に決めていいという。


「はぁ~……」


 俺とアンジェリカが溜め息をついたのは、ほぼ同時だった。

 思うところは同じか。


 そりゃそうだよな。

 中には望まずして魔女になった奴もいるかもしれないのに、一緒くたにみんなでリンチして奴隷にするとか何様だよ。

 下手をしなくても魔王軍よりタチが悪い。


 自分達は正義ヅラをしながら、人道に反した事を平然とやるんだからな。

 無くても回る世の中なのに、そこに奴隷制度を持ち込むなんて。


 大量殺人とか、テロとか、そういう事をした奴だけを相手にしろよ。

 やりすぎるからいけないんだ。何事も。



 *  *  *



 さて、いよいよ出発だ。

 城下町に着いたら王様に報告して、夏の聖杯だけ探して貰う事にして。

 ボラーロでミランダと話を付けて、蓄音機に歌を録音して。

 まあ予定らしい予定はそれくらいだな。

 後は話し合って、各地に散らばる魔王軍の中でも冒険者の手に負えなそうな奴らを蹴散らしていくくらいだ。



 と、そこへ。


「――ふむ! 結果は上々のようだな。大変結構!」


「その声は!」


 オフィーリアが現れる。

 しかも上空で、見覚えのある奴に抱えられながら。

 グラカゾネクが重そうにオフィーリアを運んできた。

 二人は油断の無い所作で、ゆっくりと着陸する。


「泣き虫ファルドの坊やは、無事に囚われの姫様を救出したか。

 存外早かったが、少々お膳立てが過ぎたかな?」


「先輩、なんで……」


 ファルドが、呆然とした顔でそう呟く。


「私は先輩ではない! 魔王軍の六大魔女が一、美の魔剣オフィーリアだ!」


 ファルドの元先輩なのか。

 これじゃ、迂闊に手を出せないな……。

 そしてもう一つ、気になる事がある。


「六大魔女って、お前の他に五人もいるのかよ」


「然様! 聞いて驚け! 楔の魔弓レティシア、砂の魔女カレナ、魔獣使いメリッサに――」


「――あーストップ。姐御、そろそろやめましょうや」


 そいつら原作では全員、仲間になる予定だったキャラじゃねーか!

 世界設定の改変に寝取られる勇者ファルドが不憫すぎる……。

 ちくしょう、ちくしょう! 何が何でも、魔王はブッ潰す!


「それもそうだな。仕舞いにするか」


「やんのかよ! 今度は五人がかりだぞ!」


 俺は咄嗟に、宙吊り野郎の杖を構えた。

 魔術は使えないが、今のコイツは即席の青龍偃月刀せいりゅうえんげつとうみたいなもんだ。


 使えない筈だよな? 魔術。

 なんで杖が光ってて、先端から刃が出てるんだ?

 しかも宝石の部分じゃなくて、杖の下の部分から。

 これじゃあ薙刀なぎなただよ!


「ほう? お前、魔術の心得があったのか。何故最初に対峙したとき、それを使わなかった?」


「自分でも気付いてなかったからだよ」


「姐御、ちょっと姐御!」


「そうだった! 私は少し顔見せと挨拶をしにきただけだ。さらば!」


「挨拶の為だけに運び屋をやらされるオレの身にもなって下さいよ……重たいんです――からばっ!」


「黙れトリ! うら若き乙女に体重と年齢の話をしてはならない。心得ておけ」


「カァーちくしょう!」


 アホらしい漫才を繰り広げながら、二人は飛び去っていく。

 誰も手出しをできなかった。

 ファルドの先輩が相手となると、流石にな。

 それに、実力も段違いだろうから。



 ――あれ?

 なんであの二人、戻ってきたんだ?


「そうそう! 伝え忘れていたが、我が軍随一の気まぐれなトカゲが、そろそろ会いたいと言っていたぞ!」


 トカゲ……気まぐれ……あ!

 まさか!


「カグナ・ジャタの事か!」


「何故そいつの名を知っている!? さては貴様、心を読んだか!?」


「あー姐御、奴が石版の予言者ですヨ。石版、持ってたッしょ?」


「ゴミかと思って捨て置いたが、まさかそんなご大層な代物だったとは!

 まあいい! そこの泣き虫坊やも、いい拾い物をしたようだな! さらばだ! ふははは!」


 アホだ。

 そのアホさに助けられたが、あいつ正真正銘のアホだ。

 何よりこのパソコンが俺の最大の武器とも知らずに!


「ファルド、アンタの先輩って」


「お願いだから言わないで。元々、ああいう性格だから」


 みんな身内で苦労してるんだな……。

 魔女の墓場に比べて、魔王軍は安定してアホばかりだ。

 いや、それこそが奴らの策略である線もあるが。


 俺はファルドの肩に、そっと手を置いた。


「強く生きろよ。ファルド」


「ありがとう……と、それよりシン! 魔術だよ、魔術!」


 杖を見ると、まだ刃が出っぱなしだ。

 ちょっと念じると、刃が引っ込む。


「いや、多分この杖の効果だろ」


 と言って、俺は他のみんなにも使わせてみた。

 だが、杖は俺とアンジェリカ以外の誰にも反応しなかった。

 思わぬ所でチート能力に気付かされるとは。


「もっと早くに気付いておきたかった」



 *  *  *



 気を取り直して、城下町だ。

 道中の空は相変わらず快適そのもので、思わずシーンをスキップしたくなる程だった。

 ……何を言ってるんだ、俺は。


 飛竜は馬車の発着場を間借りして、そこに着陸させた。

 夕暮れの中でたいまつを使って誘導してくれた皆さんには感謝だな。


 その後も大きな混乱は無く、俺達は飛竜を置いてそのまま雪の翼亭へと向かう。

 ちなみにこの飛竜、無愛想だが大層な働き者だ。

 六人も運ぶとなればそれなりに大仕事だろうに、ちっとも不満そうな顔をしない。


 仕入れたキリオによれば、コイツは帝国軍で働いていたそうだ。

 食事は一日一度きりで大丈夫なのも、そういった軍用としての育ち方によるものだろうな。



 さておき。

 夜の城下町をこうして歩いたのは、実は初めてだ。

 何だかんだで、夜になったら必ず雪の翼亭にいたからな。


 だから、ちょっと新鮮みがあった。

 俺はまるでお上りさんみたいに、辺りの様子をきょろきょろと伺う。


 もちろんそれだけが理由じゃない。

 いくら隠しているとはいえメイは一度、この城下町で一暴れした。

 魔女の墓場が警戒度を上げているというリスクを、俺は頭の隅にはやれずにいた。


「シン、落ち着いて」


「だがよ」


「気持ちは解るけど、それじゃあ逆に怪しまれちまうぜ」


 ファルドに宥められ、俺は努めて平静を装う事にした。

 だが、俺の心臓は破裂寸前なのだ。

 万一の事があったらという恐怖はもちろんだが、まだまだ理由はある。


 手に汗握るとはいうが、その汗が他人に伝わっている。

 ストレートな言い方をすれば、さっきからメイが俺の手をずっと握っているのだ。


「こうして手を繋いでると、まるで恋人みたいだね!」


「じゃあ自分はマブダチって奴ッスね! 反対側、お邪魔するッス!」


 これぞ両手に花である。


 あの。

 ちょっと、進展が早すぎませんかねえ……?




 蓄音機

 天才錬金術師として知られる、モードマン伯爵の発明品。

 特定の操作をすると、音を特殊なメダルに記録することができる。

 一度記録したメダルは上書きができないが、複数枚のメダルを用意しておけば何度でも録音が可能。


 また、モードマンの屋敷には、メダルの内容を複製する装置もあった。


 モードマンは、この蓄音機は石版の預言者を名乗る男によって着想を与えられ、開発するに至ったと語る。

 一説には、石版の預言者は、本来得られるべきだった文明を取り戻す旅に出ていたともされている。

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