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第四話 「ワクワクしろって言ってるの」


 翌朝、俺はファルド達が何やら難しい顔で話し合っている所へと向かった。

 朝一で店主のおっさんに「みんなもう支度したぞ」って叩き起こされて、酒場のフロアへと降りてみれば、途端にこんな状況だ。


「ファルド、何かあったのか?」


 俺がそう問い掛けると、周りがざわついた。


「お前さん。勇者様と、ずいぶん親しげじゃねェか」


 店主は相変わらず怖い。

 お願いだから指の骨をポキポキ鳴らすのやめてください。


「ああ、色々ありまして」


 というファルドのはしょりまくった説明に、アンジェリカとルチアが顔を見合わせる。

 なんでルチアさんはそんなに口元が緩んでるんですかねえ……。


「つまり事後……あっ! か、かかか、神は赦さずとも!

 わ、私は真実の愛を求めることを、と、止めめまませんよ!」


「ちょっとファルド、アンタそっち側だったの? じゃあその人を泊まらせたのって、ルチアが言った通りの……」


 ジト目で一歩退くアンジェリカと、赤くなって目を回しながら弁解するルチア。

 何が事後だ。ストレートすぎだろ。

 R-18はノク○ーンでやってくれ。


 当然ファルドは、顔を青くして反論した。


「だからちょっと待ってくれ! さっきから言ってるけど、友達になっただけだって!

 アンジェリカだって、ルチアと一緒に寝たからってそういう扱いされないだろ!?」


「安心して。私は、そっちのケは無いわ」


 ほう、アンジェリカとルチアの百合ですか。俺は一向に構わん。

 目の前でハーレムを見せ付けられるのと百合カップルを見るのとを選ぶなら、俺は断然後者だ。

 アンジェリカは押されると弱そうな感じがあるというか、実際そういう設定だ。

 これは妄想が捗りますなあ……!


「シンって言ったわね。アンタ、ニヤニヤしてるけど大丈夫?」


「え? いえ滅相もございません!」


 あわててかぶりを振る。

 くっそ、俺のすまし顔に潜む邪念を読み取るとは、俺のキャラクターながら流石だな。


「シン。アンジェリカ達にもかしこまった態度は取らないでくれよ」


「いいのか?」


「アンジェリカとルチアも、シンは友達として接してくれ」


「あんまし気は進まないけど、頑張るわ」


「わかりました。でも、本当に、ただの友達なのですよね?」


 ルチアが、俺とファルドに問い掛ける。

 心なしか残念そうなのは気のせいだと思いたい。


「俺を勇者という肩書きに囚われず、一人の人間として扱ってくれたからな」


 待ってファルド。

 そういうヒロインめいたセリフは、あらぬ誤解を生むからやめて。

 まるで俺がファルドの心を射落としたみたいになってるから!


 アンジェリカが親指の爪を噛んでいる。

 あれは確か原作設定だと、ファルドが他の女キャラと絡んだ時によくやる仕草だ。


 何、俺がヒロインなの? 悪友エンドなの?

 申し訳ないが軽率な腐女子向け展開はNGだ。

 仮に俺の冒険譚が文章化されたとして、誰が得するんだよそんなの。

 今は奥ゆかしさ重点な時代だろ!


「男同士の友情を何だと思ってやがる」


「ごめんなさい。私、殿方の事はわからなくて……」


「なあファルド。早く何とかしないと、俺ら男二人の黒歴史を捏造されかねんぞ」


「黒歴史って?」


「振り向きたくない過ちの事さ……」


 勇者と魔女の共同戦線レゾナンスを含めた小説の他にも、俺は色々と試したんだ。

 下手なりに絵を描いてみたり、歌ってみた動画をアップロードしてみたり。

 今となっては、なんであんなに躍起になってたのか。


 ……誰かに、認められたかったんだろうな。

 事実ファルドと友達になったり、パーティ加入の許しを得られたりした時、俺は嬉しかった。


 でもそれってさ。

 俺が作った世界に住まう、俺の作ったキャラクターに認められたってだけの話なんだ。


 そんなのって、あまりにも虚しいじゃないか……。

 だって、結局は独り相撲なんだぜ?


「そういやファルド」


「ん?」


 沈み込む気分を誤魔化すようにして、俺は問い掛けた。


「謁見って、何時からだったっけ?」


 ファルドが宿屋の壁に掛かっている時計に目をやると、時刻は朝の8時過ぎを示していた。


「……やばい!」


 ファルドは、真っ青な顔で立ち上がった。

 アンジェリカ、ルチア、そして俺も、宿のチェックアウトを済ませて城へと急いだ。


 道中は散々だった。

 ルチアは息切れするし、水筒の水を飲もうとして咳き込むし。



 王城に辿り着く頃には、すっかり約束の時間を過ぎてしまっていた。

 そのせいで城門で仁王立ちしていた大臣から、たっぷりとお小言を頂戴するハメになった。



 *  *  *



 王様は見掛けに依らずフランクというか、ファンキーな爺さんだった。

 遅刻した事は全くおとがめなし。

 代わりに、老人ギャグとノロケ話を小一時間ほど聞かされた。

 それから、


「儂も国を背負う立場でなければすぐにでも馳せ参じたいと思うが、王冠を被れど老骨は老骨。

 足手まといにしかならぬ。そこで、儂のせめてもの気持ちを用意させた」


 などと、青い布で包まれた何かを渡された。

 ちなみにこの布、王様曰く私費で依頼して作らせたらしい。

 その話の時に俺が疑ったのが表情でバレたが、これもおとがめなし。


「これは儂が若い頃、身分を隠して働いて稼いだ金である。

 見事魔王を倒した暁には、この王城にて宴を開く。貴公にはその時にでも、話してやるとしよう。フフフ」


 と、王様は説明してくれた。


 その後、王様の合図と共に、謁見の間から退出した。

 宴会は魔王を倒す時まで、後回しなんだな。

 てっきりもう一晩、城に泊まるのかと思ってたから拍子抜けだ。



「掴み所の無い王様だったな。この国での、王様の評判ってどんななの?」


「ああ。イノシシ喰いの王って言われてるぜ」


 はぁー……イノシシ喰いですか。そんな設定知らないぞ。

 碌に設定してない俺が悪いんだけど。


「二つの意味があるわ。一つ目は、文字通りイノシシを食べるくらい質素な倹約家。

 今でも、毎日の食事は私達と同じくらいのものしか食べないらしいの」


 王室勤めの人達は大変だな。

 その分、意識高い系の人達が集まりやすいのかもしれないが。

 国民からの不満はほぼ皆無って設定したのが、こういう形で反映されたのか?


「それで、二つ目の意味は?」


「まんまと突っ込んできた他の国を罠に掛けて一網打尽に。周りの国は滅亡こそ免れたけど、二度とこの国に手出し出来なくなったわ」


「えっ、怖ッ!」


 あの爺さん、一国の主だけあって只者じゃないな。

 敵に回すと厄介そうだし、再会した時に粗相をしないように気を付けないとな。


 何より情報が無いのが痛い。

 好みの話とかその辺りの隙を突いてみたいが、無理そうだ。


「一応、訊くが、王様の若かりし頃に使ってた武器って解るか?」


「ただのロングソードよ。古戦場では散らばった武器で二刀流なんかをやったりもしたらしいわ」


「泥臭いのかスタイリッシュなのか……」


 何か読めてきたぞ。

 王様が身分を隠してやってた仕事って、用心棒か何かだろう。

 俺の親父が観てたDVDに、地面に刺さった刀を使いまくったシーンがあったから、それが設定に影響してるのかな。

 現実世界に戻ったら訊いてみるか。


「そういやファルド、さっき渡された布ってまだ見てないよな?」


「あ! そうだった!」


 布は、中々に手が込んだ雰囲気のマントだった。

 鮮やかな青色、シンプルながらも整った刺繍。

 もちろん、縫製もしっかりしている。

 元の世界でよく売られていた安物コスプレグッズなんて、比べ物にならない。


 当然、ファルドはこれを身に纏った。

 これのお陰で、シルエットが引き締まって見えるな。


 そして中身は銀貨袋だった。

 一枚で100ガレットほどだ。それが20枚。つまり2000ガレットだ。

 日用品とかだと店側が嫌な顔をするんだよな。いわゆる万札みたいなものだ。


 序盤にしては大金だが、一国から出る支援金にしては安すぎる。

 とはいえ、みんな満足げだ。



 それから俺達は、数店ほど回った。

 俺の防具も前金であつらえて貰った。

 現代っ子の普段着じゃあ「大丈夫だ、問題無い」なんて言えないしな。


 俺は安物のレザーアーマー的な奴を、普段着の上から装備。

 代金は、いずれ返さないとな。


 ファルド曰く、装備品の店は昨日のうちに目星を付けてきたらしい。

 これまたアンジェリカが何から何まで手配してくれたんだとか。

 まるで世話女房だな。



 アンジェリカはついでに、大きなリュックサックを買った。

 フェルノイエからここまで、何処にも売っていなかったそうだ。


 荷物持ちは当然、俺が進んで買って出た。

 ファルドじゃ戦いに対応しづらいし、アンジェリカやルチアに背負わすのはいくら何でもアレだし。


 咄嗟に考えたにしては、我ながら立派だ。

 さっさと遊び人から賢者にジョブチェンジしたい。



 買い物を済ませて、次に向かったのは馬車の発着場だった。

 しょっぱなから贅沢してんなあ。

 村を出る時も馬車じゃなかったかね、君達。

 資金援助があったとしても、そんなんじゃすぐに底を突くぞ。


「歩きで行かないのか?」


「魔王軍が各地に散らばってる以上、馬車で行けるなら馬車のほうがいいだろ」


 おかしいな。原作だと歩いて隣の村に行った筈なんだけど。

 俺の設定よりも、少し合理的な考え方が出来るって事なのかな。

 俺の見識が広がった事で、この世界もそれに合わせて進歩してるのか?



 アンジェリカの提案で“つがいの石版”から音楽を流すと、御者が感心していた。

 やっぱり、珍しいもんな。音楽を流す石版なんて。


 ちなみに曲目はカントリーミュージック的な洋楽CDを取り込んだ奴だ。

 あんまり聴き慣れない音だと、うるさがられるからな。



 *  *  *



 昼下がり。

 馬車は無事に村へと到着した。

 途中で俺が乗り物酔いをするというハプニングはあったが、まあこれは置いとこう。

 背中をさすってくれたルチアには感謝だ。


 看板によると、ここはムーサ村というらしい。

 殺風景で、畑も無い村だ。

 どの家も木造だが、かなり古びている。

 単なる中継地点だったから、細かい設定はしなかったんだよな。


「今日中にはドリトント鉱山を登って、鉱山村ヴァン・タラーナへ行こうと思う」


 ファルドは、みんなに宣言する。


「いいんじゃない?」


「私も賛成です」


「シンは、どう思う?」


 原作でのドリトント鉱山は、奥底から採取できる“賢者の石”を動力にした自動トロッコが暴走してたな。

 あれを止めるには、横転させるしかない。

 レールの外でも無軌道に走り回るからな。


「あー、ちょっと考えさせてくれ。嫌な予感がする」


 原作の該当シーンを開く。

 原作のファルド達は、そんな代物が走り回ってる事を全く知らない事になっている。

 村人から情報を仕入れてもいなかった。


 こっちのファルド達、特にアンジェリカは何かと機転が利くから大丈夫だとは思うが……一応訊いておくか。


「ファルド、村人からはヴァン・タラーナに関する情報を集めるか?」


「ああ、もちろん」


「ならいいんだ。あと多分、小石を詰める袋が必要になると思う。それも頑丈なやつがいい。頭の片隅に入れといてくれ」


 置き石作戦をしてやろう。

 ただ、一個だけだとレールから外れて暴走するリスクがあるから、念には念をというやつだ。


「どうしてそんなものが必要なのよ?」


「俺の石版がそう囁くのよ」


「便利なのね、ホント。まあいいわ、ファルド。仕切って貰ってもいいかしら?」


「仕切るって、そんな……」


「リーダーなんだからシャキッとしなきゃだぞ?」


「不本意だけどそれには同意だわ。昔っからファルドは主体性が無いもの」


「アンジェリカさん、幼馴染みの方をそんな風に言ってはいけません。めっ! ですよ!」


 あー浄化されそう。ルチアは母性の塊だな。


「何よう。親みたいなこと言って」


「いやお前も大概オカン属性だがな」


 その後オカン属性について色々説明したが、理解されなかった。

 これだから異世界人は!



 *  *  *



 それから俺達はファルドの提案で村長に挨拶しにいった。

 話もそこそこに、鉱山村ヴァン・タラーナの近況を教えて貰った。

 何やら、最深部を掘り進めたら大昔の遺跡を発見したらしい。

 だが、財宝のたぐいは持ち去られた後だそうだ。

 王様もそうだが、原作で描写されなかった部分は後付けでサイドストーリーとして補完されるみたいだな。


「貧者の僻みと断じて頂いても結構。精々、頑張って下され! ホホホ!」


 そう言って村長は、俺達を送り出した。

 しかも扉をバタンと乱暴に閉めて鍵までかけやがった。

 何だか感じ悪い爺さんだな。勇者を相手にそういう事しちゃいかんだろ。


 それ以外も、気になる点があった。

 この村では、若い娘が全く見当たらないのだ。

 尼寺にでも行ったか、みんな嫁入りしたのか。

 詳しく訊きたいが、村人達の疎ましげな視線のせいで気が引ける。


「集会場ってのもあるみたいだな」


「でも、馬車が何台も停まってたわ。多分、取り込み中ね」


「王国騎士団の方々でしょうか?」


「その割には馬車の数が少ないね。フェルノイエの駐屯地の半分も居ない」


 これはこれで嫌な予感がするけど、まあ仕方が無いな。

 原作には無かった描写だが、村人の態度もあって調べようが無い。


 俺達は道具屋で麻袋を購入し、早々に出発した。

 村の外れにある大きな門から、山道へと続く道を歩く。


「それにしても、大昔の遺跡か……。ねえ、魔王との戦いが落ち着いたら、寄ってかない?」


「何しに行くんだよそんな所。財宝無いっつってたろ」


「ワクワクしろって言ってるの」


「おう。善処するよ」


 なんてな! するワケねーだろ!

 さっさと魔王倒して実家に帰りたいんだよ、俺は!




 狩人の王笏

 イノシシ喰いの王アリウス・ブラムバイツ・アレクライルが授かった王笏おうしゃく

 仕込み杖となっており、柄に見える部分は鞘である。

 今までに護衛の目を潜り抜けた暗殺者が王の間近へと辿り着いたが、その誰もが喉を貫かれて絶命した。

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