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第三十四話 「私にもやらせて下さい」



 ルドフィート家の客間は、十人分は余裕で座れる広さだった。

 割と裕福な家庭なんだろうな。それとも土地が安いのか。

 いや、中世の家族ってだいたい兄弟たくさんだろうから、これぐらいの広さはむしろ普通なのか?


「それじゃあ、みんなくつろいでいってね。アンジェリカと、夕食の準備を済ませてくるから」


 アデリアがパンの入った紙袋を戸棚に仕舞い込み、エプロンを付ける。

 アンジェリカも色違いのエプロンを付け、二人は厨房へと向かう。


「あ、母さん。そういえば父さんは?」


 アンジェリカが、野菜を切り分けながらアデリアに問い掛ける。


「まだ仕事よ。今日は枚数が多いんですって」


「そっか」


 具体的な仕事、そういや設定してなかったな。

 こんなんばっかりじゃん、俺!

 前向きに考えれば、それだけ新鮮な驚きを味わえるって事なんだろうが。

 興味があるな。枚数って何の枚数だろう。

 ……まあそれは後で、卓を囲みながらでいいな。


 そこで、玄関口が開かれる。

 現れたのはインテリ風のおじさんだ。眼鏡は無いが、顔立ちとかがそんな雰囲気だ。

 どことなくアンジェリカと目付きが似ている。

 噂をすれば何とやらって法則は、こっちの世界でも健在なんだな。

 案の定、アデリアが振り向いて話し掛けた。


「あなた、おかえりなさい。アンジェリカが戻ってるわよ」


「そうなのかい? 参ったな、仕事着を新調しておけば良かったよ」


 インテリおじさんは頭の後ろを掻きながら、苦笑する。

 ヴェルシェが、ばっと立ち上がる。また何を言い出すかと思えば、


「旦那さんイケメンじゃないッスか!」


 これだよ。

 何とまあ有能ですこと!


「そうかい? 照れるな、ハハハ」


「奥さんも幸せ者ッスね!」


 眉をハの字にして照れ笑いをするパパさん。

 そこに、ママさんがジト目で水を差す。


「あなた? 挨拶は?」


 辛口だねえ。この辺はアンジェリカにも遺伝したのかもな。

 言うと俺が焼かれる気がするから、黙っとくが。


「おっと、そうだった! はじめまして。僕はアンジェリカの父、アウロスです。うちの娘が世話になってます」


「自分、ヴェルシェって言うッス!」


「よろしく。それにしても、エルフかあ……初めて見たよ」


 その割にはあんまし驚いてないな、アウロスお父さんは。

 いや、こいつもそうだが、みんなもだ。


 もしかして、エルフっていうのは日本で言うマイナーな民族みたいな扱いか?

 実在は知られてるけど、そんなにご大層な存在でもないって感じの。


 まあそういうもんか。

 ファンタジー世界じゃよくある事だしな。

 逆に、変に有り難がられても動きづらい。丁度いいって思っとくか。



 *  *  *



 ファルドの両親も加わり、合わせて九人が客間に集まった。


 ファルドの父親ニール・ウェリウスは、見た目で言うと30代後半だろうか。

 短く刈り込んだ金髪と、薄い灰色の目をしている。

 両腕は太くてゴツく、小さい子供だったら両肩に一人ずつ乗っけられそうだった。


 母親のエマ・ウェリウスは、ニールに比べると少し若々しい。

 淡いオレンジ色の髪を背中辺りまで伸ばした、青い目の美人さんだ。

 纏っている雰囲気はルチアに近い。


 両親とも、ファルドには似てない。

 どっちかの祖父母から隔世遺伝でもしたのかね。



 もちろん俺とヴェルシェは、みんなに自己紹介をした。

 途中でファルドが自慢げに「シンは俺の親友なんだ」と言うと、ニールとエマはほっこりした笑顔を俺に向けた。


 そしてヴェルシェが珍しく嫉妬したのか「自分は違ったんスか!?」と、まさかの猛烈アピールだった。

 そこから先はずっとヴェルシェのターン。

 君ね、もう少し空気を読みなさいよ!


 といってもこいつの話術のお陰か、誰も不快そうにはしてなかった。

 エルフという種族だからこその着眼点とか、そういうのも織り交ぜてるからな。

 聞いていて、俺も素直に面白いと思った。

 話が上手ってのはいいねえ。



 話も佳境に入った所で、料理が運ばれてくる。


「わ、わ! ゴイスーなシーメーじゃないッスか! こんなの故郷でも見た事ないッスよ! うーん、ゴージャス!」


「気合い入れて作ったの。沢山食べてね!」


 エプロン姿のママさんアデリアのグーサイン。

 良妻賢母を絵に描いたような、理想的な母親像だ。

 一見すると非の打ち所が無いが、対するアンジェリカは笑顔が硬い。


「ホントにご馳走になっちゃっていいんスか!? お金、払うッスよ!」


「それ私達の金で、アンタの金じゃないからね!?」


「そうだったッス~!」


 アンジェリカのツッコミに、ヴェルシェが天を仰ぎながら自らの額をペシッと叩く。

 それを見て微笑むアデリア。


「嬉しいわね、ふふ。おかわり欲しかったら言ってね!」


 こうして俺達は卓を囲み、豪華な夕食にありついた。

 今回はマジで、文字通り豪華だ。


 ハーブとトマトのスープに、にんじんと魚とほうれん草を使った厚みのあるパイ。

 そして目玉はやっぱり、この大きなカニだ。

 丁寧に中身を取り出して、皿へと盛り付けられている。


 アデリアの料理はまるでレストランだ。

 確かにこれなら、金を払いたくなる気持ちも解る。

 二組の両親ズはワインまで開けていた。

 やっぱり、自分達の子供が帰ってくるのはそれだけ特別なんだろう。


 食事の最中にした話は、これまでの旅の事だ。

 俺の石版の予言(笑)も、ファルドが大袈裟な身振り手振りを添えて説明してくれた。

 そんなにご大層な事じゃあないとは思うんだが、まあ旅路が楽になったって考えたらいいのかな。



 他にも、アンジェリカが包み紙を使って、折り鶴も披露してくれた。

 お陰で初印象では地味だった俺のお株はうなぎ登り。

 母親二人組は口を揃えて「今度、何か作ってもらおうかしら」なんて言ってくれた。

 社交辞令だとは思うが、こうして反応があるとやっぱり嬉しいな。


 途中でファルドの剣の話にもなったが、これはファルドの父ニールにも解らないらしい。

 とにかくファルドの祖父はとんでもない鍛冶屋だったって事だろう。



 *  *  *



 およそ二時間にわたって繰り広げられた宴会は、無事に終了した。

 今、玄関には両親ズがお互いに挨拶をしている。


「では俺達はここで。今度、困った事があったら是非相談して欲しい。力になる」


「私も相談に乗りますね」


「はーい! 今日はありがとね! 急な誘いにも乗ってくれて! おやすみなさい!」


「ええ、おやすみなさい」


「おやすみ」


 その間、俺達はすっかり置いてけぼりだった。

 というより、口を挟む気になれなかったというのが正しいか?


「あれ、えっと、その……」


 ファルドが我に返って、辺りを見回してもじもじし始める。


「自分は、こっちでいいと思うッス。節約のチャンスって奴ッスよ」


「そういう問題じゃないよ。アンジェリカ、どうする?」


「へ!? わ、私に振らないでよ!」


「だってアンジェリカの家じゃないか」


「そりゃそうだけど……今から追い掛けて、やっぱそっちに泊めてって言うの?」


 ウブだねえ……。

 据え膳喰わぬは男の恥って言うだろうが。


「ナヨナヨすんなって。好意を素直に受け取るのも男の甲斐性だろ。俺には無縁だが」


「私も構いません。お二人のご両親からのお許しがありますし」


 俺とルチアのトドメを見届けたアデリアが、満面の笑みで頷いた。

 計画通りって感じだな。


「満場一致ね。じゃ、アンジェリカ。お部屋を片付けてらっしゃい」


「……はーい」


 状況をコントロールする手腕は、見事としか言いようがない。

 これじゃあ旦那も主体性の無い奴になるワケだ。元からって可能性もあるが。

 アンジェリカが日頃からファルドに主体性を求めてるのは、こういった事への反発なんだろうな。


「他のみんなは、そうね……ルチアちゃんとヴェルシェちゃんは私の部屋でいい?」


「大感謝ッス!」


「あの、お邪魔にならなければ良いのですが」


「私は大丈夫よ。シン君は、どうしようかしら……」


 そこにソファがあるじゃろ?

 寝不足の身からすれば、とりあえず寝転がれる場所さえあればいい。

 もう部屋なんて残ってないだろうしな。


「僕でしたら心配ご無用。客間のソファを拝借できますか?」


「うーん……わかったわ。じゃ、寝る場所はこれで決まったからお風呂にしましょ。順番は私が決めるわね?」


 この子にしてこの親あり、とでも言うのか。

 テキパキ決めていく様子はすごく頼もしい。

 これで親子間が不仲であるという事実が無ければ、という話だが。



 とにかく、俺達は順番通りに風呂を浴びた。

 女子組はアンジェリカのパジャマを借りるという事になった。

 アンジェリカが白くてふわっとしたツーピース。

 ルチアはベージュのワンピース。

 ヴェルシェが紺色のネグリジェだった。


 女の子は服が多くて大変だが、こういう時は便利だよな。

 眼福だと思って暫く女子のパジャマパーティを眺めてたら、アンジェリカに小突かれた。


 ちなみに俺は、普段着にもう一度袖を通した。

 そろそろニオイが気になってくるな……一週間近くこの格好だったし。

 服屋に寄って新しい服を買うとしよう。


 それでも、まあいいんだ。

 良かったよ、こっちの世界でも風呂の習慣があって。

 お陰で疲れも汚れも洗い流せた。


 ちなみに俺は最後から二番目だ。

 一番汗とか汚れの多そうなファルドが最後。

 風呂場から水音が響いているのを聞きながら、俺は眠りに就いた。




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