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第三十話 「解ったぜ、親友!」

「ギュイイイッ!」


 一斉に威嚇を始める井戸潜み達。

 奴等は鎧の中で蠢き、まるで中に人が入っているかのように動いていたのだ。


 正直、薄々予想はしていたが……随分と乱暴なフラグ回収をしてくれるな。

 俺達が倉庫で井戸潜みを誘導してた時から鎧の中に潜んでいたんだろ!?

 無駄な浅知恵使いやがって!

 あと、中身超きめえ!


「野郎、ブッ殺してやらあ!」


 俺は怒りと共に太矢を放った。

 すると、鎧の上半身がガバッと持ち上がり、一回転した。

 太矢は弾かれてしまった。


 鎧の上半身はそのまま勢いを付けて、まるでプロペラのように回転する。

 人型に擬態する必要が無くなったと察した井戸潜み改め、鎧潜み達は、今度は人間離れした動きで翻弄しようと考えたんだろう。


 浅知恵とはいえ、侮れない。

 事実、ファルドもヴェルシェも、村人達も、その回転鋸みたいな動きに近寄れずに居た。

 何せ三メートルの巨体に見合った腕の長さだ。

 迂闊に近寄れば、三枚に下ろされるどころじゃない。


「ファイアーボール!」


 アンジェリカの放った火球は、上半身プロペラで掻き消される。


「あーもう! めんどくさ! スネーキーフレイム!」


「……!」


「駄目なの!? 私、もう空っぽなんだけど……」


 魔力が尽き掛けていたのもあるのだろうが、必殺のスネーキーフレイムも、ちょっと燃やしただけで消えた。

 何て言うかその、この錆の騎士って奴はどんだけめんどくせーボスなんだって話だよ。

 俺の魔物図鑑にも居ない奴だから、攻略法も完全にアドリブだ。


「ちょっと協力して欲しいッス」


 そこで、ヴェルシェが俺に耳打ちしてくる。

 割と、万策尽きた感あるんだけどな。


「火矢も駄目、丸太も駄目。じゃあ今度は原始的にワイヤーでも使ってみるってか?」


「あれ、よく解ったッスね。じゃ、さくっと張ってくるッス。ヘイト管理よろしくッス!」


「……マジでやるのか」


 倉庫ごと燃やすのは最終手段だしな。

 もう少し、このクソ虫共のワガママに付き合ってやるとするか。

 俺は錆の騎士を観察する。

 戦った事の無い相手なら、その動きをよく見るのが大切だってファルドが言ってたしな。


 ファルドと錆の騎士はじりじりと距離を詰めたり、逆に離れたりを繰り返している。

 遠距離攻撃の手段も封じられた今、コイツにどう対処すればいいか計りかねているといった具合だ。


「ん?」


 そういえばコイツ、大声を出したら急にターゲットを変えてきたよな。

 ある程度の距離があったら、音を頼りに動くのか?

 さっきから放り投げたナタを拾ったりもしないし、何だか妙だと思ったんだよ。

 ……試してみるか。

 俺はファルドの近くに移動する。

 錆の騎士は怖いが、大声でコミュニケーションするよりかはリスクが低いだろう。


「ファルド、今からコイツの足を引っ掛ける」


「どうやって?」


「コイツ、どうやらでかい声に反応してるみたいだ。ヴェルシェが罠を作ってくれるから、そこまでおびき寄せる」


「わかった。でも、気を付けろ!」


「オーケーだ」


 再び離れる。

 さて、どう呼び掛けようかな?

 とりあえず意味が通じなくてもいいか。

 俺の仮説が正しければ、単にでかい声を出せばいいんだから。


「やーいやーい! 錆野郎! お前の上半身ヘリコプター!」


「……!」


 案の定、奴はこっちにやってきた。

 いざ向かってくるとなると、すごいおっかないな。

 両脚がガクガクしてきた。

 ルーザラカの時は平気だったのに。


 やっぱり物理攻撃ってのは、直接的な恐怖があるんだろうか。

 そもそもファルドが手を出せないくらいなんだから、俺なんてもっと無理だ。

 だが、少しでも長く、コイツを引き付けておく必要がある。


「ヘイヘイヘーイ! ビビってるぅ~!?」


 挑発ついでに、奴の足下にボルトを一発。

 ――駄目だ、ホーミングして胴体に吸い込まれちまった。

 いっぺん対象を指定すると、もう一度掛け直したり効果が切れたりしない限りは、そこにしか飛ばないタイプなのか。


 マジで、さっきの引っ張り合いの時に撃たなくて良かった……。

 意外と不便なんだな、ホーミング・エンチャント。


「こっちッス!」


 ヴェルシェの呼び掛ける声。

 広場の一角にあった木々の間からだ。

 そこには地面から30cmくらいの高さで、ぶっといワイヤーが張られていた。

 俺は一目散に駆け抜け、そしてワイヤー飛び越えた。

 まあ、運動が苦手な俺でもそれくらいはね。


「うっしゃあ! 行くぞこらぁ! おらおらぁ!」


 俺は引き続き、錆の騎士を挑発する。

 ああ、心臓バクバクいってる。


「どしたどしたぁ! 楽勝ォ! ヒャッホー!」


 錆の騎士は上半身を高速回転させながらワイヤーの前まで歩いてきて、ついに――!


 ガシャンッと音を立てて、錆の騎士がずっこけた。


 錆の騎士も流石に想定外だったのか、わたわたしてやがる。

 鎧を着込んでるから、満足に起き上がる事も出来ないらしい。

 所詮は虫だな。


 とはいえ、まだまだ油断は禁物だ。

 俺は、村人達に叫んだ。


「丸太だろ! あと、油も!」


「あ、ああ!」


 まだもがいてる錆野郎の上に丸太を置いて、村人達がそれぞれの端っこに重そうな麻袋を括り付ける。

 これで滅多な事では起き上がれない、と思う。

 それこそ、鎧のパーツ毎に分離でもしない限りは。

 今までそれをしなかったって事は、裏側に鎖かたびらでも付いてるんだろう。


 そして、残った村人達に持ってきて貰った油は、倉庫から取り出したものだった。

 何に使う油かは解らないが、これを鎧にたっぷりとぶっかけて貰った。


「これでチェックメイトだ!」


 トドメに、たいまつを着火して投げ込む。


「ヂギィイイイイイイイッ!」


 虫達の断末魔。

 ボンッ、ボンッと断続的に響いてくる爆発音。


「危なかった……――うおぉ!?」


 バアンッと、一際大きい爆発音が木霊するや、炎は勢いを増した。

 井戸潜みは、可燃性のガスでも入ってるのだろうか。

 やれやれ、これで一件落着――、


「――あ、俺の剣!」


 ファルドが我に返り、辺りを探す。


 ……そういえば、引っ張り合った時に手放したんだっけ?

 あの後どうなったんだっけ?


 俺も一緒になって探した。

 だが、キャンプファイヤーの如く煌々と照らされている倉庫前広場なのに、見付かる得物といえばナタだけだった。

 俺の額に、嫌な汗が伝う。


「錆の騎士が持ったままだ……」


「探そう!」


 俺達はすぐに、燃え盛る鎧のほうへと引き返す。

 ボンボンと爆発している中で放置すれば、確実に武器として使い物にならなくなるだろう。

 最悪、熱と爆発でオシャカになってるかもしれない。


「あった!」


 剣は盛大に燃え盛る炎の、その横にあった。

 ファルドは慎重に近付いて、それを手に取る。


「熱くないのか?」


「大丈夫だよ。手袋越しだし」


 奇妙なことに、剣は刃こぼれどころか煤汚れ一つ無かった。

 そっくり原形を留めたままだった。

 ファルドはそれを鞘に収めず、抜き身のまま炎に照らしてみたり、マントの端で磨いてみたりしている。


 やっと俺達は、このめんどくさいギミックボスをやっつけたんだ。

 俺はその場にへたり込んだ。

 息は上がってるし、気付けば汗びっしょりだ。


「おいおい、シン。へばるにはまだ早いだろ」


「だって、疲れたし」


 最初の頃に比べたら体力付いたほうだが、まだまだだよな。実際。

 走り込みは重たい荷物を背負って移動してたし、別にいいと思ってたが……。

 これは、メニューに追加したほうがいいな。


「で、次は予言の通りに進んでみるか? あんまりアテにはならないと思うが」

「別にいいんじゃない。アテになろうが、なるまいが。私達は魔王を倒しに行くんだから」

「じゃあ、フォボシア島へ向かうぞ。春の聖杯を探す。誰かに先回りされる前に、俺達で無事を確かめよう」


 ファルドが俺に手を差し伸べてくる。


「解ったぜ、親友!」


 いきなり出世したな。

 これで俺も、めでたく友達から親友にランクアップか。

 俺が遠慮がちに手を握り返すと、ファルドが満面の笑みを浮かべた。

 つられて、他のみんなも笑う。


「ファルドの親友なら間違いないわね」


「ええ、行きましょう。フォボシア島へ」


「自分も燃えてきたッス!」



 *  *  *



 錆の騎士を見張るのも兼ねて、晩飯は倉庫の前で食べた。


 ちなみに、錆の騎士を除けば倉庫は無事だったらしい。

 箱も全部開けて、安全確認もバッチリだったという。

 ついでに言えば廃村もくまなく探して、何も居なかったそうだ。

 つまり、井戸潜みはさっき倒した連中で全部。


 食事は村で収穫した野菜とか、狩りで捕まえたイノシシや鹿が中心だ。

 素朴な味だが、ご馳走としては充分だろう。

 村役場の人達が、俺達に礼を述べていった。

 さっき野次を飛ばしてきた連中も、その中には居た。

 手の平を返して放たれた美辞麗句は、連中なりの罪滅ぼしのつもりなんだろう。


「それにしても、シンもよくやったよ」


 ファルドの言葉がピンと来ない。


「何が? せいぜい罠におびき寄せたくらいじゃね?」


「だから、それがすごいんだって!」


「あんなの、どうって事ないだろ。それまで身体を張って戦ったファルドや、限界まで魔術を使いまくったアンジェリカ、

 加護で支援し続けたルチアに、罠とか設置物を作ったヴェルシェに比べたら……」


 戦闘に関して言うなら、俺は誰にでもできる事をやっただけに過ぎない。

 褒められる程の事なのか?


「下手をしたら死ぬかもしれないのに、前に出たんだぜ! 武器を取られた俺の代わりに」


「私も、真似できなかったと思います」


「さっすが、シンさんッスね!」


「そーそ。音に反応するっていうのも、私はそんな気がしてても確信までは無かったもの。よく試す気になれたわよね」


 ……なるほど。

 以前の俺なら、アンジェリカの憎まれ口に酸っぱい顔をしてたかもしれない。

 だが、アンジェリカの本心を俺は知っている。


「ありがとな。みんな」


「は、はい!? 他の人ならともかく、なんで私にまでお礼を言うワケ!? そっちの趣味でもあんの?」


「別に。勇気づけられたってだけだよ。親友と、幼馴染みさんと、仲間達に」


「そ、そう……まあ、もっと自信を持ったら? アンタを選んだファルドの気持ちになりなさいよ」


 喋れば喋るほどドツボに嵌まってませんかアンジェリカさん。

 自分で言った言葉の意味を、冷静になってよく考えるがいい。

 そして今夜は枕に顔をうずめてジタバタするがいい!


 俺達はこの夜、空き家を借りた。

 以前ファルド達がグリーナ村に来た時も、この家に泊まったらしい。

 錆の騎士の残骸は、村人達に任せた。


 その夜は、何故か目が冴えて殆ど熟睡できなかった。

 錆の騎士と戦ったせいなんだろうな。




 森の聖典

 いつの時代とも知れぬ、古びた聖典。

 ビルネイン教の始祖でもある、森教の教えとは、全てに平穏を与える事。

 彼らにとって不穏は罪とされ、不穏を為す者達は平穏を教えられる事により、贖罪させられた。

 時代が下るにつれて彼らの教えはなりを潜め、今は伝承で語られるのみである。

 彼らの教えは、かつてエルフの森を侵略した者達が、贖罪のためにエルフを崇めた事に端を発する。

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