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第二十七話 「自分、有能ッスから!」


 城下町を出た馬車の中で、ファルドがぼそりと呟く。


「虫なんだけど、もしかすると……井戸潜み、かな」

「何だそれ?」


 一般的な魔物についてはゴブリンとオークの他にも幾つか設定したが、ありふれた連中ばかりだ。

 少なくとも、井戸潜みなんてものは記憶にない。

 何だ、他にも炎とか闇とかに潜む連中が居るのか?

 世界とは悲劇なのか? 絶望をくべるのか?

 ……有り得ないとは言い切れないのが、怖いな。この先、根性が必要だ。


「俺も自警団の先輩から聞いた話だから、よくは知らないんだけど」

「続けて、どうぞ」

「ああ。手入れのされてない古井戸とかに住んでて、水とかコケを食べるんだ。でも死体とかを投げ込んでしばらくすると、沢山湧いて出て来る」

「気色悪い魔物だな。ちゃんと死体の処理はしたのか?」

「でもその時に限っては俺達、殺した魔物は焼き払った筈なんだけど……」


 他ではやってなかったのは、単純にフィールドでの戦闘だったからか。

 まあ、オークやゴブリンの肉なんて野生動物も鼻を曲げるだろうからな……。

 焼却処分もアンジェリカが半分くらいやったし。

 そもそも井戸潜みとやらは井戸に住んでるんだから、わざわざ山とかまで出向いて食べに行くなんて事はしないんだろう。


「そうね。ルチアがそれ見て気絶したのが記憶に新しいわ」

「あ、その……その節はご迷惑をお掛けしました」


 グリーナ村といえば、キリオ曰くルチアが危ない目に遭ったとかいう話だったよな。

 この際だから、本人に詳しく訊いてみるか。


「やっぱり、危ない目に遭ったのか?」

「はい?」

「いやさ、俺達が伯爵の屋敷にお邪魔した時にな? キリオさんがグリーナ村って単語を聞いて苦い顔してたから」

「あの兄の事はよく解りません……恐らく、危機に遭遇したように見えたのでしょう。

 けれども、その時からファルドさんとアンジェリカさんが守って下さっていましたから」


 最初に城下町に着くまでは、こいつら三人でやってきたんだもんな。

 そしてヴェルシェは何故か、一言も喋らない。

 完全にだんまりだ。寝てるのか?

 と思ったその矢先――。


「んぶっ、もっ、もう、限界ッス……!」

「ちょっと御者さん! 一旦、馬車止めて!」


 アンジェリカが御者に叫び、馬車が止まった。

 それと同時に、馬車の外に放物線を描くドロドロの物体。

 最悪だ……。


 近くに大きな川が流れていて助かった。

 俺達はヴェルシェに顔を洗わせつつ、汚れた馬車を洗った。

 御者は「別にいい」と言ったが、ファルドはぴかぴかになるまで馬車を磨いた。


「うぅ……申し訳ねえッス……」

「誰かさんそっくり。乗り物酔いしやすいなら、一言そうと言ってよね。ほらっ!」


 アンジェリカが酔い止めの詰まった袋を差し出し、ヴェルシェはその袋を傾ける。

 そして、あろうことか中身の粉末をざらざらと口に入れ、飲み込んでしまった。

 水無しで行けるのか? それ。


「ちょ、ちょっと……」

「これは確かに効きそうッスね! 大感謝ッス!」

「……えっとね、それ。ひとつまみだけで良かったんだけど」

「え!?」


 ヴェルシェが呆気に取られ、それからすぐに土下座した。


「申し訳ねえッスぅううう!」


 そして正座したまま背負っていたスコップを腹に当て、切腹の構えを取る。


「斯くなる上はこのヴェルシェ・ロイメ! 腹をカッ捌いて臓物をぶちまけてのち、天日干しにして搾り取って粉末を抽出する所存ッス!」


 やめろ! さっきから虫とか、ゲロとか、臓物とか!

 俺まで気分悪くなってきたわ!

 この近くで飯を喰ってる人達に一人一人丁寧に土下座して周りやがれ!


「そんなグロい返し方されても迷惑なだけよ! この馬鹿エルフ! ちゃんと働いて返しなさい!」

「りょ、了解ッス!」

「まったく。世話が焼けるんだから」


 妙だな? アンジェリカの対応が穏やかすぎる。

 ここで俺が同じ事をしてたら、ブン殴られて数メートルは飛ばされてたかもしれない。

 或いは前髪が丸ごと灰にされていたかもしれない。


「なあファルド。アンジェリカ、ちょっと丸くなったか?」

「そりゃあほら、シンが二人に増えたようなものだからね」

「言うようになったじゃん。このっ、この!」


 俺は何の気なしに、ファルドのうなじを指先でくすぐる。

 ファルドの弱点だったようで、身をよじって笑いを堪えていた。

 俺はやった! ヨコシマな視線と殺気の籠もった視線を感じるが、知った事か!



 *  *  *



 ――さて、俺達が城下町を出発して、三日目の朝を迎えた。

 割と距離があるので、馬車を乗り継ぎながらあちこちの小さな村とか集落を経由するのだ。

 王城に向かう時は魔王軍が各地にまだ多かったせいで、二週間ほど掛かったらしい。

 それに比べれば今回は順調との事だった。


 俺達は日が沈むタイミングをアンジェリカに逆算して貰って、野生化した魔物の退治などをしていた。

 この辺だと、魔界狼とか大きなコウモリとかだな。

 ヴェルシェはダガーや幾つかの隠し武器を使った、まさしくシーフな戦い方だった。

 着火した香木で魔物を引き付け、後ろからサクッとやったり。

 村の周囲に魔物しか掛からないような罠を仕掛けたり。

 勿論、人が見れば一発で罠と解るような物だが、動物型の魔物はアッサリ引っ掛かってくれた。

 もちろんスコップによる殴打も、魔物の種類によっては有効だった。

 どんだけ多彩な武器を使いこなすんだ、こいつ。


「へぇー、やるじゃない」

「自分、有能ッスから!」

「どっかの荷物持ちも見習ってほしいわね」

「そうですよね」

「ねー!」

「ねー」

「君達、今に見てろよ?」


 もちろん俺だって、ただ荷物持ちをしていたワケじゃない。

 戦闘中は当たりもしないクロスボウで必死に狙った。

 最終的にホーミング・エンチャントを掛けて貰ったけど。


 腕立ても三十回を超えた辺りで安定したし、もちろんファルドに稽古も付けて貰っている。

 他にも村の薪割りを(手取り足取り教えて貰いながら)手伝ったし、野菜直売所で買った食材を使って、俺の世界での食事の再現にも勤しんだ。

 俺だって、何処かの八男坊みたいにマヨネーズとか再現してみたいんじゃ!

 ああ……なんで俺は魔法が使えないんだ。


 ちなみに本日の朝ご飯は素泊まりの宿で食べた、俺が開発した似非肉じゃがだ。

 この世界にも芋はあるが、食感も味も微妙に違う。それに豚肉じゃなくてイノシシ肉を使った。

 みりんとかしょうゆとか、そういった調味料はもちろん無い。これは塩こしょうで代用した。

 もちろん味の評価は最悪だったが、ダイエットには良さそうって事でどうにかなった。


 宿屋を出る時に、俺は似非肉じゃがのレシピを宿代と一緒に渡した。

 いつか美味しく改良されている事を願って。


 それから、馬車の発着場へと向かった。

 割と小さな村でも、この往復馬車で生計を立てている人は多いのだそうだ。

 王都へ出稼ぎに行く若者とか、馬車を管理するだけの財力のない行商人とかが利用したりで、何かと稼ぎがいいらしい。


 馬車で迷いの森の前まで送って貰うという話だったが、どういうワケか迷いの森も突っ切った。

 不審に思ったファルドが御者に尋ねると、連合騎士団と協力し合ってトンネルを掘ったり交易路を敷いて森を直進できるルートを作ったそうだ。

 今の今までそれが出来なかった理由は、この近辺を統治していた領主が頑なに拒否したからだという。

 しかし、何が起きたかその領主は心変わりし、あっさりと王立交通ギルドに協力しだした。

 一体、誰が握らせたんだろうな?

 御者が、にやりとしながら振り向く。


「ともあれ、これで二週間も馬車で大回りせずに済むという事さ。料金は据え置き。領主サマサマって奴よう」

「なあファルド、迷いの森を突っ切ったのは、やっぱり近道だからか?」

「まあ、ね。あの時はそれが一番早かったし」

「ちなみに私がそのルートを考えたのよ」

「流石アンジェリカさんッス!」

「ほ、褒めても何も出ないわよ!」


 いいなあ。俺も流石お兄様とか言われたい。

 この世界ではタッチタイピング(俗に言うブラインドタッチ)なんて認識して貰えないし。


 途中で何度か、野生の魔物という設定の――二本足で歩くカボチャ(顔までジャック・オー・ランタンそのもの)が進路上に現れて通せんぼしてきた。

 この魔物は俺の設定テキスト通りならば、ジャコーって名前だろう。

 ドが付く程の、ストレートなネーミングだな。


 このジャコーを、御者がクロスボウで容赦なく射殺していった。

 しかもたった一発。固定目標とはいえ、俺よりよっぽど優秀だ。

 で、射止めた魔物は回収された。御者曰く、小遣いくらいにはなるらしい。

 何に使うのかな。食用?


 ちなみにアンジェリカは最初に此処に来た時、このジャコーを燃やしまくったとか。

 濃霧のせいで火力が足りなくて苦労したとかいう話も聞いた。



 *  *  *



 そんなこんなで、日がすっかり高くなった頃。

 俺達はやっと、グリーナ村に到着した。

 畑ばっかりの殺風景な景色だが、牧歌的な雰囲気だ。

 どの家も木造の、ログハウスって言うのかな? 細い丸太を重ねたような感じだ。

 あちこちにリンゴの木が植えてあって、農家の人達が収穫している。


「や、おたく等は! あの時の!」


 農作業をしていた村娘が、ファルドに手を振った。ファルドもそれに応じる。


「リーファじゃないか! 元気してた?」

「おっすおっす! お陰様でバリバリだよ!」


 どうやらあの村娘はリーファと言うらしい。

 黒髪に日焼けした浅黒い肌、活発そうな人だ。

 土で汚れたズボンが、よく似合ってる。


 よく見ると、歳は俺達よりちょっと上かな?

 二十代くらいだと思う。

 二十歳を超えたら娘って言わない気がしないでもないが、まあ俺の元居た世界でその年齢でも“女子”で通用するから別にいいか。

 ちなみに、その胸は平坦であった。


「……」

「うぐほぉ!」


 アンジェリカの裏拳が俺の腹にクリーンヒットする。

 くそ、痛すぎて言葉に出来ない。

 そんな俺の視線とかコントを余所に、リーファは近くの丸太に腰掛ける。


「もしかして、おれに会いに来てくれたとか?」


 この世界にも“俺っ娘”って居るんだな。

 俺が横を見ると、アンジェリカは親指をかじっていた。

 すぐ焼き餅焼いちゃうんだから、この子ったら。

 二発目の裏拳が俺の眉間にヒットした。


「いや、建物に大きな虫が湧いたって聞いたんだ」

「そうそう、それなんだよ。ウチの自警団も何人かやられて、今は療養中。よりにもよって、倉庫に湧いて出て来るなんて」

「俺達で、どうにか出来ないかな?」

「……そうだな。村役場の会議では燃やすって結論になったけど、おたく等が来たなら話は別だ!

 ちょっくらみんなに声を掛けてくる! 緊急会議しなきゃな!」

「あ、俺も一緒に行っていい?」

「助かる! 西のほうを何軒か回っといて!」



 小さな村だからか、そう時間は掛からなかった。

 最初にリーファと出会った場所に戻ってきて、集合だ。

 アンジェリカが遅れて戻ってくる。

 途中で抜け出して別行動だったのは、大方、買い物の相場が変わってないかのチェックだろう。


「満場一致であんた達に任せる事になった! 悪いが、今回も頼んだ」

「もちろん! それが俺達の役目だからね!」

「ホント助かるよ。騎士団連中の対応も後回しにされたし、それに、その……」

「それに?」

「魔女の墓場も、今回ばかりは流石に専門外だしね」


 空気が一瞬で重くなる。

 公然の秘密とは何だったのか。しっかり知れ渡ってるじゃねーか!

 どうなってんだ王様!

 ファルドが苦い顔をする。


「来たんだ、魔女の墓場」

「おうよ。口は悪かったが、気のいい連中だったね」


 気のいい連中? お前は何を言ってるんだ。

 魔女を倒すのに夢中で民間人(俺だよ!)を足蹴にするような、クソofクソな連中だぞ。


「うぉい! あんまり怖い顔しないでくれよう!」

「なあファルド。井戸潜みとやらが湧いたのって……」

「そうかもしれない。なあ、魔女の墓場が来たって事は、やっぱり魔女がこの村に?」

「うん。例の邪教集団の教祖を名乗ってさ。積年の怨みがどうとかって喚いてたな。まあ、墓場の連中が片付けてくれたけどね!」


 リーファはそう言って、腰に手を当ててワッハッハと笑う。

 豪放磊落とは、コイツみたいな事を言うんだろう。

 ちょっとお馬鹿さんっぽいのが心配だが。


 それにしても、そうか。

 村人達にとっては、魔女も魔物も一緒なんだな。お伽話みたいに。

 悪い事するから殺して終了、めでたしめでたし――ってか?

 考えなくても、こんな思想は危険だ。


 でも、悪い魔女が居るのも事実だ。

 リントレアで守人を殺した魔女が、ルチアの母親を殺した魔女が、そうだったように。

 そこにどんな理由があったとしても、人が魔女を怨む事を変えられない。


 ……まずいな。

 もし、元のシナリオ通りにアンジェリカが魔女になったら、俺達はアンジェリカを守りきれるのか?

 勇者と一緒に行動していますって言えば、連中も手を出してこないのかな……。


「で、その死体はどうしました?」

「さあ? 詳しい話はおれも聞いてないな。ちゃんと処理してくれたと思うけど」

「虫の魔物は、その魔女の死体がしっかり処理されなかった事が原因かも。近くに古井戸はあるかな?」

「隣の森を抜けた先に、廃村があるよ。誰も近寄らないけど」

「あったの!? 俺達が最初に来た時に教えてくれよ!」

「だ、だって、邪教はこの村を拠点にしてたから! あいつらもビビって近寄らなかったくらいなんだよ!?」

「十中八九、そこの古井戸に捨てられたんですよ。魔女の死体は」

「くっそー! 魔女め、死んだ後にまで迷惑かけやがって!」


 リーファが地団駄を踏む。

 あんな詰めの甘そうな連中に頼り切った、君達グリーナ村の一同にも原因があると思うが。

 とは口が裂けても言えない。少なくとも今は。

 問題を解決したら、お説教だな。


「その魔女は迷惑だったかもだけど、ちゃんと確認しなかったアンタ達も悪いって理解してる?」


 あー……アンジェリカが前に出た。

 言いたい事を先に言ってくれるのは有り難いが、今はまだその時じゃない気がするんだよなあ。


「う、そ、そうだけどさ」

「今度から、外部に委託する時はしっかり立ち会う事。特に後始末は!

 世の中の大人って、だいたいそういう所から新しい問題を作っちゃうんだから!」


 非の打ち所のない正論だな。

 実際、そういう連絡の食い違いが原因でイラストを何度もリテイクさせられた絵師さんも居るらしいからな。

 しっかりやって欲しいもんだ。


「へ・ん・じ・は?」


 アンジェリカが、ずいっと前に出る。

 至近距離で上目遣いに睨まれてるからか、リーファがたじろいだ。

 大の大人がガキに説教されちゃ、立つ瀬がねーな。可哀想に。


「悪かった! 今度からそうする! この通り!」

「おお! アンジェリカさん、流石ッス! じゃあ自分、アンジェリカさんが虫の最後の一匹を始末する頃に、村の皆さんに伝えてくるッス!」

「はい!? なんで私が虫にトドメ刺すって流れにすんのよ!」

「えッ! 自分、てっきりアンジェリカさんが格好良く、虫さん退治するのかと思ったッス」

「そりゃあ、その……頑張るわよ。でも全部倒した事を確認できてから、村のみんなに見て貰ったほうが安全じゃないかしら?」

「ハハハ、アンジェリカちゃんの言う通りだね。じゃ、終わったら声掛けてくれーい!」


 俺達はリーファを見送る。

 アンジェリカは片手で頭を押さえながら、やれやれといった具合に首を振る。


「ホンっト、調子狂うわ……」

「自分、何かまずっちゃったッスか?」

「いや別に。それより、アンタって罠が得意よね? 虫を一箇所に集める事って出来る?」

「出来なくはないッス。罠に引き寄せられてくれたらッスけど。ちょっと買い物してもいいッスか?」

「オーケイ。頼んだわよ」


 俺達は共有財産を使って、村の道具屋とかを回った。

 ついでに腐ったリンゴとか、かまどからベタベタする物質を集めた。

 腐ったリンゴとベタベタはタダだ。腐ったリンゴは肥料になるんじゃないかとも思ったが、ゴミ扱いらしい。


 次に廃墟から拾ってきた鍋を倉庫の前まで持ってきて、石のかまどを即席で組み上げた。

 川から水を汲んできて、鍋に移す。


 アンジェリカが火を起こして、ヴェルシェが腐ったリンゴとベタベタを小麦粉と幾つかの得体の知れない粉末を混ぜ合わせて煮詰める。

 ははあ。さては、いわゆる井戸潜みホイホイを作るつもりだな?


 ちなみに倉庫の前を見張っていた自警団連中は、一旦下がって廃村を探す事にするらしい。

 何かあった時はのろしを上げるという事で、打ち合わせも済ませた。

 他にも、倉庫の地図を複写して貰ったりもした。

 この倉庫は、残念ながら俺のパソコンにもデータが無いからな。

 完全に未知の領域というワケだ。


「後はアーモンドと熟してない桃があれば完璧だったんスけど」

「そうなの?」

「そいつで屍のニオイを擬似的に作るんスよ。リンゴとベタベタだけじゃちょっと不安ッスね」


 屍って単語に、ヴェルシェを除く全員が顔を歪める。

 いい単語じゃあないからな。


「……仕方ないわ。王国じゃ取れないもの。共和国ならまだこの時期でも何とかなるかもだけど」

「これって魔物の死骸じゃ駄目なのか?」

「駄目ッス。腐った魔物から疫病が発生すると大変なんスよ」

「私も反対です! 想像しただけで、うぷっ……」

「シン? アンタ私達に恨みでもあるの?」


 アンジェリカがロッドを取り出し、戦端から火花を散らす。


「わー! 悪かった! 悪かった!」

「んじゃとりあえず、これで完成ッスね! 後はこれを建物の近くに――あっつ!」


 ヴェルシェが鍋を運ぼうとして、盛大に落っことす。

 鍋は脆くなってたのか、地面に激突して砕けた。もちろん、中身はぶちまけた。

 なるほどね。有能(笑)。


「やっちまったなあ」

「やっちまったッス……」

「どうしよう、これ」

「正攻法で行きましょう。最悪の場合、アンジェリカさんは目を瞑って、火の魔法を使って下さい」

「……頑張るわ」


 倉庫が、実際の大きさの数倍ほどの存在感で、俺達を威圧しているように見えた。

 俺は地面にこぼれた井戸潜みホイホイを一瞥してから、倉庫へとゆっくり足を進めた。




 ジャコーの死骸

 カボチャのような魔物、ジャコーの死骸。

 食用には適さないが、その外殻は様々な使い道がある。

 火を付けると勢い良く燃えるため、燃料としても重宝する。


 魔物は太古の昔から人々に危害を加えてきたが、新しい魔物が姿を現す度に、

 すぐに利用価値を見出されてしまった。

 その事実こそが、人の業というものなのかもしれない。

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