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第二十三話 「折り紙って、知ってます?」


「うーん……仕事、仕事かあ……」


 就職活動なんてまだまだ先だと考えてた俺は、まさか異世界で本当に職探しをする事になるとは(ちょっとだけしか)思わなかった。


 だって勇者ファルド一行が、そんな一般的な仕事をするなんて原作では全く書かれてなかったんだ。

 まして、ファルドは原作に同じく鍛冶屋の才能が全く無いからフェルノイエの自警団に就職したらしいし。

 アンジェリカもルチアも、何たらワーク的な所で紹介されるような一般的なバイトなんてやった事すらない。


 どうする、俺。

 元の世界でのアルバイト経験を活かそうにも、ここは異世界!

 俺の知ってる常識が、そのまま通用するとは思えない。

 しかも職業斡旋所で紹介されるのは、大抵は職にあぶれた連中の為の仕事だ。

 元の世界で言うブラック企業みたいな所にも、平気で行かされる。


 雪の翼亭は駄目だ。

 おっさんに「料理の才能ねェ奴を雇ってもなあ」なんて苦笑いされた。


 ちなみに、アンジェリカは臨時の家庭教師を格安で請け負った。

 貴族の坊ちゃん嬢ちゃん達に魔術を教えるそうだ。

 戦争で財を失った貧乏没落貴族はそこかしこに居るそうで、それでも子供達を無教養なままにしておくワケには行かないんだとか。

 そしてアンジェリカは曰く子供好きとの事。

 つまり、双方にとってwin-winな関係ってワケだな。


 現にアンジェリカは、カフェのテラスで休憩ついでに七歳くらいの女の子も連れて来てる。

 下々の者達の生活を教えようって事か。

 俺がアンジェリカに声を掛けようとすると、その女の子が俺に手を振ってきた。


「あ! じめんドコドコおじさん!」

「誰がおじさんじゃ! 俺はまだお兄さんだッ!」


「え? 何、知り合いだったの?」

「いや? 知らない子ですね……」

「えーっ! 中央広場でドコドコしてたでしょ! 見たもん!」

「アンタは何をしてたのよ……」


 あー、アレか……。

 あんまり思い出したくないな。恥ずかしい記憶だ。



「アン先生はね! とってもわかりやすく教えてくれるのっ!」

「レベッカがとってもお利口さんだからよ。飲み終わったら、屋敷に戻って続きをやりましょ!」

「うんっ!」


 懐いてるなあ。

 俺に蹴りをかますアンジェリカの姿が嘘みたいだ。

 それにしても、アンジェリカが家庭教師ねえ……。

 いつも教えて貰う側だったから、教える側に回るのが新鮮なのかね。

 まあ解らないでもない。

 俺もラノベを読み聞かせながら、その世界観を児童館の子供達に教えるのとか好きだったし。


「そういう事だから。働かないなら飯抜きにするわよ」

「とりあえず、みんなの仕事を見学するんじゃ駄目か?」

「駄目に決まってるでしょ」

「そうは言ってもなあ……」

「斧があるんだから木こりでもすればいいじゃない」

「バカヤロウ。二日で戻る森林伐採があるか。俺じゃあ一日一本ペースだぞ」


 その程度で採れる木材じゃ元が取れないだろ。

 ったく、いいところのお嬢様は、そういう所が世間知らずなんだよな。


「じゃあ風呂屋の薪割りでも手伝ってきなさいよ」

「それも人手が足りてるってよ。俺みたいな貧弱男子に払う金なんざ無いからサウナで腕立てでもしてろって言われたよ」

「ぶっ……! あはははは! サウナで腕立て!」

「笑うなよ。子供が見ている」

「前髪弄ってる! 苦しい、あははははは! ひー!」


 変なツボに入ったのか、アンジェリカは暫く笑い転げていた。

 こいつに相談した俺が馬鹿だったよ!

 お前はそこで暫く腹筋でも鍛えてろ!

 ウェストは絞らなくても良さそうだけどな。充分だ。

 ただ、あんまりジタバタしてると、スカートの中身が見え――。


「痛ぇ。子供が見てる前でグーはねーだろ、グーは」

「いい? レベッカ。あやしい視線を感じたら、迷わず殴るのよ。男はみんな、狼なんだから」

「はぁーい! アン先生!」

「いやいや! 余計な事を教えちゃ駄目だろ」

「貴族の令嬢なんて、攫われたらアウトでしょ。いいからアンタは仕事探しなさい!」

「へーい……」



 *  *  *



 俺は次に、ファルドが働いているという所へ行ってみた。


「さあさあ寄ってらっしゃい! 掛かってこい! 腕相撲一発勝負だよ!」


 ファルドは目の前に置いた樽の蓋を開けて、蓋の裏側に貼り付けた銀貨を見せびらかす。

 薄々予想はしてたが、マジで腕相撲だよ。

 お前それ、どっかの邪竜さんと同じ事やってるじゃんかよ……。


「俺に勝てたらこの樽の中のお金を全部プレゼントだ! そこのおじさん、どう?」

「俺かい?」

「一回12ガレットだよ! 負けてもリンゴを一つ我慢するだけ!」

「その勝負、乗った!」

「そう来なくちゃ!」


 樽をよく見ると、何たら危機一髪みたいな穴が空けられていて、挑戦者はそこにガレット銅貨を12枚入れていった。

 中には小切手をねじ込もうとする奴も居たが、ファルドがそれを止めて、懐に入れた。

 暫く見てたが、マッチョな連中も技巧派っぽいインテリも、負けてはしょぼくれて列の最後尾へと並び直して……、

 ――って並び直すのかよ!


 まあ回数が増えればそれだけ、勝った時の取り分が増えるけどさ。

 大方、ファルドが疲れる頃合いを見計らってるんだろう。

 昼飯時が来て列も途絶えてきた頃に、俺は樽を揺さぶるファルドの所へ歩み寄った。


「シン! 丁度良かった。今から銀行に運んで、これを両替して貰おうと思ってたんだ」

「朝からずっとそれか?」

「ああ。故郷でも負け知らずだったんだ。お陰でこっちでも樽の中身は増える一方だったぜ! とりあえず半分くらい行ったかな?」


 っていうか、マジで全勝したのか……。

 ファルドはドの付く標準体型なのに、よくそんなパワーがあるな。


 樽は馬鹿みたいに重たくて、俺は齢十八にして腰を壊すかと思った。

 途中でファルドが下から支えて、俺が樽の縁を掴むやり方に変えたら楽になったけど。



「小切手も含めて、合計673ガレットです」


 銀行員のお姉さんがそろばんみたいな道具を片手に、両替証明書とやらをファルドに手渡す。

 100ガレットで銀貨一枚分だから、今回は銀貨六枚と、銅貨が七十三枚か……。

 数が半端なのは入れすぎたりしたんだろう。


「やるじゃん」

「だろ?」


 俺とファルドは互いの拳をコンと打ち合わせ、笑顔を交わした。

 ま、俺の取り分は樽の運搬で12ガレットだけだけどな。

 あと、所得税は無いらしい。

 王国の税制度はよく知らんが、まあ得をしたって事でいいよな。


「じゃ、俺はもう一稼ぎしてくるよ。シンは仕事、見付かった?」

「それが全然でさ」

「早く見付かるといいな。頑張れ!」

「おう」



 *  *  *



 俺は近くの果物屋でリンゴを買い、それをかじりながら(異世界に来てやってみたかった事だ)、ルチアの居る教会へと足を運んだ。

 ビルネイン教は金稼ぎに寛大で、労働は奉仕活動と呼ばれている。

 お布施から賃金を出しているそうだ。

 これはビルネイン教に所属する聖職者という証さえあれば、何処の教会でも奉仕活動をすれば賃金が出るらしい。

 しかも、入信する者を月に一定数以上出せばインセンティブ――つまりボーナスも貰えるらしい。

 嫌なところがシステマチックだな……中学生当時の俺には絶対に思い付かなかっただろう。


 ルチアは他にも目的があって、ザイトン司祭がどういう考えで動いているのかを探るつもりらしいのだ。

 おっかねー事しやがる。どこぞの赤もやしがその話を聞き付けたら、さぞかし憤慨するんだろうな。


「シンさん。職探しは如何ですか?」

「全然駄目。斡旋所の仕事も都合が合わないのばっかりで、俺はもうどうしたらいいのか……親方の所は断られるしな」

「そうなのですか……困りましたね」


 これが俺のお袋とかだと、言い訳しないでもっとちゃんと探しなさいって言われるんだろうな。

 気持ちは解るが、俺は俺なりに頑張ってその結果駄目だったって……いやこれじゃあ俺はまさに駄目人間じゃねーか。

 くっそ、何かいい方法……!


「ぅおォい、ルチア! 男連れ込んでサボってないで、ガキ共の相手しろよ! アタイは今、手が離せないんだ」


 遠くから、女の声が聞こえてくる。

 シスターの割に粗暴な声だな。姐御肌的なアレか。


「あ、はーい! すみません!」


 ルチアはベンチから立ち上がり、装いを整えてから小走りで去って行く。


「では、シンさん、頑張って下さいね!」

「頑張るわー」


 ちょっと面白そうだから、やりとりに耳を傾けてやるとしよう。ついでに有力な情報を聞く事が出来たら万々歳だな。


「手が離せないとは? またガラスを割ってしまわれたのですか」

「っせェわ! テメーこそ何を不埒な事かましてんだ。いつの間に男遊びなんて覚えやがって、アタイは悲しいよ」

「彼は単なる仕事仲間であって、恋人はいませんよ」

「ホーンートーかなぁー?」

「……司祭様に報告してまいります。不純異性交際を教唆してきたと」

「うわッ、やめて! やめてくれ! 後生だ!もう半年はアタイが便所掃除なんだ!

 このままじゃ来年もずっと便所掃除だよ! 便所女って呼ばれちまうよ~!」

「そうですか。残りは私が片付けておきます。子供達と遊んできて下さい」

「お前ホント、子供苦手だよな……虐められでもしたのか?」

「司祭様には貴女が頭からガラスに突っ込んだと報告――」

「――わぁー、わ! やめてくれ!」


 ルチアはアレだな。

 おしとやかに振る舞おうとして失敗してるタイプだな。

 それと、子供が苦手ってのは意外な設定補完がされたな。

 アンジェリカよりよっぽど子供が好きそうな感じなのに。

 そろそろ藪をつついて蛇を出してみるか。

 とんでもない毒蛇が出て来そうだけどな。


「ルチア、聞いてたぞ。子供が苦手なら、俺が相手になろう」

「――!」


 ルチアは顔を真っ赤にして、姐御(仮)の後ろに隠れた。

 いやそういうの誤解されるからやめてくれませんかね。

 お前にとって、俺は単なるホモ妄想のネタでしかない筈だろ。

 ……自分で言ってて悲しくなってきた。


 姐御(仮)はルチアとお揃いの格好だ。

 て事は、制服なんだろうな。顔はまあいいほうだと思う。

 鼻っ面の絆創膏とか、ぼさぼさの茶髪とかが荒っぽい印象を与えるって程度だ。


「……子供が、恐ろしいのです」

「そりゃまた、なんでだよ」

「か細くて、身勝手で、そのくせ純真無垢で、熊にでも襲われようものなら簡単にへし折れそうで……」


 あー、またワケ解らん事を言い始めたぞ。

 熊に襲われたら大人でも死ぬわ。

 とりあえず何らかのトラウマを持っているらしい事はよく解った。

 だったら、なんでコイツは教会で聖職者やってるんだろうな……。


「まあ、事情は解った。えっと、そちらの同僚さん……」

「クレスタって呼んでおくれ。アンタは?」

「シンと言います。クレスタさん、子供達の所へ案内して貰えますか」

「あいよー、じゃ、ルチア。男はちゃんと選びなよー!」


 あ! 遠回しに馬鹿にしやがったなコイツ。

 ジャップで悪うござんしたね。

 いや、この場合は無職である事を馬鹿にされたのか……。


「……はい、そうですね。私も友達は選ぶべきでした」


 ルチアもからかわれたのが気に食わないのか、ガラスの破片を握ってクレスタのほうへ向けてきた。

 俺は教会に隣接する孤児院へと案内される。

 割と小走りだったのは、ルチアがプチおこだったからだ。


「あすこのガキんちょ共の相手をして欲しい」

「クレスタさんは?」

「アタイは……司祭様に報告しないと。じゃ、頼むわー!」

「はぁー……」


 いいのかそれで。っていうか、俺がやっていいのか。

 これも奉仕活動の一つじゃないのか?

 ……まあ、いいか。俺のポジションは遊び人だし。

 遊び人らしい仕事でもやるとするか。

 カソック姿のおばさん達が俺を怪訝な目で見てくる。


「あの……如何されましたか?」

「仕事探しをしていたら、その……ここに来たっていうか」


 嘘は言ってない。


「たぶんクレスタの仕業よ」

「あのお転婆娘は本当にもう……お客人に、とんでもない事をさせてしまい、申し訳ありません」

「いえいえ。丁度、暇だったもので。幾つか、質問をしても?」

「え? はい、構いませんが」


 俺のインタビューの結果。

 歌は専ら聖歌。アニソンは駄目っぽいな。

 本は聖書と、無難な絵本。

 Web小説は神を否定する話もあったりするし、小さい子供に向けた作品は皆無だ。

 十歳にも満たない子供には難しすぎる。

 遊具の設置とかだと、材料費とか安全性とか、子供がそれを巡って喧嘩になるかもしれない。

 とどのつまり、俺がやろうと思った事は悉くアウトだ。


 歌でもなく、本でもなく、すぐに作れる何か……。

 うーん、何かあるだろ。考えろ、俺。

 そんな時、俺の目の前に一枚の何も書かれていない紙がひらひらと舞い降りた。


「お? なんだなんだ」


 俺はそれを手に取り、じっと眺める。

 絵は……俺の知らないこの世界限定の何かをリクエストされたら、描ける保証が無い。

 それに、時間が掛かりすぎるな。

 待ってる間に子供達が退屈しちまう。


「かえせっ!」

「ちょ!?」


 ビリッと紙が破ける。

 三分の二が俺の手元にあり、残りは引ったくろうとしたやんちゃ坊主の手元だ。


「う、あ……」


 やべえ、ぐずりだした!


「うわああああ! しらないおじさんがやぶったー!」

「ごめんなさいね、この子、自分の物を取られるとすごく敏感で……」


 幸い、おばちゃんは「何をしてくれたの」って凄むタイプじゃない。

 が! しかし!

 見ろよ、子供達が一斉に俺を睨んでいる。

 今にも刺し殺すんじゃないかって目で。

 やめろ、お兄さんは泥棒なんかじゃないんだ! おじさんでもない!

 俺は咄嗟に紙を目の前に掲げて、視界を遮る。


 ――ん? よく見るとこれ、長方形だな。割と綺麗な形だ。

 この世界は中世ヨーロッパとかその辺りに近い文化レベルだろうから、折り紙って無いんじゃないか?


「あの。すいません」


 俺は試しに、一番近いおばちゃんに話し掛ける。


「折り紙って、知ってます?」

「はあ……存じ上げませんが」


 おばちゃんは完全に困惑した顔で、首を傾げる。

 行けるぞ、これは。


「じゃあ、お見せします。皆様はハサミを用意して、長方形にした紙を子供達に」

「え? あ、はい」


 俺は折り紙のサイトをググって、鶴の折り方のページを開く。


「さあ子供達。お詫びにお兄さんが、面白い物を作ってあげよう」


 子供達は眉根を寄せながら、俺の手元を覗き込む。

 暇そうなおばちゃん達も、視線が釘付けだ。よせよ、照れるじゃねーか。


「まずは一つの角とその反対側の角を目印にして、半分に折ります。何に見えるかな?」


 反応が薄いな。

 俺は遠くにも見えるように、すこし高く掲げる。


「さんかっけい!」

「正解! 流石だぞ少年!」

「かんたんだよ。つまんない!」

「フッフッフ、これで終わりと思ったかな? 次は……これを更に半分!」

「おお……?」

「で、この三角形の長いところに指を入れて……?」

「お、おおお!」

「開く! 反対側も開く!」

「すげー!」

「ひらいたー!」

「また四角くなった!」

「諸君、驚くのはまだまだ早いぞ? この四角形の端っこをだな、折り目に合わせて――」


 一般的な鶴の折り方らしいんだが、俺は勿論、一度もやった事が無い。

 やる機会も興味も無かったからな。

 どうにか説明しながら、俺は折り鶴を作り上げた。

 やけに首が太くて翼もロクに開けない、恰幅がいいだけのクソ不格好な折り鶴だ。

 だってしょうがないじゃん!

 俺は(作るの)初めてなんだよ! 優しく(採点)しろよ!


「さ……さあ、これは何に見えるかな?」

「ドラゴン!」

「ひこうせん!」

「ちがうよハーピィだよ!」


 あー、喧嘩し始めた。

 だが、これをいかに鎮められるかが、俺の腕前の見せ所だ。


「正解は、ツルという鳥だ。絵本で見た事があるかな?」

「ある!」


 よしよし。

 そして俺は周囲を見渡し、状況を確認する。


「今度はみんなも、お兄さんと一緒に、作ってみよう」


 こうして俺は日が暮れるまで折り紙を続けた。

 途中からシスターおばちゃんズが、こぞって綺麗に作ろうとしてくれちゃったから、俺はその都度、新しいネタに挑戦した。

 子供達から無茶ぶりのリクエスト(ドラゴンやらグリフォンやら)を受けるたび、その手の折り方が無いかググった。

 他にも、絵の具を持ってきて色を塗る子も出て来た。


 そして!

 きっかけは借り物だったし、不格好な真似しか出来なかったけど……。


 俺は間違いなく、シスターおばちゃんズを含めた孤児院のみんなに、新しい旋風を巻き起こしたのだ!

 そう、折り紙ムーブメントを!


「おお、シン! こんな所にいたんだ!」

「また凄い物を作り始めたわね。私にも教えてよ」


 どうやらルチアに合流しようと思ったらしいファルドとアンジェリカが、孤児院の前を通り掛かった。


「俺から直接教わるより、シスターさん達に教わった方がいいかもしれないぞ。俺、ぶきっちょだし」

「あっそ、まあいいわ! ルチアにも声かけてくるわね!」

「あいよ! みんなで作ろうか。飯まで時間あるだろ」



 *  *  *



 その後、報酬の約束も無しにやってた事がバレて、危うくアンジェリカにブッ飛ばされそうになった。

 大勢の子供達の前で正座させられた俺と、それを仁王立ちで見下ろす鬼の形相なアンジェリカの光景……それはまさしく地獄だった。


「何か申し開きはあるかしら?」

「いえ……こんな俺にも出来る事があるんじゃないかって思ってですね、ハイ」

「お金を貰わなきゃ生活できないでしょ。アンタはお母さんじゃないんだから」

「アンジェリカ様の仰る通りです、ハイ」


 だが、協会側からそれなりの謝礼金が支払われたので事なきを得た。


 結局他人のふんどしなんだから、小説の読み聞かせと何が違うかって一瞬思ったりもした。

 ただまあ折り紙の技術提供というより、子供達の遊び相手になった対価って事でいいだろう。

 俺はそのように、自分を納得させた。


 ちなみに、謝礼金はクレスタの給料から天引きした額だ。

 ヒモ扱いしてきた奴から(間接的にとはいえ)奪った金で食う飯は、最高に美味いな。

 我ながら歪んでるとは思うが、一生懸命働いたんだ。

 俺が、俺のやり方で、俺自身の意志で。

 文句なんて、言わせるものか。




 不格好な折り鶴

 日焼けして黄ばんだ、不格好な折り鶴。


 ビルネイン教では、折り紙という儀式が存在する。

 遠洋の島国から伝来したものだが、その島国は今を以て存在が明らかになっていない。


 だが、旅人達の無事を祈るという気持ちに洋の東西は関係無いのだろう。

 その証拠に、人気の途絶えた古い聖堂でも、よく似た折り鶴が幾つも発見されている。

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