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エピローグ2 そうだ、小説家になろう


 この俺、志麻咲信吾しまざき しんごは大学一年生である。

 俺はある日突然、中学生時代に投稿して未完のままだったWeb小説『勇者と魔女の共同戦線レゾナンス』の世界へと召喚されてしまう。

 かつての記憶を頼りに脱出方法を探るが、この世界は当時の設定とは大きく異なっていた。


 だが俺は、沢山の仲間達と出会った。

 時には裏切られたり、時には失ったりもした。

 だが、悲しい事より嬉しい事のほうがずっと多かった。


 俺の作品がどれだけ愛されているかを知った。

 俺自身がどれだけ愛されているかを知った。


 そうして俺は、かつての情熱を取り戻し、そこに潜んでいた陰謀を見事に打ち破り……。


 で、今は冬休みの中頃だ。

 充実したクリスマスと正月を過ごせた。



 結論を言うと……、

 俺は未完放置する(エタる)のをやめました!



 書きかけだった『勇者と魔女の共同戦線レゾナンス』を、この四ヶ月弱でバッチリと完結させたのだ。


 俺とメイの活躍は、レジーナや既存の連中に割り当てた。

 作者登場は、流石にちょっとな。

 それに“シン”と“メイ”は俺にとって特別な名前だから、軽々しく使いたくないのもある。


 そもそも読者さんの代理というか……感情移入して欲しい奴なら、ファルドが既にその座についているからな。


 そんなこんなで、今ではブックマークも百件以上。

 新しい読者さんの感想も、続々とやってきた。


 日刊ランキングに乗る人達にはまだまだ敵わないが、別に勝負しようって気はしない。

 今いる読者さんを大切にしていくスタイルだ。

 もちろん数値で勝負するスタイルを否定するつもりは無いぞ。

 あれは、読者さんの共感や感動を分かりやすく数値化した指標でもあるからな。


 あくまで俺は俺って事。


 ちなみに今後の予定も目白押しだ。

 挿絵をパートナーであるメイ……冴羽さつきに描いてもらってるだろ。


 他の小説も、未完のままだ。

 それらも完結させたい。


 実家から通っていた児童図書館での小説朗読も、引き続きやっている。

 さつきが一緒に読み合わせてくれるから、リアリティがより進化した。



 冬休みの宿題?

 ンなもん、とっとと終わらせちまったよ!



 ああ、そうそう。

 パートナーって言ったよな。


 さつきとは、同棲生活を始めた。

 この世界に戻ってきた時に届いていたメッセージは、やっぱりさつきのものだった。

 連絡先の交換とか、デートの約束とか、そういった内容だ。


 今更、告白も何もあったもんじゃないと思うが、元の世界での初デート(そもそもあっちの世界じゃデートする暇すら無かった)の時に、改めてお互いの想いを告白し合った。

 さつきの赤らめた顔、可愛かったなあ。


 で、何度か会って話をしている内に、さつきが借りているアパート(父方の祖父が管理している物件だ)で同棲しないかって話が出てきた。


 もちろん俺は、二つ返事でオーケーだ。

 こうして冬休みに差し掛かる前に、引っ越しを済ませたのだ。


 幸い、大学はこっちの家のほうが近い。

 しかもさつきの父方の祖父の家が書店を経営していて、そこでバイトすれば家賃も稼げる。

 さつきの祖父は今まで、さつきの心境を慮って家賃をオマケしていてくれてたが、俺が同棲するってなるとそうも行かないだろう。

 だから、免除されていた分の返済も兼ねて、二人でバイトするという結論になった。



 後は、冴羽家のご両親との顔合わせもしないとだな。

 離婚しているから、難しいかもしれないが。

 それでも、仲直りに関しては……意外とどうにでもできそうな気がするんだ。


 あの異世界での経験で、場数は踏んだ。

 その知識を、この俺達の元の世界でどうやって適用するかにかかっている。

 必ず、上手く行かせてみせる。



「信吾、起きてる?」


「ん? ああ」


 布団の中で考え事をしていたら、さつきが馬乗りになってきた。

 俺のネオアームストロング某が臨戦態勢になるので、ちょっと勘弁して下さい。


「ひとまず、完結お疲れ様!」


 ほっぺにキスをされる。


「ありがとう」


 俺もお返しのキスをする。


「スナファ・メルヴァンとの戦いのシーン、良かったよ。ああいう解釈もあるんだね」


「予想されやすいんじゃないかなって、ちょっと戦々恐々だったがな」


「それはそれでよし! あたしは、一緒にあの世界を冒険したから、先入観があったけど」


 さつきは、今度は布団の中へと潜り込んできた。

 体温は二人分になって、ぬくもりが増していく。


「情景描写にも磨きが掛かって、頭の中にビジョンが浮かんでくるようだった。

 ボキャブラリーが貧困だなんて、そんなの嘘でしょ」


「いやー、異世界を冒険したからだろうな。身についたのは」


「そっか」


「ところで、次の小説なんだが、やっぱり内容へのアドバイスは無いのか?」


「それをやっちゃうと、あたしの書きたい内容になっちゃうからね。あたしはあくまで、出来上がったものに感想を付けたいかな。

 あの時、信吾が言ってたでしょ。“自分を信じる”って」


「どうしても必要な時は、その時は助力を請いたい。思い浮かばない時とか。なるべく、二択か三択で候補を作ってみるよ」


「わかった。その時は、協力するね!」


 頼もしいなあ、俺の嫁は。(結婚したとは言ってない)


 こうして同棲してから、さつきがより一層、愛おしく感じるようになった。

 作者と読者の関係から、ここまで進むなんてな。

 さつきの場合、かなり早い段階で俺を愛してくれていたみたいだが。

 俺も、その愛に報いるべく……今日も一日、頑張るぞい!


「ねえ、こうしてもぞもぞしてると、何だか、クるものが無い?」


「お前な……意識しないようにしてたのに」


「えへへ」


「てへぺろしやがって! 可愛い!」


「もっと褒めてくれてもいいんだよ!」


「うん。褒める。あと、撫でる」


「だめ。キスもして」


「しょうがないな……」


 さっきしたばっかりじゃねーか。

 まあ、するんだがな。

 ほっぺじゃなくて、口に。



 *  *  *



「ねえ、信吾?」


 おもむろに、さつきが問い掛ける。


「次のお話は、どれから書く?」


 一応、候補は決めてある。

 話の進み具合とか書きやすさを鑑みて、どれが完結に近いかを考えたんだ。

 そしたら、自ずと決まってきた。


「送還士かなあ」


「やった! 続き、聞かせてよ」


 メイのテンションが高い。

 あの話のライバルキャラ、ラリー・ライトニングを気に入ってるもんな。


「じゃあ、エタった所から話すか。直前の展開は覚えてるか?」


「うん! 予習はバッチリ!」


「そうだな……あのシーンの続きなんだが――」



 とまあ、楽しく執筆活動の真っ最中だ。

 ブレインストーミングっていう、アイデアの出し方があってだな。

 集団で一つの議題に、とにかくなんでもいいからアイデアを沢山出しまくるっていうやり方があるんだ。

 ……詳しくはググってくれ。


 他にも、書き上げた文章を二人で読み合わせたり。

 地の文と男キャラを俺が、女キャラと子供をさつきが担当する。

 さつきは「作者本人の朗読って贅沢だよね」と言うが、俺個人としてはさつきのように可愛い女の子に読んでもらう事こそ贅沢だと思った。

 それを俺が口にすると、さつきは真っ赤にした顔を俺の胸にうずめてきた。


 と、まあ二人で考えれば物語を考える速度も倍以上になるし、テンションはそれ以上に上がる。


 そうすりゃ当然、余裕ができてくる。

 そこをバイトや学業、そして感想文とレビューにより多く割り当てられる。


 さつきも俺に触発されて、あちこちの小説を読みに行っている。

 この四ヶ月弱で、エタるユーザーもちょっとは減ったように見える。

 ブクマした小説がエタらなかっただけ、運が良かっただけ、とも言えるが……。


 とはいえ、状況は昔よりずっと良くなっている。

 ランキングもジャンルがもう少し分けられて、埋もれていた作品がランキングに上がりやすくなる予定らしいし。

 この調子で、主要ジャンル以外も書籍化の前例を沢山作ってくれるとありがたい。

 まあ書籍化ってなると、実利を考えなきゃいけないからもっと複雑になるんだろうが。


 とにかく、あと一年くらいは様子を見ようかな。

 個人的に相談を受け付ける事もほのめかして、少しでもみんなの力になりたい。

 状況が変わらないようなら、新しいアプローチを考えてみよう。

 最終的に、完結までの満足度は書き手の努力次第になるが。


 だが何より、まずは楽しんで書く事が大事だと思う。

 書きながら、その世界に思いを馳せるんだ。


 今の俺は、それができる。

 そして、そのワクワクを伝えたいとも思っている。

 かつて俺がそうしていたみたいに。



「――そうだろ? さつき」


「ね! これからも、いっぱい冒険しよ!」


「ああ。背中は任せた」


「オッケー!」


 茨の道だが、みんな(・・・)が付いていてくれるから。

 さつきが隣にいてくれるから、俺は……俺達は前に進める。


 だから、なるよ。

 小説家に!




 ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました。


 拙作『自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!』は、これにて完結です。

 引き続き、感想やご意見をお待ちしております。


 それでは皆様、良いお年を。

 そして願わくば、この作品が皆様の “勇気を作るもの” でありますように。


 2015年12月30日

 冬塚おんぜ

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