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間話vii 再来


 俺は確かに、死んだ筈だった。

 自分で仕掛けた罠で、自殺した。


 暗闇の中に佇む、温かい光。

 それは何を意味している?


 今更、俺みたいなクズになんの用がある?


 光が形を作り、見覚えのある姿へと変わる。


「もう一度、思い出すニャ」


 ……レジーナか。

 石化させて、悪かった。

 申し訳ないが、付き合えないよ。

 何を思い出せばいいのか、解らない。


「レイレオス、ちょっと説得して欲しいニャ」


「“僕”が?」


 ああ……お前、幼少期の一人称は“僕”だったな。

 そういえば、すっかり忘れてたよ。

 ごめんな。

 操った事も、あの世界にねじ込んだ事も……。



 そう、だな。

 俺は、あの信吾という奴に嫉妬してしまった。

 羨ましいと思った。


 たかだか十件程度のブックマークと、数えるほどしかいないユーザーからの感想文だけで満足できるアイツが。

 だが……それは間違ってなんかいないし、劣っているワケでもないんだ。


 アイツは本気で、読者と向き合った。

 読み専……読むだけしかできない、書けない奴への配慮も怠らなかった。



 俺は、あまりにも傲慢すぎた。

 自分の作品が評価されない事を、読者達のせいにした。


 それで、感想欄で八つ当たりして、暴言を書き散らして……。


 結局、お前に同じ事をさせてしまった。

 末路まで同じだ。

 結局……お前は、俺を映す鏡のような存在になってしまったな。


「その結果として、色々な人を傷付けてしまった事は、心を痛めたけど……。

 僕が決めた事だ。マスター、貴方を恨んだりはしないよ」


 やめてくれよ、マスターなんて。

 そんな資格は俺には無い。


 俺を、また呼び戻す理由は何だ?


「シンは、お前をまだ信じているニャ」


 嘘だろ!?

 どんだけお人好しなんだよ。


「お人好しじゃなきゃ、執筆の傍らで感想文を書いて回ったりしないニャ」


 なん、だと。

 詳しく聞かせてくれ。


「シンは、評価の少ない作品や、書いたばかりの作品に、優先的に感想を書きに行ったニャ。評価も。

 それらの作品が完結したらレビューまで書いていったニャ。

 かつて自分が悔しい思いをしたから、みんなにはそうさせないように」


 そんな事を……。

 一言も、そんな事を言わなかったじゃないか。


「あんまり自慢しない性格なんだニャ。かっこつけたがりだし。結構、自分のやった事に対して無意識なところがあるニャ」


 ……否定は、できない。

 あの野郎、だから俺に、感想を書くとか抜かしやがったのか。


 あー、くそ!

 馬鹿じゃねーの?

 俺、あんなに酷い事をしてきたのに!

 まだそんな事を言える余裕があるのかよ!


「ギリギリで、本気で考えているからこそ、だニャ」


 確かに。

 モノ作りに対しては、いつだって本気だった。

 子供達に接する時だって、一生懸命に折り紙を作って教えていた。

 ジラルドの眼帯も、話を聞いてみるとアイツの自作品だった。

 店で頼めば、もっといいものが作れただろうに。

 雪の翼亭で出てきたホットケーキも、最初はアイツが自力で作ったらしいじゃないか。


 思い返せば、アイツは……。

 信吾という奴は、モノ作りの在り方を自分の中で持っていて、常にそれを周りに、自分で動いて示してきた。


 なるほど。

 本気で考えていなきゃ、そんな事はできない。


「さて、お前はどうするニャ? 利用した挙句、ゴミ扱いしているサレンダーに復讐するかニャ?」


 そんなテンプレ展開なんて、嫌だね。

 ……ドの付くテンプレ展開は、こうだ。



「信吾を助けたい。サレンダーへの復讐と、みんなへの償いを兼ねて」



 非道の限りを尽くしてきた悪党が、改心して仲間になる。

 そして大体、素直じゃない事を言う。


 結局、なんだかんだで王道の展開だ。

 ……王道っていうのは、人の好みの最大公約数的なものだ。

 だから、どこかで必ず通る。


 それでいいんだよ。

 もう、馬鹿にしたりはしない。


「その気持ちに、嘘は無いニャ?」


「やり直したいなんて贅沢は言わない。ただ一度だけ、チャンスをくれるか。一度だけで充分だ」


「信じる為に、一つだけ約束するニャ」


「何を?」


「もう二度と、シン達を裏切らない事ニャ」


「アイツを裏切る理由が無い。

 万一、俺が今の俺よりも輪をかけてクソ野郎だったとして、裏切ったら、当然ペナルティが付くだろうし。

 それにペナルティの有り無しは関係ない。今度は、アイツを信じたい。支えたい。

 ……こうなる事を見越して、俺に声をかけたんだろ?」


「さすが。お見通しだニャ」


「行こう。マスター」


「そうだな、レイレオス」


 気付けば、俺とレイレオスの周りで、亡霊達が見ていた。

 どの亡霊も、穏やかな表情で頷いていた。


「レジーナも、後で合流するニャ」


 そう言って、レジーナは光の扉を作る。



 光に吸い込まれて行く、数多の亡霊達。

 彼ら自身が求めたのか、創造主が求めたのか。或いは両方か。

 誰もが、次の一撃が永久の別れと知りながら、歩みを止めなかった。


「悲劇を終わらせてやろう」




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