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第百三十四話 「俺は創作者だ。かつてアイツがそうであったように」

「は? パソコンに神頼みですか? 無駄な事すんなクズ。お前に何ができるんだ」


「神様気取りのお前が、神を否定するのかよ」


「あんな曖昧で恣意的な概念と一緒にしないでもらいた――あ?」


 辺りが暗くなっていく。

 岩肌も、レールも、木で組まれた足場も、闇へと融けていく。


「ここは、どこだ……?」


 サレンダーが何かしたのか?

 いや、違う。


「不可能だ……お前ごときが、どうやってアクセスしたっていうんだ……!」


 サレンダーの表情はガス状だから解らないが、動きは見える。

 明らかに、狼狽している。

 正直、俺も落ち着かない。


「シン、一体どうなってるんだ? ここは……」


 うん? ファルド!?

 ……マジか!


「確か私達、石化させられて……?」


 復活したのはファルドだけじゃない。

 アンジェリカも、ルチアも!

 それにメイ……さつき!

 全員復活だ!


「ファルド!? みんな、動けるか!?」


「何となく状況は飲み込めたわ」


「やられたのでやり返しましょう」


「うん。倍返しだ!」


 倍返しネタは、ちょっと古いかな……。


「くそ! こんな事あってたまるか!」


 どうだ、サレンダー!

 これで一気に形勢逆転だ!

 そのあからさまな反応が罠じゃない事を祈るぞ。


「さっきはよくも石化させてくれたね」


「部外者は立ち入り禁止なんだけど」


 もう、遠慮は無用だ。

 ここでぶっ飛ばしてやる。


「俺の大切なパートナーを部外者呼ばわりとは、いい度胸だな!

 てめーをこの世から永遠にブロックしてやるよ! このミザリー野郎ッ!!」


 第二ラウンド――宣戦布告、完了!


「さっきの借りを返してやるぜ!」


 ファルドが先陣を切って突撃する。

 アンジェリカとルチアからそれぞれのエンチャントによる支援を受けた、渾身の一撃。

 の、筈だった。


「効か、ない……!」


「そりゃそうだろ。安全圏から作者を調教する為の空間なんだから。この世界に干渉しながらも、ここではない世界に居るんだ」


 おい!

 頼むよ。

 ここまでオマケしてくれて、やっぱり駄目でした……ってか?

 そりゃ無いぞ!


「で、でも! 何か方法はある筈よ!」


「ええ。石化の脅威が無い分、いくらか戦いやすくはなりました」


「……セリフを喋らせてるのが全部お前って思うと吐き気がするよな、ブレイヴメイカー?」


 いや、だから違うんだって。

 機械的に喋らせるワケねーだろ。


 しかも、また石化させるのか知らんが、アンジェリカに近寄ろうとしてるし。

 ファルドが立ち塞がるものの、サレンダーは意に介さない。


「何を勘違いしてやがるのか知らねーが、俺は一度もお人形劇はしちゃいねーぞ」


「どっちにしたって同じだよ! あー、きんもー!」


「口から糞垂れるお前よりゃマシだよ!」


 よそ見してんじゃねーぞ、コラ。

 背骨に喰らった喧嘩キックは、洒落にならない痛さなんだぞ。

 そらよ!


「痛い!? 痛い、どうして……!」


 サレンダーはつんのめって、突っ伏す。


「シンの攻撃が当たった!? 何が起きたんだ!?」


「さあな。もしかして、俺はアイツと同じ世界の出身だから、攻撃できるのか? 好都合だ!」


 背中を押さえながら立ち上がる姿が、何とも滑稽だ。

 見た目は完全に赤黒い悪霊なんだがな。

 俺はそのまま、サレンダーの首をつかむ。


「クソが、二度も同じ手を……え? ログアウトできない? ふざけんな! おい! カス!」


「当たり散らしてどうにかなる問題じゃないだろ。お仕置きの続きだ」


「は? あんまナメてっとブッ殺すよ?」


 赤黒いオーラが、極光を纏って明滅する。


「うわあ!」


「きゃああ!」


 ファルド達が吹っ飛ばされた。


「みんな……!」



 が、それだけだった。


「くそ、石化も効かない……!? 一体どうなってんだよ! こうなったらお前だけでも……」


 周りに魔女狩り兵が何人も召喚される。

 サレンダーが俺を指差すと、連中は一斉にクロスボウを構えた。


「世界中の悪意をお前だけに向けてやった。感謝しろよ? 特別扱いだ。まあ飽きたら次行くが」


「この数は、流石にマズいな……」


「残念だったな、信吾。ここがネットじゃなくて。

 この場所で死ねば現実世界に戻されて、二度と俺には会えなくなる。俺は誰でも好きなように呼べる」


「……うん、やっぱり断固として抵抗したい。お前だけは許さん」


 太矢の雨が降ってくる。

 今までと違って、ルチアのホーミング・エンチャントが通用しない。

 だが、防ぐすべはある。

 弾いてしまえばいい。


 アンジェリカが焼き払い、ファルドは近寄ってきた奴を斬り伏せていく。

 メイは瞬間移動を交えて、敵陣を撹乱していく。


「なんでそこまで頑張れるんですかねえ……無駄だろ。さっさと諦めて、この世界を明け渡せばいいのに」


「それでも――」


 明け渡してなるものかよ。


「俺はクリエイターだ。かつてアイツがそうであったように」


 ヴェルシェ……今なら、俺はお前を理解できる。

 辛かったよな。

 寂しかったよな。

 自尊心や承認欲求を満たせない苦しみ、卑屈になっていく心。

 それは俺にも、覚えがあるんだ。


 下手をすれば俺だって、サレンダーにそそのかされていたかもしれなかったんだ。

 このクソ野郎の事だから、きっと俺の為に色々と言葉を選んでいただろう。

 実際にやらかした事を目の当たりにしたからこそ、俺はこうして対岸から批判できる。


 可能性ってのは、いつだってゼロじゃない。

 限りなくゼロに近くても、小数点以下のパーセンテージがある限り、それはいつでも覆せてしまう。



 ――だからこそ、俺はこの状況を覆したい!

 勇気を作る者(ブレイヴメイカー)の名は、伊達じゃないんだ!




本日の更新はここまでです。

明日も複数回更新の予定です。

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