表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/146

第百三十三話 「パソコン! 俺に力を貸してくれ!」


「世の中のクソ作品を生み出すクソ作者共をそのクソ作品のクソ世界に召喚し、そいつのクソ作品がどれだけクソ凡庸でクソつまらない物かを身を以て知らしめる。

 お前はそのテストベッドとして選ばれたワケだ。ちなみにそこのエルフとは利害が一致してたから誘ってみた」


 サレンダーはこっちが訊く前に、べらべらと語り始める。

 クソを連呼されると、気分が荒んでくるよな……。


「ただそいつは、自分より上手い奴が皆消えれば、自分が一番上手くなるとか心の底では思ってたらしい。馬鹿だろ」


 そしてコイツは、ヴェルシェがやられても平然としている。

 部下を道具としか見ていない、情が欠落している奴。

 サレンダーは間違いなく、そういうタイプだ。


 レイレオスを操ったヴェルシェでさえ、その敗北には心を痛めた。

 だが、サレンダーは……そのヴェルシェを軽蔑してすらいる。


「利用したつもりなんだろうが、道化だよ、そいつは。目的の本質を見失っちゃいけない。

 絶対に手出しされない、ブロックされない場所からそいつらを調教して、まずはクソ作品をこの世から消す。才能の無い奴が続けても時間の無駄だから」


 俺達の沈黙に気を良くしたのか、サレンダーは更に続ける。


「例えば、お前みたいな奴だよ。メイ・レッドベル。身内びいきで褒められて、舞い上がって、不出来な造形で衣装を作って、園児のお遊戯の延長線上でやらかした結果、親を離婚させるような奴が、何を被害者ヅラしているのやら。しかもその時と同じ格好? 今まで何を考えてきた? 何も考えなかったんだろ? 生きてて恥ずかしくないのか? 親に迷惑かけて、いっちょ前に誰かを助けようとしたりして、結局はいい格好を見せたいだけで――」


「――言いたいことは、それだけ?」


 メイは過去を掘り返されたのに、努めて平然を装っているように見えた。

 それでも、声音からは怒りが滲み出ている。


「黙れ、ブス。話を遮るな。整形してやり直せよ」


「同じことを繰り返して言ってるみたいだから、もういいかなって。まだ続くの? その話」


「なんでわかんないかなあ……こっちは忙しい中、時間を作って、せっかく特別にアドバイスしてやってるのに」


 何がアドバイスだよ、ふざけやがって。

 ちっとも参考にならないじゃねーか。


「異議あり! お前のそれはアドバイスなんかじゃない。マウンティングだ」


「はあ、得意気に聞き慣れない横文字を使って煙に巻く戦法ですか。どうせその後“はい論破”って言うんだろ?」


 言わねーよ。

 それ、俺が一番嫌いなやり方だからね?

 相手のこれまでの考え方を全否定とか、ここまででやった記憶は一切無いからね?

 全部は否定してないからね?


 いかん。

 平常心だ、信吾。


「えーっと……アドバイスっていうのは、前に進む為に、より良い結果にする為の言葉を言うんじゃないのか?」


「いや、だったらアドバイスで合ってるよ。

 だって、作っても時間の無駄なんだ。諦めれば苦しまずに済んだのに、何故か苦しんででも前に進もうとする。

 ……といっても、お前らは自分の思い通りに事を進める才能だけはあるらしい。良かったら、後釜にでもどう?

 どんな巨匠だって、君達の思い通りにできる。夢のような話だろ? 少なくとも そ っち の 才 能 は 有効に使うべきだ」


 コイツ、しまいにゃ勧誘かよ……。

 世の中にはさんざん人格否定発言をしまくってから、甘い言葉で巧みに誘う奴が大勢いるが……コイツの場合は滑ってる。


「ハッ、そいつはすげぇや。とんでもねー悪夢だよ! 冗談じゃない!」


「だいたい、君はそうやって言葉巧みに、ヴェルシェを利用したんじゃないの?」


「シンとメイの話は半分も解らないけど、誰かを思い通りにしようとするなんて間違ってると思うわ」


「お前が裏で手を引いていたのなら、俺達はお前を倒すだけだ!」


「私の友人ダチをよくも苦難の道に引きずり込んで下さいやがりましたね……試練という言い訳はさせません!」


 ……オーケー、色々と認識に溝や隔たりはあるが、そこは仕方ない。

 それでも、満場一致で断固拒否って事でいいよな。


「まあそういうワケで、俺はお前を止める!」


「背伸びしちゃ駄目だよ、ブレイヴメイカー」


「俺は、俺を信じる。俺を信じてくれる、みんなを信じる」


「大事な場面でアニメのパロディセリフ? どんだけオリジナリティが無いんだよ。

 しかも自分自身の信者とか、一番やっちゃいけない事だろ。キモすぎ」


 だから、信者って言い方はよしてくれよ。

 さんざんそういう文面を見て、胃を痛めた事だってあるんだからよ。

 と、言ってもこのクソ野郎には通じるワケがない。


 平常心、平常心、あー無理!

 ヘイト稼ぎすぎだ、コイツ!


 ……いいだろう。

 てめぇの茶番に、ちょっとだけ付き合ってやるよ!


「名は体を表すってことわざ、知らないのかよ。俺は、俺の手が届く範囲で何度でもお前の野望を止めてやる!」


 宣戦布告からの、先制攻撃だ!

 拳を一発、お見舞いしてやる!


「……あれ?」


 だが、それはすり抜けた。

 一体どうしてと思うが、とにかく当たらないのだ。


 ファルドも、メイも斬りかかる。

 だが、ガス状の身体を武器が通過するだけだ。

 アンジェリカの魔術も……。


「馬鹿じゃね? 偉そうに宣言しておいて、やる事がそれだけかよ?

 頭、空っぽなんですかー? 空っぽだろ。馬鹿。クソ。カス」


 サレンダーは(ガキみたいな)罵倒を羅列した後、ゆっくりとファルドへと近寄る。

 ファルドは距離を取りながら剣で牽制するが……当たらない。


「何もかもが無駄。所詮は作り物の世界で、作り物のキャラクターだろ。

 被造物は創造主には勝てないし、創造主と同じ世界に住む奴にも攻撃は通用しないようになっている」


「どういう……」


「創造主が馬鹿だと被造物も比例して馬鹿だなあ……少しは考えたら? まぁ、もう手遅れなんだけどね」


 サレンダーに掴まれたファルドが、石化していく……。


「てめえ!」


「ファルド! ……アンタ、よくもファルドを!」


「あのさあ、ブレイヴメイカー。アンジェリカは、仲間をやられてこんな事しか言えないの? もっと気の利いたセリフを言わせないと」


「俺がそれを指図するとでも思うのか!」


「なってない、なってないよ……まるで管理がなってない」


「アンジェリカ、ルチア、充分に距離をとれ!」


「いいのかな? この石像、壊すよ?」


 サレンダーが、石化したファルドをこんこんと叩く。

 どこまでも性根の腐った野郎だ!


「それ以上、触るな!」


「じゃ、止めてみな。やれるもんなら、さ!」


 止めようとした俺を、サレンダーは突き飛ばす。

 馬鹿力で吹っ飛んだ俺は、瞬間移動したメイがキャッチしてくれた。


「信吾、大丈夫?」


「おかげさまで……」


「負け犬同士が傷を舐めあってんじゃないよ、気ッ色悪いなあ!」


 そう言ってサレンダーは、ファルドに近付いたアンジェリカの首根っこを引っ掴む。


「はい、残念。さっさと見捨てれば良かったのに」


 石化していくアンジェリカを、そのまま投げる。

 ……ルチアへと。


「アンジェリカさん!」


 ルチアは落下衝撃で割れないように、ホーミング・エンチャントで動きを微調整する。

 俺は、サレンダーとルチアの間に割って入った。


「これ以上の狼藉は断固としてノーだ。メイ! ルチアを連れて逃げろ!」


「……でも、信吾は?」


「後から迎えに来てくれ。それまで、持ちこたえる」


「ほら、早くテレポートしてみろよ。愛しの恋人の言葉だろ?」


「言われなくたって!」


 メイはルチアの腕を掴み、すぐにテレポートしようとする。

 だが……。


「嘘……」


 テレポートの際に発生する筈の光が、出てこない。

 はたから見れば、メイがルチアを掴んで少し小走りしただけだった。


「マヌケな絵面だね! 既に対策済みなんだよ、バ~~~~~~カッ!!」


 こ 、 の 、 野 、 郎 ッ !!


「おっと、殴るの? 当たらないのに?」


「うるせえ! 完全にブチ切れたぞ、俺は!」


「いい加減、学習しようよ。ブレイヴメイカー。何回同じ事を繰り返せば気が済む?

 いつもそうだ。仲間をやられて、やっと本気を出す」


 畜生、当たれ!

 当たれよッ!!


「じゃあ、今度はこちらのターンだ」


 視界が逆さまになる。

 少しして、俺は足を引っ掛けられたのだと理解した。

 そして、何度も何度も蹴られる。

 腹も、顔も、手も足も、胸も。


「痛いだろ? ギブアップ、するか?」


「絶対に、嫌だ……!」


「お前の可愛い恋人達は、指をくわえて見てるだけだ」


 紙飛行機ミサイルが飛来する。

 だが、当たらない……。


 しびれを切らしたメイが、俺の所へ走ってきた。


「はい、お馬鹿さん!」


「あ……――」


 俺を、餌にしやがったのか!

 メイまでも、石化させられちまった……!


「そんな、メイさんも……」


「いや予想ついたでしょ。近寄ったらアウトだって解るじゃん。

 ほんっと学習しねーな、脳味噌入ってるのかよ? それとも精一杯お勉強してそれ?

 お前ら、この世界で何を学んできたわけ? 何してたの? いや、どうせイチャイチャしてたんだろ。知ってる。

 ……もう明日から来なくていいよ」


 サレンダーは、恐怖で動けなくなったルチアにも、ゆっくりと近づいていく。

 いや、ルチアは……諦めていない。

 何かを隠し持っているようだ。


「最後の抵抗です……受け取りなさい!」


 術符が紙吹雪を逆再生したかのように、上空へと舞い上がっていく。

 できるのか……行けるのか!?


 だが、ルチアもまた、石化させられた。

 それきり術符が戻ってくる事は無かった。


「はあ……ガッカリするね。こんな奴らに、アイツは手を焼いてたのか。ホント無能。

 こんなんだったら、こうして直接出向いたほうが早かったじゃないか」


 おいおい……こんなのって、アリかよ。


「――で? まだやる? 何度も同じこと言わせないでね? 時間の無駄だから」


 くそ、何かアイディアは無いのか!

 働け、働けよ、俺のひらめき!

 あとすこしなんだ!

 もうコイツで最後なんだ!


 コイツさえ倒せれば、この世界はきっと……!

 だから!


「パソコン! 俺に力を貸してくれ!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ