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第百二十五話 「丁度、我慢の限界でした」

お待たせしました。

少し時間が取れたので、更新再開です。

今回と次回はちょっと長めです。


 おー、始まってる始まってる!

 城下町は大賑わいだ。

 きっとファルドが初めて城下町に来る前と同じか、それ以上だろうな……。

 霊体になって認識力が大幅に強化されたが、こういう場所だと却って煩わしいな。



 王城の前では、通りの両端に沢山の人が並んでいる。

 みんな、現国王……ミルドレッドの話を待っているようだ。


 顔立ちは、先王アリウスに似ている。

 ロカデールと違って、優男な雰囲気だが。


 ――静寂が、終わる。


「石版の預言者・シンと名乗る者がいた。奴の本当の名を知っているか?」


 その問いかけに、皆は黙ったままだ。

 だが誰もが、眉根を寄せている。

 その感情の全てを推し量るのは、俺には不可能だ。


 やれやれ。

 俺も大概、報われないな。

 これでも世界の為に色々とやってきたが、所詮は俺の独りよがりだったのか。


「奴はナハト・ブレイヴメイカー。この世界の創造主である。

 奴は世界を、我々を弄び、楽しんでいた。悪逆非道の輩だったのだ!」


 どこで広まった情報ですかねえ……。

 まあ、大体想像は付くがな。

 ヴェルシェ!

 お前の入れ知恵だろ、どうせ!


「この世界に戦乱をもたらし、民を苦しめた魔王は、奴の手先であった。

 だが今日というこの日、ついに我々は自立を勝ち取ったのだ!

悪しき父より、世界の尊厳を守り通したのだ!」


 おう、随分な言われようだな。

 魔王を設定したのは俺だが、そういう目的じゃねえんだよ。

 人類共通の敵を作る事で、団結を生み出すのが魔王の裏設定……本当の目的だった。

 口が裂けても言えないが……。


「事実、帝国は我々との和平を望んだ!

 これは、我々が正義を貫いたという証左に他ならない! その最大の功労者が、彼らだ!」


 そうそうたるメンツが、王城より現れた。

 ジャンヌ、アイザック、ヴェルシェ、そしてルチアだ。

 ……なるほど?

 まあバランスは取れているんじゃないか?

 人相が悪すぎるのはちょっと問題だがな。

 特にジャンヌとルチアは目の下にクマができている。

 可哀想なルチア……すっかり溶けこんじまって。


 ん?

 ちょっと待て。

 レイレオスはどうした。


「本来であれば、ここにレイレオスが加わる予定であった。

 だが彼は反逆者ファルド達の卑劣な罠により、魔王との挟撃を受け、志半ばで倒れてしまった……」


 俺の疑問が伝わったというより、予定調和で言ったのだろう。

 それにしても、この場にファルド達がいないからって、言いたい放題だな。



「王女ルチアを見事に救い出し、我らの自由を勝ち取った勇者達に惜しみない拍手を!」


 ん? 王女?

 聖女から王女にクラスチェンジですか。


 すると、何だ。

 まさか結婚なさるんで?

 このキングオブヘイターのミルドレッド陛下と?


 マジかよ……ますます可哀想になってきた。

 こりゃあコトだ!

 さっさと救出せにゃあ!



「私からも改めて礼を言う。我がアレクライル王国の未来を担うルチア王女を救ってくれて、ありがとう」


 ジャンヌ率いるネオ勇者パーティは恭しくひざまずき、一礼する。

 ジャンヌ……お前の考えが読めない。

 俺の説得は、届かなかったのか?

 このまま国民を欺いて、どうするつもりなんだ?


 いや、それは捨て置こう。



 上空に飛竜の影。

 ひーちゃん&元祖勇者パーティのダイナミックエントリーだ!


「この祭典に意義を申し立てるわ!」


 ミルドレッドは、突然の来訪者にガタンと立ち上がる。


「防空部隊は何をやっていたのだ! 連合騎士団の面汚しが!」


 おいおい。

 会話が成立してねーぞ、陛下。


「魔王を倒しただって? じゃあ、俺達が倒したコイツは何だったんだ」


 ファルドは、背負っていた魔王の死体をひーちゃんに咥えさせる。

 ひーちゃんはその状態で、ゆっくりと回った。

 周囲にどよめきが沸き起こる。


「どこかの魔族だろう。本物は極光に包まれ、消滅した」


 ルチアが苦い顔をしている。

 そういや、キリオとドナートはこの結婚についてはどう考えているんだろうな?

 言ってみれば、玉の輿どころの話じゃない。

 ドレッタ商会が、王様のバックアップを全面的に受け取れるって事だ。

 キリオはともかく、ドナートは乗り気かもしれない。


「お言葉だけど、陛下。陛下は魔王の姿をご覧になった筈じゃなかったっけ?」


「ふん! 誰だ、お前は!」


「質問に答えなよ。それとも、不都合だからシカト?」


 メイの挑発に、配下の灰色連中が槍を構える。

 そういえば、騎士らしい姿を見かけない。

 ……みんな、あの灰色装束に装備を変えちまったとかじゃないだろうな?


「陛下に指図するとは、不敬だぞ!」

「捕らえろ!」

「いや、殺せ!」


 ミルドレッドが片手を上げて、彼らを制する。


「いや、良い。反逆者ファルドよ。ここで私に手を出せば、いよいよ世界はそなたと袂を分かつであろうな。帰る場所は無くなる。

 そなたが ま だ 人の心を持つのであれば、みだりに民衆の人心をかき乱すような真似は慎んではくれぬか」


 よくもまあ抜け抜けと。

 人でなしはテメーだろうが。

 魔女の墓場は下手しなくても、魔王軍より民間への被害がでかいぞ。

 魔王軍と魔女の墓場に挟まれながら戦ってきたファルドに、帰る場所がないなんて言いやがって。


「アンタねえ! さっきから――」


「――アンジェリカ。ここは俺が言うよ」


「あ、うん……頼んだわよ」


「陛下は、何がお望みなんですか」


 ファルドにしては冷静だ。

 あらかじめ、ここに来るまでに打ち合わせでもしていたのか。

 何にせよ……成長したな、ファルド。


「その魔族の死体が魔王である事を撤回し、おとなしく虜囚の身となれ。処分は追って伝えよう……牢屋の中でな」


 ミルドレッドは手を高く掲げ、周囲に号令を飛ばす。


「彼奴らを捕らえよ!」


 ――と。

 結局、話の通じる相手じゃないって事だ。

 ネオ勇者パーティも、それに従った。

 ルチアとジャンヌを除いて。

 ジャンヌは立ち尽くしたままで剣を抜く気配すらないし、ルチアは壇上の花瓶をぼんやりと眺めるだけだ。


「じ、ジャンヌさん! ルチアさんも、何やってるッスか! 参戦するッス! 今す、ぐ――……!?」


 ルチアの渾身の一振りが、ヴェルシェの後頭部を強打した。

 すげえな……ビンが割れるほどの一撃って。

 あれは脳震盪不可避だわ……。

 実際ヴェルシェにとっては強烈だったらしく、そのまま気絶したようだ。


「王女ルチア!? 気は確かか!」


「確かだからこそです。陛下」


「謀反か!? 私を殺すつも――……」


 ルチア、必殺の腹パン。

 ミルドレッドはその場で膝を折る。

 更に、ルチアは追撃のかかと落としを食らわせる。

 ミルドレッドは壇上で倒れ伏し、そのまま動かなくなった。


「殺すわけ無いでしょう? あなた達ではあるまいし」


「ルチア!」


「丁度、我慢の限界でした」


 ルチアはファルド達に、笑顔で手を振る。

 言葉とモーションがちぐはぐだぞ、ルチア。

 お前は確かに限界みたいだ……。

 辺りはすぐさま騒然となる。


「王女様がご乱心! ご乱心あそばせた!」

「魔王の瘴気にあてられたか!?」

「創造主の魔術やもしれぬ!」

「いや、ルチアは魔女だったんだ!」


 おいおい……その辺の設定は統一しろよ。

 次から次へと薄っぺらい設定を重ねていくから、そうやって混乱するんだ。


「魔王は討たれた! 今更、呪いなどあるものか!」

「英雄レイレオスによってな!」

「違う! ルチアは彼奴らの手先だ! 我々を初めから騙していた!」

「聖女様を愚弄するのか! 貴様、不敬であるぞ!」

「うるせえ! 骨にされてぇか!」


 ほーら言わんこっちゃない。

 それぞれの派閥に分かれて言い争いまで始まったぞ。

 みんなを欺こうとするから、やがてそうやってボロが出る。

 数が多いんだから、そう長くは騙せないんだよ。



「――そこまでだ!」


 そこに現れたのは第二王子、ロカデール・エランド・アレクライル!

 ロカデールは、パレードルートの中央を堂々と歩いて行く。


「第二王子!?」

「遠征中にファルドの手で殺された筈では!?」

「おいたわしや……創造主の死霊術で操られておいでだ!」

「反逆者の軍勢を率いておいでだ!」

「やはり、術中に……!」


 口々に勝手な事を言い出す彼らに、ロカデールは一喝する。


「勝手に殺すな。私が屍に見えるか!」


 それと勝手に俺達の罪状を増やすな。


「……ルチアは聖女ではない! 冥界より魂を呼び寄せた魔女だ! 殺せ!」


 そして、ついに堰を切ったように、大勢の灰色連中がクロスボウから太矢を放つ。

 ――王女である筈のルチアと、君主である筈のロカデールを目掛けて!


「危ない!」


 ファルド達が叫ぶ。

 しかし、ルチアは太矢の雨を一瞥し、両手を天に掲げるだけだった。


「ば、馬鹿な!?」

「なんと、聖女様の御業が!?」

「どうなってやがる! 太矢が!?」


 それらは全て、空中で静止した。

 一拍置いて、地面にカラコロと落ちていく。

 さすがのロカデールも、これには驚いて声も出ないようだった。


「思い通りにならなければ誰かのせいにして殺めようとする。それがあなた方の矜持だとでも言うのですか!

 次、また放とうとなさるなら、今度はあなた方に向けますよ!」


 それまでの憮然とした顔から一変、ルチアは口元を歪めて憎々しげに宣言する。

 灰色連中はその剣幕に、なすすべもなく武器を下ろす。

 ジャンヌも鉄面皮を崩して僅かに逡巡を見せるが、やはり動かない。


 ただ一人、アイザックだけがその場で喚き散らした。


「ふざけるな! ふざけるなよ! せっかく、ここまで上手く行ったのに!

 里の連中に思い知らせてやろうって思ったのに! ボクの計画を邪魔するな!

 陛下、起きて、起きてよ! 悪い奴らを捕まえなきゃ!」


 揺すっているが、ミルドレッドはびくともしない。

 ロカデールは、ぐったりと倒れているミルドレッドを指差す。


「兄上! 父上を謀り、父上を守ろうとした騎士カージュワックを、魔王討伐に赴き死地を闘いぬいた勇者ファルド及びその仲間達を……国のために戦った彼らを国賊として貶めたその罪――断じて許しはしない!」


 もちろん、その前口上をミルドレッドが聞いているはずがない。


「……返事が無いぞ、兄上! 邪魔な弟の声など聞こえぬと、そう言いたいのか!」


「あの、気絶してます」


「……ゴホン! ならば好都合。この場で首を刎ねてやる!」


 首を刎ねるという言葉に反応したのか、ミルドレッドはガバッと起き上がる。


「――ハッ!? こ、ここはどこだ! いや、思い出した!

 ロカデール! この者らが魔王を倒したと、本気で信じておるのか!」


「ああ、そうとも。魔王は今、夏の聖杯の守人だ。聖杯に血を垂らせば解る。兄上とて、聖杯の伝承はご存知だろう」


「よかろう。やってみせよ」


 ファルド、正確にはひーちゃんから魔王の死体を借りて、夏の聖杯を傷口にこすりつける。

 すると、夏の聖杯はにわかに光り輝いた。

 その光景に、ミルドレッドは頷く。


「なるほど。本物だ。だが、そなたらの罪が覆る事には成り得ぬ。聞けい!」


 いや、そこは納得しようよ……。

 などという俺の心のツッコミなんざ、もちろんミルドレッドの耳に届くワケがない。


「かの宰相ペゼル・ラルボスはナハト・ブレイヴメイカーの眷属であった。

 ペゼルはナハトの命により夏の聖杯の守人である皇帝をそそのかし、外道へと貶め、敢えて敗戦濃厚となった機を狙い、殺した!

 その生け贄によって魔王は生まれた! 己の戦争を有耶無耶にすべく!

 そして、此度の戦争は、魔王との戦いに疲弊した王国を併呑するべく行われたのだ!」


 もうちょっと整理しなきゃ解りづらいんだが。

 えーっと……俺がペゼルを裏で操って?

 ペゼルは皇帝をそそのかして戦争させて?

 そのどさくさで皇帝を殺して魔王を生み出した?


「よくも斯様な詭弁を……!」


「詭弁なものか! 事実であるぞ!」


「取り繕った言い掛かりを、事実と称すとは!」


 ロカデールは激高して夏の聖杯を放り投げ、剣を抜く。


「ちょっと! 投げないでよ!」


 アンジェリカも、流石にこの展開には激怒したようだ。

 ロカデールは一瞥するだけで、すぐさまミルドレッドに向き直る。


 お、レジーナがしれっと聖杯を回収したようだ。

 ――って、いつの間に来てたんだ。


『忍び込むのは得意分野だからニャ』


 なるほど、全てはこの茶番にしっかりと終止符を打つためか。


『今から時間稼ぎをするから、そしたら出番だニャ』


 レジーナは俺に念話を送り、それからメイに目配せする。


『今から、ちょっと伏線を回収するニャ』


 メタ発言はともかくとして……まあ、オーケーだ。

 まさか俺が聖書のパロディの登場人物になる日が来るとは思わなかった。

 あくまで一部分だけのパロディにとどめておこう。


 俺は、左の頬まで差し出したくはない。

 差し出すのは、奴らだ。




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