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第百二十四話 『今の気持ちを、素直に言ってみたらいいニャ』

『――さて、シン』


 はい、なんでしょう。

 今、俺は自分の死体を見て感傷に浸っている最中なんですが。


『今の気持ちを、素直に言ってみたらいいニャ』


 正直、辛いです。

 死ぬほど辛いです。

 もう死んでるが。



 アレだよな、大団円だぞーって全く思えない。

 こんなところで終わりたくないよ、俺は。


 何より、メイに申し訳ない。

 くたばったまんまだと、小説の続きも書けないしな。


 だから早いところ、生き返りたい。

 魔王が言うには、聖杯の力を借りればそれができるんだろ?


『不可能ではないニャ。ただ、半日掛かるニャ』


 早くね?

 それくらいでできちゃうのか?


『レジーナを何だと思ってるニャ』


 いや、だがよ……もうちょっと時間が掛かると思ったんだよ。

 少なくとも一週間とか、そういう感じで。


『それだと間に合わないんだニャ……色々と』


 なるほど。

 ファルド達が城下町に到着する頃には、準備は整ってると。

 だが、それだったら出発前に知らせてやっても良かったじゃないか。


『サプライズの為に、生き返らないというていにしておいたほうがいいニャ』


 ……こうしてサプライズする側としては、割と身も蓋もない話だよな。


『それに、復活を悟られると、また別の策をやられるからニャ。奇襲してやるニャ』


 ヴェルシェか。


『それと、その親玉もニャ。レイレオスだって、斥候が目撃情報を報告してくれたニャ』


 やっぱり生きてたか。


『奴らは城下町に現れる……必ず、ニャ』


 それなら、何としてでも生きて現場に駆けつけたいな。


 ところで、夏の聖杯も魔王の死体も、ファルド達が持ってっちまったが。

 そのへんはどうやって調節するんだ?


『そのほうが都合がいいんだニャ。本当に、覚えてないのニャ?』


 いきなり、何だよ。

 予言……いや、お前と話をするなら原作って言ったほうがいいな。

 原作の文章はほぼ丸暗記してある。

 一字一句、間違えずに言える。


『書きながら、頭に思い浮かべていた事もあった筈だニャ』


 ……う~ん。

 アレだよな、やっぱりすぐに訊いちゃうのはアウトだよな。


『しょうがない。本人の口から言うのははばかられるが、言うニャ。

 ……原作で、あの後レジーナは、スナファ・メルヴァンに殺されるニャ。

 ファルド達が、賢者を死なせた責任を取らされる。勇者としてやっていけなくなる、重大な決定だニャ。

 そこで、レジーナは霊体になってルチアに入れ知恵するんだニャ。

 それをそのまま、シンに体験してもらうニャ』


 思い出した。

 そう、だったんだよな……俺、そんな事も覚えてないんだな。

 ごめん、ごめんな、レジーナ……メイ。

 書こうと思えばすぐに書けた筈だったんだ。

 それなのに、俺……。


『気に病む必要なんて無いニャ。注目されなかった悲しみ、それがシンの筆を止めただけだニャ』


 そうかな……。


『あと、そうだニャ……なかなか言い出せなかったから、レジーナも謝るニャ』


 何か、謝る事なんてあったか?


『レイレオスの過去について、話しておくべきだったニャ――』



 *  *  *



 レイレオス……報われないな。

 あまりにも報われないよ、お前は……。


 髪の色が原因で両親から虐げられ、故郷は魔王軍に滅ぼされ、親も故郷も失った。

 小さな村で同い年くらいの少女と出会った。

 髪の色も気にせず別け隔てなく接する彼女を愛した。

 だが、少女はある日、魔女になった。

 当時から活動していた魔女の墓場が、少女を殺した。

 少年だったレイレオスは非力で、魔女の墓場に抵抗するも虚しく、火の中へと投げ入れられた。


 アイツは、愛する誰かを失ってたんだ。

 それで、勇者としても選ばれず、魔女の墓場に拾われて、復讐の道へと進み続けた。



 だからアンジェリカを殺そうとした。

 だから枢機卿の言う事なんて少しも聞かなかった。

 だから、ファルドを恨んでいた。

 ――そして、この世界を作った俺を、ファルド以上に恨んでいた。


 絶望と憎しみだけを抱えて生きていた。

 誰も信じられず、世界を破壊し尽くす事だけを考えてきたのか……。


 そんな気はしていたが、あくまでそれだけだった。

 あいつの憎悪は、俺の想像を遥かに超えていた。



 なあ、レジーナ。

 どうすりゃいいと思う?


『それは、シンが決めなきゃ駄目だニャ。人に意見を求めれば、度合いはともかく必ず左右される。なら、まっさらな状態で考えなきゃ駄目ニャ』


 わかった。

 ……悔しいが、一つしか残ってない。

 他にやりようは、無いだろうな。きっと……。




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