間話vi 理想は彼の手に
《奴は、死んだよ》
「案外、呆気無いな。もう少し、粘ってくれると思ったけど」
《レイレオスが相手じゃ、そりゃ無理だ》
「だろうな」
夏目倫人は、サレンダーのメッセージに頷く。
後はルチアを残し、用済みになったファルド達やレイレオスを処分するだけだ。
レイレオスは英雄のまま、ファルド達は反逆者のまま――果てる。
人々は心に少しのわだかまりを残しつつも、いずれは魔王との戦いも忘れ、平穏に生きていくだろう。
……倫人は、そう思いたかった。
しかし、倫人は胸騒ぎが止まらなかった。
本当に、これで終わるのか。
倫人は、やり残した事を片付けようとしても、それを彼らが手をこまねいて見ているとは思えなかった。
更に、倫人の心を蝕むものが幾つも存在した。
共に冒険してきた思い出、彼らの笑顔……それは、倫人が久しく忘れてきたものだった。
その生みの親、シンは……倫人がヴェルシェとなってあの世界に広めた、創造主という名の邪神は……本当に倒されるべきだったのか。
これは胸の奥に挟まった、小さな破片の筈だった。
だが倫人に、ため息をつかせた。
何度も、何度も。
「……いや、忘れよう。所詮、作り物の世界なんだ」
首を振って、雑念を追い払うよう己に言い聞かせる。
現実世界で自ら命を絶ったその時点で、もう何も作れなくなったのだと。
これからは、現実世界で物語を作る全ての者達に“正しい道”を示してやる事こそが自らの使命であると。
* * *
――そうだよ。
誰が何と言おうと、俺は教えてやらなきゃいけないんだ。
お前達の作る物語なんてものは、所詮はおままごとでしかないって事を。
ありきたりなストーリー。
奇をてらおうとして解りづらくなっただけの設定。
雑すぎる伏線。
主人公が少し会話をするだけで考えを改める、ちょろい登場人物。
頭の悪い悪役。
救いようのないクズな悪役。
けど美女は改心して主人公になびく。
ぬるくて、
のろくて、
起伏のないストーリーをダラダラと続けて、
決まって奴ら主人公は、こう言うんだ。
そう。
異世界に来て良かった……と。
幅を利かせているのは、こんなのばっかりだ!
俺は、それが許せなかった。
ナハト・ブレイヴメイカー……お前もその中の一人だった。
貧弱なボキャブラリーでしか物が言えない、低脳エセ作家。
騙して陥れる為だったとはいえ、どうしてお前の冒険を俺が盛り上げてやらなきゃいけなかったんだ。
俺だって、認められたかった。
この世界じゃなくて、現実で!
俺は、お前がいなくなって良かったと思いたい。
なのに、この胸騒ぎは何だ?
苦しくて、痛くて、掻き毟りたくなる感覚は一体、何だっていうんだ……!?
答えろ、ナハト。
いや……――シン!
第五章、これにて終了です。
完結まではもう少しあります。
なお、また年末で仕事が忙しくなる為、これまでのようなペースでの更新が難しくなります。
ですが、変わらずお付き合い頂ければ幸いです。
引き続き、ご意見、ご指摘、ご感想などなど、お待ちしております。