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第百十六話 「俺と同じには、ならなかったか」


「まだ、始まってないな……」


 物陰から隠れて見ている限りでは、このビレスデアの街は平穏そのものだ。

 行き交う人々の表情からは、緊張した様子は見受けられない。

 とは思うんだが、嵐の前の静けさっていうのもあるだろうからな。


 あ、ちなみに今回もメイは往復した。

 ドーラを連れてきたのだ。


 オフィーリアを置いてきていいのか疑問ではあるが、結界が無いから防衛要員は一人でも多いほうがいいだろう。

 レジーナもいるし、ヒルダも戦えないワケじゃあないだろうしな。


「少し、移動しよう。ここだけじゃ、解らないよ」


「そうね」


 ファルドの提案に頷き、俺達は移動する。

 街の中心部まで行ってみないと。



 それにしても、ドーラは大丈夫か?

 ドーラが言うには、親はドーラの罪の責任を問われて処刑されたかもしれない。

 そんな場所へやってくるんだ。

 ドーラの心中は穏やかではないだろうし、見つかればただじゃ済まされない。


「カージュワック家の邸宅も、確認しに行きますか?」


「貴公等をこれ以上の危険に晒すのは、父も本意ではないだろう」


「会ったこと無いんですが」


「父は、そういう性格だ。仮に私が墓参りしなかったとて、恨みはするまいよ」


「待って下さいよ。まだ、死んだとは限らないじゃない」


「……期待はしない」


 あー、駄目だこの辛気臭い空気。

 早く何とかしないと!


 隙を見て確認できれば一番なんだが……!

 頼む、ドーラのお父さん、生きててくれよ!

 これ以上、無駄な犠牲は沢山なんだ!


「――と、ちょっとタンマ」


 俺は見つけた。

 見覚えのある奴を。


 かなり遠くのほうだな。

 レイレオスと、もう一人のエルフは……あのエルフのショタっ子は誰だ。

 俺は目を凝らして、二人の唇の動きを観察する。



「――半分は取り逃がしたんだね。まあいいんじゃない? 上々の結果だ」


「次は、どこだ」


「まあそう焦らないでよ。魔物も討伐しなきゃいけない。ボク達の敵は多いって事、知ってるでしょ?

 クロムウェルはしくじっちゃったし、エリーザベトは遠征中だ」


「……来る前に決めておけ」


「指図するな! ボクは枢機卿なんだぞ!」


 枢機卿……他の三人は見たから、じゃあコイツがアイザックか。

 すぐに補填できる人材でもないし、殆ど確定でいいな。


「だから、どうした」


「キミは本当に……聖女ルチアの件だってそうだ! 彼女はこの国の王様と結婚するんだぞ。

 それを知りながら、暴力を振るった! ボク達が必死に取り繕わなきゃ、どうなってたと思う?」


 暴力、だと……。

 てめえら、いい加減にしやがれよ。


「暗愚の死骸が二つに増えるだけだ」


「そういう問題じゃない! ボク達が公に行動できる理由作りには、ルチアが必要なんだよ!

 まあ、あの気持ち悪い趣味に関しては悪影響がありそうだから、早急に矯正しないとだけどね?」


「興味が無い。残り半分はどこに逃げた」


「追わせてるよ。大丈夫だって、ちゃんと追い詰めて確実に殺せる状況にするんだから! 順序! 大事だよ、順序!」


 くっそ!

 あーもう、くそったれ!

 どこまでも上から目線で、人の命や生活を何とも思っていない物言い!

 ほんっとにイライラするぞ!


 しかも残り半分?

 って事は……半分は既に殺されてたって事じゃないか!

 手遅れだったのかよ、俺達は!


「ちぃーっす! レイレオスさん! 俺ら、見回り終わりましたよ!」


「ちょッ!? なんであいつら……」


 ユヴォルなんちゃらと不愉快な仲間達は、事もあろうにノーヘルで灰色装束を着ていた。

 アレか……不良だからワルとして泊を付けたいとかそういう理由か。


「しっかし、なんでこっちなんでしょうねェ。アンジェリカの亡霊とケリを付けたかったぜ」


「しょうがないでしょう。魔女は数を減らせばそれだけ弱体化しますから。だったら、ここで一気に減らしたほうがいい」


「あぁ? どういう原理だよ? それ」


「魔女の総数がそのまま、魔女達のそれぞれの強さに一定の割合で上乗せされるんですよ」


「へぇ~……よくわかんねえけど、まあいいや。とりあえず殺せばいいんだな?」


「……」


「あ、ひ、いや! 流石に大物はレイレオスさんにお譲りしますって!

 その、尊敬してるんで! 俺達は雑魚だけで充分ですって! マジで! へへ!」


 クソ野郎共!

 俺の堪忍袋はもう、爆発寸前だ!


 だが、ここで飛び出せば間違いなく十字砲火で蜂の巣だ。

 何よりビレスデアの人達に迷惑がかかる。


 だからこらえろ。

 我慢しろ。

 特にファルド!

 お前は仲間を侮辱されると後先考えず突っ込んでいくから――あれ?


「ファルド? どこいった?」


「あのさ、嫌な予感がするのよね」


「あたしも……」


「まさかとは思うが、ファルド殿は……」


 おずおずとドーラが指差したその先には。

 いたぞ!

 今まさに、アイザックに斬りかかろうとしている!


「皆殺しにしてやるッ!!」


 マズい、またダークサイドに堕ちてる……!

 あのモードになると、とにかく話を聞かなくなるんだよな。


「気配を、隠していた!? レイレオス! ボクを守れ!」


 言い終える前に、レイレオスはファルドの剣を受け止めていた。

 鍔迫り合いからは、火花が飛び散る。

 そしてアイザックは、何度もつんのめりそうになりながら逃げていく。


 正直、ブチ切れたファルドの太刀筋は滅茶苦茶だ。

 それでありながら、黒いオーラみたいなものを追尾させているから読みづらい。

 そこにアンジェリカの魔術も加わった。

 だがレイレオスは全てのオーラを、最低限の動きで弾き飛ばしていく。

 全身に目が付いているんじゃないかってレベルだ。


 ファルドが振り下ろした剣を、レイレオスが押し返す。

 あらぬ方向に向かったファルドの剣は、壁に激突。

 壁はみるみるうちにヒビが広がっていき、レイレオスが横薙ぎにした大剣がそれを完全に崩した。



 重低音が鳴り響く剣戟は、たちまち周囲を破壊していった。

 その音に誘われて、灰色連中が集まる。

 結局、こういう流れになっちまうのか……。


「レイレオスと言うのか。おそらく、ヴァン・タラーナの邸宅を破壊したのは彼奴だ」


「マジですか……」


 何かと顔が広いな。


「私も加勢する。援護を頼む」


「……わかったわ」


「あたしが撹乱するね! じゃ、お先に!」


 メイはそう言って、敵の中心に瞬間移動していった。

 例の「ばぁん!」を使って蹴散らしている。

 殺傷能力は無い……よな?


「ファルド。亡霊に頼るとは未練がましい」


「勝手に殺すな! アンジェリカは生きている! もう二度と失わない!」


 ――ガッデム馬鹿野郎!

 なんで、そこで正直に言っちまうんですかねえ!

 バレなきゃ狙われないだろうに!


「生きている……!?」

「そんな馬鹿な! 手筈は完璧だった筈だ!」

「本部に報告しないと!」


 周囲が騒がしくなっていく。

 灰色連中の攻撃も、すっかり勢いを失っていた。


 不良共もうろたえている。

 約一名、安堵してる奴がいるがな。

 いやお前、どの面下げて胸を撫で下ろしてるんだ。

 お前だよ、ユヴォル・マレッキ!


 レイレオスは首を振った。


「俺と同じには、ならなかったか」


「なるわけ、ないだろ」


「ならもう一度ここで処刑してやる。いるんだろ」


 ファルドから離れてアンジェリカを探そうとするレイレオス。

 俺はすぐに、道を塞いでやろうと思った。

 メイも同じ事を考えたらしく、俺とメイの二人でレイレオスの前に立ちはだかった。


「どこへ行こうと言うのかね!」


「創造主、お前は最後に殺す」


「え……」


 俺はいとも簡単に放り投げられ、民家の塀に背中を打った。

 くっそ痛い。


 ――それよりも気になる事があるじゃないか!

 今こいつ、創造主って言わなかったか!?

 仕込むとしたらヴェルシェくらいしかいない……あのクソエルフ!



「――伝令! 逃げ延びた魔女はメルツホルン線へと集合している模様! 帝国軍と合流すると推測されます!」


「まずはそっちから片付けるか」


「待て、レイレオス!」


「邪魔をするなら、殺す」


「望むところだ! 掛かって来い、死ぬのはお前だ!」


 殺伐としすぎだろうが!

 もうこれずっと前から何度も言ってるが、俺達の敵は魔王軍だろ!

 何回言わせりゃ気が済むんだ、マジで!


「お前らマジでいい加減に――」


「――おやめなさい!」


 そう、それ!

 さっすが、ルチア!

 まさしく、それが言いたかったの!

 だができれば、最後まで俺に言わせてくれると非常にありがたいんだが!


 ……って、え?


 ルチア?


「国王からの勅命です。直ちに戦闘を中止しなさい」


 ルチアだ!

 服装は前と違って、灰色地に金色のアラベスク模様の法衣を着ている。

 長い黒髪は頭の後ろで纏めているし、表情は見違えたように険しい。

 目は据わってるし、クマもできているが……間違いなくルチアだ。




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