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第百十二話 「ガッツのある奴ぁ好きだぜ、俺は」


 ラリー・ライトニングこと、この俺ジラルド・フォン・リントレアは元気に潜伏活動中だ。

 相棒ビルダニオ・ハマーダイク――もといビリー・ブリッツも一緒だ。


 メイには借りがあるし、シンの可能性を俺は何よりも評価している。

 いや、必要としている……そう言うべきかい?

 俺は、俺は……――



 *  *  *



 ここはひとまずの目的地である、帝国領の小さな港町ガルセナ。

 その郊外で、俺達は休息を取る事にした。

 良さそうな酒場があったのさ。

 ここでおっ始める前に、景気付けって奴だよ。


 素性の明らかじゃない連中が、この酒場にはわんさかいやがる。

 身を隠すには、おあつらえ向きじゃないの。



 俺とビリーは目深に帽子を被り、カクテルを呷る。

 追手がいるのに酒を呑むのは、常人のやる事じゃあ無いがね。

 俺達に限って言えば、追手の灰色共は酔っ払いながらのほうが相手にしやすい。

 素面で相手にすると、どうにも“湿気っちまう”のさ。


 グラスを、爪で軽く弾く。

 ……反応は、上々だな。


「マスター。いいグラスを使っているねえ。高かったんじゃないかい」


「これは、お目が高い。このグラスは共和国から仕入れたものでね。彼らの加工技術は総じて優れている」


「なるほど? 酒が旨いのも、このグラスの賜物かね。

 それとも、マスターの腕がいいのか。どうだい、相棒。どっちだと思う?」


 ――これは、俺と相棒ビリーにだけ通じる合言葉だ。

 こいつの答えによって、敵がどっちにいるかが判る。


「そりゃあ、アレだ。えっと……」


「なんだい、はっきりしてくれ」


「グラスを選んだマスターの審美眼がいいんだ」


「……つまり、どっちもって事かい」


「ああ、そういう事だ」


 ビリーは、我が意を得たりと頷く。

 つまり敵はこの近くの“外にも中にもいる”って事だ。

 やれやれ、今夜も眠らせて貰えないらしいぜ。


「ん。外が騒がしいみたいだ。ちょっくら様子を見てくるか。相棒、そのステーキは食ってもいいぜ」


「ありがとう」


「ステーキが熱かったら、充分に冷まして食えよ」


「もちろんだ!」


 外にいる追手――魔女狩り兵は、ざっと三匹。

 人の寄越し方が逐一ケチ臭いじゃないか。

 前世ではみんな、もうちょっと派手に追いかけてくれたもんだがねえ。

 俺はお前さん達にとって、その程度の男でしかないのかい?

 それとも、人手不足かい?


 悪いねえ。

 俺達が契約を蹴らなきゃ、その分の埋め合わせは余裕だったろうに。


 ……まあ、いいさ。


「うぎゃあ!」

「あああおォ!」

「ひぎっ!?」


 痺れるかい?

 俺の電撃は特別なのさ。

 さっさと蹴散らしたら、あとは放置だ。

 ゆっくり情報収集なんて、この辺りじゃ人の目もある。

 やめといたほうが無難かね。


「お、お客さん、さっきのはいったい……」


「ああ。野良犬がステーキの匂いに釣られてやってきたのさ。よっぽど旨そうだったんだろう。

 相棒、そのステーキはまだ手を付けていないかい?」


「見れば判るだろう」


「二人で取り分けるか。貧乏人の胃袋には、贅沢すぎる逸品だ」


 それにしても、ビリーの特技は便利だ。

 音を反響させる事で相手の動きを探るなんて。

 普通はできても場所と人数くらいだぜ。

 動きまでは見えない……。



 その後、マスターから宿を紹介してもらって、店を出た。

 もしも行き先で何かあった時は、あのマスターも道連れになる。

 卑怯なやり方だが、俺だって二度も死にたくはない。

 少しでも生存率は上げておきたいのさ。


 マスターが宿の名を俺達に出した事は、あの場の全員が聞いた。

 よほどの事でも無い限りは、追手も堂々と手を出しづらいだろう。


 帝国と魔女の墓場は戦争中だ。

 かつての帝国がやってきた行為、たとえば民間人を平然と殺して回るのを真似しようものなら、それは自分達の首を絞めるようなもんさ。

 同じ事をされても文句は言えなくなる。



 *  *  *



 宿屋の場所は把握できている。


「用事を思い出しちまった。相棒、付き合ってくれるかい?」


「大丈夫だぞ!」


 遠回りして、次の魔女狩り兵を敢えておびき寄せる。

 人通りが少なければ、それだけビリーの特技が冴え渡るからな。


「そういや、相棒」


「なんだ」


「お前さんも、気が変わって古巣に帰りたくなったら教えてくれよ? 多分、これが最後のチャンスだぜ」


 帝国軍残党と名乗る冒険者パーティは、ペゼルが宣戦布告してからほどなくして本国に合流。

 そのまま再編入という流れさ。

 ……短い付き合いだったが、悪くない連中だったよ。


 やっこさんがどういう考えで戦争を始めたのかは、だいたい解る。

 候補は二つ。

 一つは、魔女の墓場や勇者に代わって自分達で魔王を討伐する為。

 もう一つは、魔女の墓場を全力で足止めする為。

 このどちらかだろう。


 どっちに転んでも、帝国側にはメリットがある。

 自分達で討伐すればそれを振りかざして他国を従えられる。

 魔女の墓場を足止めすれば、魔王討伐後にファルドの坊やが帝国に付いてくれるかもしれない。

 ファルドの坊やも、自分達を裏切った王国よりも、その裏切り者共に立ち向かった帝国側に心を寄せるかもしれない。


 あくまで「かもしれない」の次元だ。

 元から期待しちゃいないだろうよ。


「そろそろか?」


「どうした、相棒」


「思い出した用事を済ませるんだろう?」


「ああ。この辺さ」


「了解した」


 ビリーは頷くと、振り返らずにダガーを後ろへ投げた。

 鈍い水音と、誰かが倒れる音がした。

 その現場へ向かえば、そこに倒れているのは腕にダガーが深々と刺さった魔女狩り兵だ。

 毎度のことながら、ビリーの腕前は痺れるぜ。


「ぐおお、何故だ! 何故バレた!」


 俺とビリーは、それぞれ自分の頭を人差し指で叩く。


「教えてあげないよ」


「バカにしやがって!」


 逃げないように通せんぼしたうえで、早速インタビューだ。

 その前に、一つ確認しておこうか。


「相棒。こいつ一人かい」


「反応があったのは一人分だ。問題ない」


「じゃあ、大丈夫そうだ」


 ……さて。


「で? お前さんのボスは、何をお望みだい?」


「俺が言うと思ったか!」


 そう来ると思ったよ。

 魔女狩り兵の中でも少数でやってくる奴は、大抵が強情っ張りだ。

 これが群れの連中だったら、ちょっと痛め付けてやればすぐに白状するんだがね。


「今のうちに言っときな。痩せ我慢は良くねぇ」


「ああん!? だぁれが痩せ我慢――ああああァアアアあばばばばば! しいいいびびびびびっびれえれれれええっるるるるううヴヴヴヴヴううッ!!」


 必殺、スパークグリップ。

 両手から電撃を発生させて、掴み上げるだけの簡単な技だ。

 これが前世でも使えたら、俺も死なずに済んだのかねえ。

 まあおかげ様で、こっちの世界でも楽しくやらせてもらってるが。


 そろそろストップしようか。

 やっこさん、あちこちから煙を噴いておいでだ。


「……言う気になったかい?」


「絶対に言わ――」


「――おお、そうかい?」


 スパークグリップを発動させて、目の前にかざしてやる。


「ガッツのある奴ぁ好きだぜ、俺は」


 すると、どうだ。

 あんなに強情だった魔女狩り兵が、


「あー! わかった、わかった! 言う! 頼むからもうそのバチバチはやめてくれ!」


 ……こいつも意外と、骨のない奴だな。


「じゃ、話してもらおうじゃないの。嘘をついても無駄だぜ。俺の相棒は勘が鋭い」


「こ、ここから西、ギャリゾック半島の灯台に、歌い竜が潜伏していると聞いた……奴隷化して、帝国を奇襲しようと……」


 歌い竜が潜んでいるという所は、俺の聞いた情報と同じだ。

 ギャリゾック半島の灯台は周囲を砲塔で武装していて、砲台も兼ねている。

 空からやってきた奴は撃ち落とされるし、陸路は険しい地形のせいで駄目だ。

 海も、砲台の餌食になる。


 たった一つ、抜け道はある。

 それは、地下道さ。

 あのへんにはゾ・ハの大空洞という洞窟があって、そこから灯台の地下へと行く事ができる。


 おそらく枢機卿のうちの誰だかは知らないが、そいつも把握しているだろう。


「ご苦労さん。もう一つ、頼まれてやってくれるかい?」


「た、頼む、命だけは! 俺には妻も娘もいる! 俺は、正しい道を示す為に、魔女の墓場に入ったんだ!」


「大丈夫さ。俺だって無駄な殺しはしたくない。ただ、ボスの居所へ案内してほしい」


「そういう事なら……」


「もちろん、騙して変な場所に連れて行こうものならその場で殺す」


「ひいい!」


 シンやファルドみたいに優しくはないぜ、俺は。


 反撃開始まで、あと少しだ。

 借りは倍にして返してやるさ。




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