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第百八話 「で、フラグの話だったか?」


 帝国領に向かうのは、俺とメイとジェヴェン。

 そして、ひーちゃん。

 残りはヴィッカネンハイム邸でお留守番だ。


 そういや、メイとジェヴェンは王国の城下町で会ってるから顔見知りなんだよな。

 割と因縁浅からぬ関係だと思うんだが。

 そしてジェヴェンは、当時メイが俺を投げ飛ばしたのをバッチリ目撃していたよな。


 ……今のメイは、北の最果てで会った時みたいな仮面は付けていない。

 完璧に、素顔だ。


 どう思っているんだろうな。

 お互い。


「私を殺したくなったら、いつでも来てくれ。覚悟はできている」


「その潔さには感服するね。元軍事顧問のジェヴェン殿」


 興味なさげな棒読み。

 明らかに皮肉で言ってるな。

 あんまり煽っていくスタイルは良くないと思うんだが……まあ、因縁浅からぬ関係だからな。


 こんなんばっかりだ。

 この世界に来てから、何度“因縁浅からぬ関係”って言葉を使ったか。


「……」


「殺して、どうするの? それで責任が取れると思ってるの? ぶっちゃけ、逃げだよね?」


「返す言葉もない。お前の言う通りだ。ただ、こうでもせねば覚悟が決められんのだ。不器用な私を笑ってくれ」


「笑えないよ……そうじゃないでしょ。シンなら、こう言う」


 お前の中で俺はどういうキャラなんですかね。


「必ず全てを償う。この命にかけて、世界を取り戻す……って言うと思うけど。そうでしょ、シン君」


「えーっと、まあ、そうだな。俺は魔女の墓場みたいな事はしないつもりだが」


 ……無茶振りはやめてくれ!

 ジェヴェンを説教したい気持ちはよくわかるが、ドーラがゆうべ散々絡み酒して説教しただろ!


 アレはマジで大変だった。

 テンプレめいた「私の酒が飲めんと言うか!」ってセリフもあったし。

 ジェヴェンは酒にはめっぽう強く、ドーラが潰れて寝るまで耐え切ったが。


 あ、メイも酒豪でした。

 肝臓強いって羨ましいね。


「……なんでよりにもよって、魔女の墓場なんかに付いちゃったのかな、ホント」


「あんまり責めないでやってくれよ、メイ。この人も色々と大変だったみたいだしな」


「力があるのに、いつまでも流されてるからいけないんでしょ。

 シン君もゆうべ、寝るとき言ってたじゃん。この人がもっと早くに寝返ってれば、こんな事にはならなかったって」


「耳の痛い話だ。肝に銘じておこう」


「肝に銘じるだけじゃ駄目。魔女の墓場の人達を半分くらい寝返らせてよ。君のカリスマパワーで」


 カリスマパワーって、あなた。

 いや、まあ……昨日の襲撃の時に体感したが。

 結構な数がジェヴェン側に付いたからな。


「帝国側の反応次第だ」


 あの宰相も大概、何を考えてるか読めない。

 頼むから、裏で魔女の墓場と繋がってましたなんて展開はやめてくれよ?



 *  *  *



 帝国領は、静かだ。

 ジェヴェンが魔女の墓場を離反したという報せなんて、翌日には届いてそうなもんだと思ったんだが。


 兵士達は、サッと道を開けた。

 いつもどおり、今までどおりに、俺達は執務室へと通される。

 執務室にはお馴染みペゼル・ラルボス宰相と、六人の近衛兵が控えていた。

 ジェヴェンは片膝をつき、一礼する。


「ご無沙汰しております、閣下」


「話は聞いている」


「どこまででしょうか、とお尋ねするのは……愚問でしょうな」


「私も今や一国を背負う身だ。嫌でも地獄耳になる」


 と、ここで宰相が俺達に向き直った。


「……お二人は申し訳ないが、一度退室して頂いてもよろしいでしょうか?」


 二人だけで話を進めるってか?

 内緒話とか色々あるんだろうが、このタイミングでやられると不安なんだよな。

 なるべく、事情を明かしてほしいもんだ。


「どうしても、内密にしなきゃいけないんですか」


「悪いようには致しません。それだけは信用して下さい」


「……俺達の状況、ご存知ですよね? 今更、信用しろって言われても……その、難しいじゃないですか。

 似たような事を色んな人に言われて、その殆どが手のひら返してこんなザマですよ」


 メイも境遇としては殆ど一緒だ。

 磔刑の塔に幽閉されるまでに、数多くの協力者が手のひらを返した。

 それを考えると、もう信用できる人は殆どいない。


「では、こうしましょう」


 目の前で、ペゼル宰相はダガーを引き抜いた。

 ううむ……やっぱりこうなるのか。


「ジェヴェン」


「は!」


 ジェヴェンも加勢するのか!?

 と、思ったら違うようだ。


「……紙とペンを。証書と血印でも差し出せば、失くさないかぎりはあなた方をお守りできましょう」


 そういう事か。

 悪いがそれも駄目だ。


 下手すりゃ全面戦争になりかねないが、しつこく食い下がったほうがいい。

 居場所なんて無くなっちまったし、仕方ないがな。


「王国でも似たような事はしてもらいましたよ。今は亡き、アリウス陛下から」


「ふむ……」


「しかも、クリスタルでコーティングされた奴を、宝箱で厳重に保管していました。見たこと、ありませんか」


「残念ながら」


 ……は? なんで?

 やっぱりコイツ、信用できないな。

 だって、書いてあった内容を俺は覚えているが……あれは王様だけのものじゃなかった。

 しょうがない。

 一言一句違わず、口に出してやる。


「勇者一行が致命的な不利益を被った際、各国の主はその理由如何にかかわらず全責任を負うものとする。

 またこの宣誓書は、要求に応じて即座に開示するものとする。

 以上の二項目は、当代の主が死した後も有効である。

 ――アリウス・ブラムバイツ・アレクライル」


 こういう時に備えて暗記してたんだよ!

 文面をパソコンに書き起こしてな!


「……」


「本当に、ご存知ありませんか」


「ええ。王国側で、まさかそのようなものが取り決められていたとは」


「……まあ、王様の独断だったとしても、国としてそのように取り決められたものです。

 ところが、王様が魔王軍に襲われ討死なされてから、その約束は反故になりました」


 この世界で、信頼関係の無い約束なんて役に立たないんだ。

 確かに王様は俺達を信じていたと思う。

 だが、国全体が信じていたワケじゃない。


 だから、民兵組織である魔女の墓場は、俺達を襲っても何も思わない。

 アンジェリカが魔女になったという理由だけで、簡単に手のひらを返す。

 冤罪である事を考えもせず、対立している筈の教会すら利用して、アンジェリカを裁こうとした。


 同じような事を、やらないとも限らないだろ。

 どうなんだ、ペゼル・ラルボス。


「この国の歴史を考えると、信用していただけないのも無理からぬ話か……致し方あるまい」


「じゃあ、俺達も入れてくれますかね」


「閣下。私からも具申したく存じます」


「それでもやはり、なりません。何故なら貴方が我々を信用出来ないように……石版の預言者。私もまた、あなた方を信用していない」


「――!」


 声のトーンが変わった!?

 やっぱり、コイツの本性も……!


「あくまでジェヴェンは我々、グレンツェ帝国の将として迎え入れたまでの事。お二人はおまけでしかありません」


「コイツは……!」


 俺が剣に手をかけると、近衛兵が一斉に槍を構える。


「もし逆らおうものなら、相手になりましょう。帝国軍、三万人の兵が!」


「いいの? ジェヴェンがそっちの味方になるとも限らないでしょ?」


「この場で私を斬り殺せば、帰る場所は無くなりましょう。魔女の墓場を離反したのですから」


「くっそ……!」


「と、いうのは冗談です。勇者と事を構えて、魔王軍に首狩りされても面白くない。アリウス王のようにね」


 やっぱりご存知でいやがりましたか、宰相閣下は。


「私としては、穏便な解決を望みますがね。それでも秘密にしておきたい事はある。ご理解いただけたでしょうか」


「……釈然としませんが、今回はひとまず呑みます」


「よろしい。では、待合室に案内させましょう。おい、きみ」


「はっ!」



 *  *  *



 近衛兵に連れられて、俺とメイは待合室へ。

 見てくれは普通の待合室だ。

 王国の城に比べると、近代的な造りをしている。


 そういえば俺とメイが二人きりになったのは、久しぶりな気がする。


「そういえば。別にあたしはジェヴェンを嫌ってるワケじゃないって事だけは、誤解しないでね」


「そうなのか?」


「むしろ、原作では三番目くらいには好きだよ。もう一つの正義って感じがして。でも、どうしてあんなふうになっちゃったんだろうね」


 それは俺が訊きたい。

 ヴェルシェの野郎が、因果律でも弄くり回したのか?


「そうだなあ。確か、原作では帝国軍の残党を率いて、ファルドと対立していたもんな」


 なんか久しぶりだな、原作というか予言書を意識するのは。

 すっかり関係ないルートを進んでいたからな。


 味方の筈だった奴が敵になった。

 六人の魔女がそうだ。


 そして、敵の筈だった奴は味方になった。

 ジェヴェンやルーザラカ、カグナ・ジャタがそうだ。


「ギャルゲーでもよくあるよね。どこかでフラグを立てた結果、ルートが変わるって」


「もっとマシな例えを出して欲しかった」


「いいじゃん。元の世界に戻ったら、一緒にやろうよ。執筆の合間でいいからさ」


「……そうだな」


 理解があるのはいいんだが、どんなゲームが好みなんだ?

 よくよく吟味しないと、地雷を踏んじまう……気をつけないと。


「で、フラグの話だったか?」


「そう。フラグ。流れがおかしくなってるのは、もしかしてヴェルシェがあちこちのフラグを調整してきたからなのかなって。乱暴な例え方だけどね」


「まあ、解りやすいっちゃ解りやすいかな」


「でしょ」


 ヴェルシェは八十を超えてから歳を数えてないって言ってた。

 下手すりゃそれ以前から、裏工作を繰り返してきたって事だよな。

 カマをかけていた説はナシだろう。

 色々と説明がつかなくなる。


「それを一つ一つ見付けて、打ち消すように動けばいいのかも。もちろん、簡単な事じゃないけどね」


「倍以上の年月が掛からないか?」


「ヴェルシェと同じ人数でやればね。あたしはもう、大丈夫。人を見る目は養ってきたから」


「俺も同じく。嫌でも嗅覚が鋭くなる。だが、いかんせん授業料が高すぎたよな」


「うん。とりあえず、ペゼルは黒だね」


「多分な」


 ドーラと同じく、原作未登場だ。

 で、なおかつあの言動。

 あからさますぎるのが逆に気掛かりだが……ほぼ間違いなく黒でいいだろう。


「いざとなったらテレポートで帰ろ。でも、その前に嫌がらせしま~す」


 何やるんだよ。

 メイはソファから立ち上がり、おもむろに扉の近くで息を吸い込む。


「や~いや~い、ペゼルのヒョロガリメガネ~。メガネ割れちゃえ~」


 棒読み、しかも小声。

 ちっちぇえ……あまりにも、みみっちい!


「聞こえているぞ」


 ここでドアが開く。


「んひゃあっ!?」


 突然現れたジェヴェンに、メイが奇声を上げる。

 ちょっと可愛いって思っちゃったのは内緒だ。


「……閣下はその手の誹謗中傷には慣れておいでだ。自らの品位を貶める真似は謹んだほうがいい」


「はぁい……」


 メイは眉根を寄せて、後ろ手にもじもじしながら口を尖らせる。

 お前は親に叱られて拗ねた子供かっ!


「それで、どうだった? お二人の密談はさ」


「現段階ではまだ話せない。だが、悪い話ではないという事は信じてくれるか」


「やだ」


 即答である。

 まあ、俺も信じられないが。


「……ふとした拍子に口を滑らせる事も、あるかもしれん」


 ジェヴェンは苦笑して、そう告げた。

 中身の見えない手土産だが、仕方ない。

 屋敷に帰ろう。




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