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第百七話 「変えさせていこうって思わせなきゃ、駄目なんだ」


 ジェヴェンを含め数十名が魔女の墓場から離反。

 離反組の中には、ドーラの部下達がいた。

 流石に全員揃い踏みとまでは行かなかったが……上々の結果だろ。


 むしろ嬉しい誤算だ。


 しかも、ヒルダを含めたヴィッカネンハイム邸防衛部隊は、全員生存だ。

 ファルドも、アンジェリカも、メイも、ドーラも、ロミヤも無事だ!

 裏切り者はいないぞッ!!


「想定外だ、こんな展開!」



 *  *  *



 ……さて、情報収集の時間だ。


 俺は今、他のみんなと一緒にいる。

 尋問室としてあてがわれた、小さな部屋だ。


 ジェヴェンが部屋の隅で、腕組みをしながら椅子に座っている。

 ……順番待ちだな。


 三番目に控えているクロムウェルは、気絶したまんまだ。

 目が覚めたら、たっぷり尋問してやるとしよう。

 ちなみにジェヴェンもクロムウェルも、ドーラが尋問を担当する。

 三人連続じゃ身が持たんと俺は言ったが、ドーラは体力バカだから大丈夫だそうだ。


 それなら、任せていいかな。

 そっち方面は、俺達は素人だし。



 それでは張り切って行ってみよう。

 最初の尋問対象は魔王軍の幹部、六人の魔女が一人……オフィーリア・アーケンクランツ。

 ファルドの先輩でもある彼女は今、捕虜として縄をかけられている。

 ドーラとファルドが、オフィーリアの猿轡と目隠しを外した。


「くっ、殺せ!」


 テンプレすぎるセリフ、開口一番に頂きました。

 メイ……そんな目で見ないであげてくれ。


「いや、だって。この人、あまりにも型にはまったセリフだったからさ」


「オークはいないがな」


 むしろオークを従えてたからな。

 思うんだが、ジェヴェンとオフィーリアの順番、逆にしたほうが良かったんじゃないか?

 明らかに長引きそうだぞ。


 とりあえず、三人の会話に集中するか。

 ドーラより先に、ファルドが口を開く。


「俺が先輩を殺せると思っているんですか……どうして、こんな事をしたんですか! どうして魔王軍なんかに!」


「疲れてしまったのだ。家柄で評価される、騎士団の実情に……」


「そ、そんな事!」


「確かに実力でも見られるだろうさ。だが、家柄はそれよりも優先される。特に、政治に関わる権利を持つ、上級騎士ともなればな」


 ふと、初めてオフィーリアと戦った時の事を思い出す。


『旧態依然な軟弱者の集まりに与する理由など無い。魔王様こそが、私の主に相応しいのだ』


 気になってはいたんだ、実際。

 どうして原作では味方だった筈のオフィーリアが、この世界では魔王軍に寝返ったのか。


「貴公はそれを目指そうとしたのだな」


 ドーラも多分、騎士の位を捨てるまでは上級騎士だったに違いない。

 オフィーリアは静かにうなずく。


「上は固まりすぎた。戦争を経て、各国が寄り集まったとて、その腐敗した体制をそう容易く変えられはしない」


 確かに腐敗はしていただろうなあ……。

 魔女の墓場だって、あんなに台頭しているワケだし。


「貴族は癒着し、先の大戦の傷も癒えぬというのに、兵は消耗するばかり。しまいには冒険者に何もかもを任せ、己共は自領に引きこもり、せっせと魔王討伐後に備えて懐を潤わせる事しか考えていない」


 そしてジェヴェンも耳が痛い話らしく、眉間のシワをよりいっそう深めていた。


「阿呆共に、何度も罵声を浴びせられたよ。さっさといい男を見付けて引退しろと。

 剣の腕など鍛えている暇があったら、包丁の使い方でも練習しろと」


 その苦悩は、全部とまでは行かないがわかるぞ。

 無駄なもん作ってないで将来に役立つ事をしろって、そういう事を言ってくる奴もいる。

 俺を相手にどころか、世の中に向けて言う奴までいた。

 世の中から創作物が消えたら、俺は何を楽しめばいいんだって話だよ。


 ……ただなあ。

 悪い奴は目立つんだよな。


 世の中、そんな悪い奴ばかりでもない。

 モードマンは人々の生活に役立つ発明をしていた。

 ゲルヒだって口では汚職政治家を自称するくらいだが、ボラーロの発展に余念がなかった。


「ファルド……お前が羨ましかったよ。勇者として選ばれれば、多少の無理は通せる。

 お前がそうしろと願えば、村一つ新体制へ改革するなど朝飯前だろう。

 だが、お前は何も望まなかった。それが、歯痒かった。私は村どころか、店一つ変えられぬというのに」


「だって、意味が無い。無理やり変えるんじゃ、意味が無いんだ」


「……」


「変えさせていこうって思わせなきゃ、駄目なんだ」


 オフィーリアは、首を振る。


「私も、そう思ったよ。だから、あらゆる場所を襲った。ムーサ村とかな。良い情報提供者が、守りの手薄な村を教えてくれたのだ」


「じゃ、じゃあ、ムーサ村を襲ったのは!」


「私だ。後で罠と気付かされたがな。とんだ間抜けだよ」


 お前かよ。

 あの時マジで大変だったんだぞ。

 ファルドとも喧嘩別れしかけたし。


 ……ジェヴェンが口元を苦々しく歪めた。

 そういえば村人の救出作戦で奮戦したとかって話だよな?


「私は、生きていてはいけない存在なのだ。人の世には」


「オフィーリア、先輩……」


「お前が魔王の世を望むのでなければ、私を今すぐ殺せ」


「嫌だっ!」


「――貴公の苦悩は把握した」


 と、ここでドーラのターンだ。


「やはり貴公と私は似た者同士という事だな」


「誠に遺憾だ。お前と同じなど」


「まあ聞けよ。私は、女が男に虐げられない世界を作ろうとしている。何度も妨げられ、しまいには国賊として国を追われたがな」


「カージュワック家と言えば共和国七伯爵家の一つか。高貴な生まれだろう?」


「と、思うではないか。七つの中でも最弱だ。そも、共和国は弱小国家。生まれが大きく左右するなら、何ゆえ私が王国の元国王、アリウス陛下の近衛兵を任される程に出世できたと思う?」


 確かに興味があるな。

 そういう“設定”だったって言えば簡単に終わっちまうが……ドーラは本来、原作では存在しなかった。

 そのドーラが、大任を背負っているその理由とは何だ?


「お聞かせ願おう」


「……伝える事だよ」


「声高に叫んで回ったのか?」


「否。とにかく、目立った。それだけで伝わった。民は、私の人となりを十全とまで行かずとも理解してくれたと思う」


 あー、アレか?

 俺で言えばSNSで作品を宣伝したり、活動報告しっかりやったり、感想を書きに行ったりするって事か?

 なんとなくだが、リアリティのある意見だな。

 オフィーリアはピンと来ていないようだが。


「そんな簡単な事で……」


「黙して剣を振るうのみというのは、熟達した一部の変態剣士共の理屈だ。私はそうではない」


 ただ単にやり続けても、目に止まらなきゃ駄目って事だな。

 それ自体を目的とするストイックなスタイルなら、別にいいんだろうが。

 ……オフィーリアの場合、そうじゃない。


「私と共に、目指してみないか? 虐げられない世界を。女が剣を持っていても、罵倒されない世界を」


「先輩。今は、俺は魔王を倒しに行くだけで精一杯だけど……それでも、俺は信じたい。

 ドーラさん。悔しいけど、この人を頼みます」


「心得た。貴公にとっては師とも呼べる存在だ。今度こそ、守ってみせるよ」


「う、うっく……ひぐっ……!」


 もっと早くに、この二人が出会っていればな。

 そうすりゃ、魔女にもならないで済んだかもしれない。

 それどころか、黄金コンビとして名を馳せてたかもな。


「お姉様って、呼んでもいいですか……」


 涙と鼻水を飛ばしながら、オフィーリアが懇願する。


「いいぞ!」


 ドーラがパチンと指を鳴らすと、オフィーリアを縛っていた縄が解けた。

 どういう手品を使ったんですかねえ、この脳筋クールお姉さんは……。

 さて、その脳筋クールお姉さんは両腕を広げ、少しだけかがんだ。


「さあ、私の胸に飛び込んでくるがいい!」


「お姉様ぁあああ!」


「よしよし……辛かったな。もう大丈夫だ」


 オフィーリアを抱きしめ、頭を撫でる。

 なんかこういうシーン、前にも見たような……。


 思い出した!

 ファルドとアンジェリカだ。


 と思って、ファルドを見る。

 赤面してるよ。ウブだねえ。


「……」


 なんでメイさんまで赤面してるんですかねえ。

 とまあ、完全にずっとドーラのターンだったな。

 最初はただのポンコツとか思ってすいませんでした。

 俺もお姉様って呼んでいいですか。


「シン君……?」


「すごいなって思ってな」


「ああ! ね!」


 メイさん、なんで嬉しそうなんですかね?


 とまあ、コイツの尋問はこれくらいか。

 後から聞いた話では、本物のスナファ・メルヴァンは帝都で死体になってた奴だったってくらいだ。

 次期魔王を狙って一旗揚げようとした矢先にライフル銃を盗まれた、とんでもない間抜けだって言ってたな。

 ……いろいろな意味で、可哀想なスナファ・メルヴァン。



 *  *  *



 ジェヴェンの尋問は予想通りスムーズだった。

 事前に話す内容を決めていたんだろうな。



 まず聖杯。

 これは枢機卿が分割して管理しているらしい。

 本部を襲撃されても大丈夫なように、リスクの分散だな。

 浅知恵働かせやがって、小賢しいわ!



 次に、現在の活動内容。

 これは、俺の残してきた文化を粛清するとかが中心だった。

 抱き枕を強制徴収して、踏み絵にさせた挙句に広場で焼き払ったりとか。

 蓄音機を壊して回ったりとか。


 いわゆる宗教改革みたいなもんだ。

 ちなみに、カグナ・ジャタはその件で人間に失望。

 ミランダとルーザラカとセレジー、楽団と画家を連れて消えた。

 まあ、無事ならいいんだ。

 無事なら、いつかは会えるだろうから。



 続いてルチアとヴェルシェ、ジラルドとビリー。

 あとは、アンジェリカの両親も。

 これは判らないそうだ。

 聞かされてないんだろう。


 ルチアはキリオが守ってくれてるといいんだが……せめて近況は知りたいな。

 不安要素が多すぎるんだよ。

 特に、ヴェルシェ。


 この辺はジェヴェンも単なる戦術アドバイザーだから、与えられる情報が制限されているんだろうな。

 まったく、浅知恵働かせやがって!



 最後に、レイレオス。

 あの陰険ジェノサイドキャベツ野郎も、やっぱり消息不明だ。

 ジェヴェンによれば、枢機卿の誰かと一緒に行動しているって事までは判ったそうだが。

 ……魔王を倒すまでに、どこかで戦うかもしれない。


 ちなみにクロムウェルは何をやっても起きなかったから、翌日に持ち越しだ。

 気絶を回復させる加護はあるにはあるんだが、その場で使える奴が誰一人いなかった。

 レイレオスについては、こいつが何か知ってるかもしれないな。



 以上を踏まえて、次に向かうのは帝国だ。

 ジェヴェンを味方に引き入れた今、ペゼル宰相なら話を聞いてくれるかもしれない。

 上手いこと利用されるリスクは、正直なところかなり高そうだがな。


 明日は、俺とメイとジェヴェンで帝都に向かう。

 だから、クロムウェルの情報は後で共有する形になるな。




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