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第百二話 「また随分とナイスタイミングだな」


 しばらくして、ヒルダはメイに向き直る。

 そして深々と頭を下げた。


「メイ。貴女を置き去りにしてしまった事は、申し訳ありませんでした」


「いいよ。やむを得ない事情があったのは、察してるし。それに、原因になった奴はもう……」


「そう言って頂けると助かります」


 裏切り者のザイトンは、おそらく処断された。

 協力者の多くが消えたものの、獅子身中の虫も同時にいなくなった。

 まだ残ってる可能性は否めないが、前よりはマシだろう。


「皆様に、会わせたい人がいます」


 唐突に、ヒルダは言い出した。

 誰だろう。



「待ってたのニャ!」


 屋敷のエントランスで、満面の笑みを浮かべるレジーナ。

 ん?

 レジーナ!?


「……石化してたんじゃなかったんかーい!」


 俺のツッコミを無視して、レジーナとメイは抱き合って再会を喜んでいる。


「貴公が噂に聞くレジーナ殿か!」


 会わせたいってのは、コイツの事だったか。

 だがちょっと待ってほしい。

 なんでコイツが元に戻ってるんだ。


 いや、嬉しいよ?

 ここまで色々やられっぱなしだったし、やっとまともな状態のレジーナを拝めるのは、正直ほっとするよ?

 だが物事には順序ってモンがあるだろう。


 だいたい、なんでメイド服なんだよ。

 それ誰の趣味?


「今しがたシンの提示した疑問は、順を追って解説していくニャ」


「俺は石化の件を除いて、一言も喋ってないぞ」


 レジーナは自身の頭を、人差し指でコツコツと叩いた。

 なんだよ。

 サイコパワーでも使ったか?

 心が読めるってか。


「つい先程、回復したばかりなのニャ!」


「また随分とナイスタイミングだな」


「ご都合主義だと謗るなかれニャ! 実はレジーナがその“つがいの石版”に細工を施している間、仲間達に指示を飛ばしていたニャ」


 仲間。仲間ねえ……。

 まさか、裏切って石化させた奴じゃないよな?


「レジーナを石化させた奴を見事ひっ捕らえ、解呪方法を白状させたのニャ! 奴が空腹のあまり涙する姿は、見るに堪えなかったニャ。

 レジーナは慈悲深いから、激辛こってり濃厚わさび鍋を食べさせてあげたニャ。喜びのあまりのたうち回ってたニャ」


「あはは、相変わらずえげつないねー!」


「わさびが勿体無い気がするんだが」


「天然の山わさびは美味と聞いた。ぜひ、私にも作ってもらいたいな」


 ドーラさんは相変わらず冷静に軸がブレてらっしゃる。

 ていうか、あるんだ。

 わさび……。


「さて、ここで問題ニャ。レジーナの仲間とは?」


「仲間達って、あたし達の仲間?」


「そりゃヒルダさん所の魔女達じゃないのか」


 レジーナはチッチッと指を振る。

 不正解ですね、わかります。

 何かムカつくな。


「ここまでの冒険で、道端に猫はいたかニャ?」


「猫? なんでいきなりそんな事を……いや、待て」


 猫耳少女じゃなくて、猫型の魔物でもなくて、単なる猫だろ。

 いや、いるだろ。普通は見かけるだろ。

 ……あれ、そういえば鳴き声も聞かなかったような。


「ニャフフフフ。みんな当たり前すぎて気づいてなかったニャ。しかしシンは石版にそのヒントがあったの、知らなかったニャ?」


「そうだったか?」


 早速、パソコンで調べてみる。

 猫を使役するって設定があった。


「……こんなん解るワケねーだろ! 猫を使うのが、イコールこの展開に結びつくとか、伏線の拾えない俺に求めないでくれ」


「心当たりは、無かったワケじゃないわ。マタタビを買った時、最近は売れ行きが伸び悩んでるって店員さんが言ってたし」


「そんなに前だったのか。だが、レジーナが途中で正気に戻った時があっただろ。アレはどう説明するんだ」


「術式で石版と繋げる準備は、あの頃からしていたのニャ」


 抜け目ねえな。


「ていうか、心が読めるんだよな? だったら、どうして間抜けにも石化なんてされちまったんだ」


「心が読めるのはシンだけだニャ。他は洞察力でカバーするしかないニャ。

 しかし奴等の裏切りは、この海のリ○クの目をもってしても見抜けなかったのニャ」


 どうやってそのピー音を発音したのかわからねえが、こういうキャラだからなあ。

 久しぶりに黒歴史が俺の魂を殺しにかかってきた気がする。

 うう、心臓が痒い……。


「で、この服装のことだがニャ。これは屋敷に余った服がこれしかなかったのニャ」


「さいですか」


「け、決して、ヒルダの趣味なんかじゃ、ないんだからニャ!」


 エセツンデレ風味の喋り方はあざといを通り越してうざいからやめろ!

 そういうキャラじゃないだろ、お前は!


「あれ、ドン引き!? つれないニャー」


「レジーナ。手作りである事を隠して私にあらぬ疑いをかけさせるのはやめなさい」


「ちぇ。わかったのニャ」


 それにしても、改めて思う。

 ヒルダは間違いなく、ファルドの実母だ。

 顔立ちが似ている。

 何となくどころじゃない。


 目鼻立ちが殆どそっくりなんだ。

 眼の色は今でこそ赤いが、元はきっと青色だろうな。


 ……今はまだ、ファルドをエマとニールに預けた理由は話してくれそうにない。

 だいたい想像はつくが。

 これは次の機会にでも、話してもらおう。


「とりあえず、どうするんだよ? これから」


 まさかここを拠点にして、魔女の墓場と事を構えるなんて展開は無いだろ。流石に。

 色々あった結果、ヒルダは自分の屋敷を結界で封印したんだろうからな。

 俺達にできる事はと言えば、屋敷を再び封印してもらいつつ、魔女の墓場と戦うだけだ。


「あたしの最大の目標は済ませたけど、魔女の墓場はまだ残ってるよね」


「陛下に恩返しをしたい。奴隷魔女も解放したい」


「奴隷魔女に関しては、私のほうで準備を進めています」


「すまないな、ヒルダ殿。恩に着る。だが、優先するなら……アンジェリカ殿のご両親だな。私はどうにでもできるが、彼女はそうも行くまい」


「私の親か……」


 ファルドとロミヤはさっきから黙りこくっている。

 言葉が出てこないのか、頭が回らないのか。

 まあそりゃそうだろ。


 親が死んだと思ったら実の親じゃなかったし、色々ありすぎて混乱も致し方無いと思う。

 俺だって、ファルドと同じ立場ならしばらく塞ぎ込む。


 アンジェリカはどうだろうな。

 俺の記憶が正しければ、アンジェリカが連行されてから裁判(という名目のリンチ殺人)まで、一度も両親を見かけなかった。


 ……見捨てた、なんて事はないと思いたい。

 いくら勘当したと言っても、娘だぞ?


 こういう考え方だってある。

 同調圧力だ。


『みんなが叩いているからお前も叩け』


 最低の発想だ。

 イジメっ子と何が違うのか。

 改善するための提案をするのでもなく、良さを見つけるのでもない。

 理由をあげつらって、ただ単に精神的リンチを加えるだけ。


 ましてやアンジェリカの場合、やむを得ない事情で魔女になった。

 その上、冤罪というか言いがかりまで付けられた。

 悪い噂が広まれば、概して無関係な第三者は好き勝手に言う。


 証拠集めの最中も、何度気分を悪くしたか。

 ……ヴェルシェの野郎は、内心ほくそ笑んでただろうがな。


 アンジェリカの両親、アデリアとアウロスは……どうだったんだろうな。

 エマとニールみたいな事にはなってないといいんだが。


「ニャ……正直、やること“マンサイ”でややこしや~って感じかニャ?」


「“萬斎”だけにってか?」


「さっすが! よくわかってるニャ!」


「アホか! ンなもん、知ってる人にしか伝わらねーよ!」


 真面目に考えてるのを茶化すんじゃないよ!


「そこで一つ! 目標を伝えるニャ」


「……で、どうしようっていうのよ?」


「ヒルダがみんなを呼び寄せたのは、今のままじゃ勝ち目がちょっと薄いからニャ。

 確かにみんな、沢山の戦火をくぐり抜けた、歴戦の勇士ニャ。だがしかし! 勝利を確実なものにしたいニャ」


「具体的には、どうすればいいかな?」


「それは! 特訓ニャ!」


 修行じゃなくて特訓か。

 短期間で何かを習得するってニュアンスか?




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