骨格フェチ
私には愛しい人がいる。
「こんにちは」
と言えば
「こんにちは今日はいい天気ですね、用務員さん」
と一言増やして答えてくれる優しい人。
優しいからこそ教え子にも好かれているのだ。
それに彼女は、心だけでなく姿も美しいのだ。
30は超えるらしいのに、余り目立たない皺やシミ、今でも潤っているピンク色の唇。少女のようなキラキラとした瞳、何もかもが彼女の美しさを引き立てていると思う。
だけど、私が思うのは彼女は1番出会った中でその骨格、筋肉のつき方が誰よりも美しいということだ。
彼女に会えるのは、学校が始まる時と、彼女が帰る時。
今日の夕方何時もよりも早く彼女が学校から出てきたのだ。
その頬は夕焼けに負けない位紅かった。
ふと、目線を下げると彼女の左指にキラリと光るものがあった。
「婚約ですか?おめでとうございます」
「あっ、ああ用務員さん。そうなんですよ、ありがとうございます」
上気した頬はさらに紅くなっている。
その姿を純粋に好ましいと思えたが、1つ不安に思う事にいきあたってしまった。
「子供とか、未来を想像すると楽しいでしょう」
「ええ、とても」
ああ、やはりだった。結婚という幸せを前に次の幸せ……彼女は子供を望んでいた。私が危惧するのは妊娠により、彼女の美しい骨格がずれてしまう事だ。
「あの、失礼します」
ああ、なんてモッタイナイ。
「キヲツケテカエッテクダサイ」
そんなやりとりをして、数週間後、彼女が学校に来なくなった。
無断欠勤をするような人では無いので、家に校長が電話をかけても留守のようで、学校が困っていた所、連絡が取れなくなったことを心配した彼女の婚約者が家を訪ねた所家に帰った様子は無かったらしい。これは、何か事件に巻き込まれたのではないかと彼女の婚約者が警察に届出を出したそうだ。
連日、テレビや新聞では幸せの絶頂で消えた彼女の行方を探している事を報じている。
ああ、彼女が無事だといいと思う。
私は、冷蔵庫の中にあった肉を食べながら、彼女が見つかったという記事が出ないか新聞をめくったが、やはりそんなものは無かった。
ああ、彼女が恋しい。例え、私のものにならなくても彼女の姿が見えれば良かったのに。
目に入った肉の骨すら、愛しい彼女のものに見えてくる。
そうだ、これで彼女そっくりの骨格標本を作ろう。
何、肉は沢山ある。それ即ち骨も沢山あるという事だ元々の仕事と作業を交代で毎日やれば早く終わるだろう。
ああ、出来上がるのが楽しみだ。
狂った男の話完
次ページ投稿予定skeleton&human phantom dancingの前話となります。
ちょっとした息抜きのようなもの。
会話は学校の校門でやってるので学校という範囲としてはセーフだと思ってます。