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成り代わりさん



*0



友達がいるから、義務教育だから学校には通わなくてはいけない。


いや、高校にも私は行くだろう。後、この地獄は3年も続くのか、嫌だなと純粋に思いますの。


あいつらが特に多くいるから私は学校が嫌いで。好きな所もあるけどやっぱり嫌いで嫌いでどうしようもない。


特にあいつらに関する噂話が私は嫌いで。それは元々は弱いあいつらが力をつけてしまうから。



*1



人気がまばらになってきた放課後。帰宅部の彼らも、部活がある者もとうにいなくなって2人の少女がただ残っていた。


「恵美里ちゃん何読んでるの?」


真っ黒で一糸乱れない髪は恵美里ちゃんの儚い感じを出していると思う。とにかく、本を読んでいた恵美里ちゃんの邪魔にならないように一息ついたなと感じるタイミングで声をかけたのだ。


「羅生門よ、咲さん」


「うへあ、難しそう」


羅生門ってあれだよね、教科書にあったやつ。わざわざ読もうとは私は思わないけどそれを読みこなしている恵美里ちゃんは恰好いいな。


「それで、どんな用かしら?」


本を置いて、本格的に話を聞いてくれる体勢になってくれた。


「あっ、そうだ恵美里ちゃんは知ってる?小学校の時噂になった動く人体模型の話」


夜になると、人体模型が学校を徘徊しているというただそれだけの噂だ。あっ、学校の七不思議のうちの1つだったっけ?今では、見てもそこまで怖くなくなったけど低学年の頃はそこにあるだけで怖かったのだ。今では平気なったから、成長したのかなそう考えるとちょっと嬉しい。


「知ってるわ、当時も咲さんは私に話していたでしょ」


そう言って、ちょっと頬を膨らませているけれど子りすのようでとても可愛い。普段が、ちょっと妖しい感じがする美人さんだから、ギャップという奴だ。私がやっても、子供が駄々をこねてるみたいになるだろう、美人は得だ。


「そうだった?」


うーん、覚えてないな。


「当時、嫌がる私を見てさらに話し続けたのは咲さんでしょ?それで?」


あっ、思い出した。恵美里ちゃん、頭も良くて和風美人さんで色々完璧だから、恐いの苦手と知ってからかったんだ。


「話してもいい?」


「咲さんが気を使うなんて……」


恐いの苦手だから、話していいものか悩んだのに、恵美里ちゃんのこの反応!!もう恵美里ちゃんが嫌がっても話しちゃうもん。


「弟が話していたんだけどね、人体模型が人になりすまして生活しているんだって。それでね、人体模型は人でいたいから自分が人体模型だとバレちゃったら気づいちゃった人を消しちゃうんだって」


話しちゃうもんと言ってもそれだけなのだけども、考えてみて欲しい。骨と筋肉が半分ずつむき出しになってる人体模型がひっそり何食わない顔で人の真似をして存在しているのだ。 しかも、気づいたものを消しちゃうという事は、ひそかに殺していると同じじゃないか。


「あら、怖いわね」


「うん、恐ろしいの恵美里ちゃんも気をつけてね」


「咲さんは私を心配してくださっているのね、咲さんも気をつけてください」


ホロホロと笑っている恵美里ちゃんの目は、笑っていなかった。何だか、恵美里ちゃんの持ってる雰囲気も相まってとても怖く感じる。


「ところで、咲さん」


「なあに?恵美里ちゃん」


「加藤さんが来てますよ」


加藤とは、私の幼なじみの伸という、男で私の好きな人だ。後ろを振り返ったら本当に来てた、待たせちゃったかな?


「うぇっ、本当だ、じゃあ恵美里ちゃんまたね」


「愛されてるのですね……また明日」


手を降ってくれた恵美里ちゃんは、いつもの恵美里ちゃんだった。それにしても、愛されてるのですねって、まだ伸とはそんなんじゃないのに〜。


「おまたせ、伸」


頭1つ高い幼なじみは、利き手の左手でイライラしたように、頭をかいていた。


「おせーぞ、咲」


やっぱり、イライラしてたみたいだ。約束していた時間より15分遅れただけなのに。


「佐川さんと、何話していたんだ?」


「恵美里ちゃんと?」


「ああ」


話していたのは、動く人体模型なんだけど、話しても馬鹿にされないかな……。中3になっても、オバケを信じてる何てガキっぽいとか思われないかな。一応、話す相手はちゃんと見極めているつもりなのだ。


「人体模型の話」


話しをふられたのが嬉しくて結局話すことにした。


「なあ、俺の友達の宇田川知ってるよな」


人体模型の話しが終わった頃伸が唐突にそう言った。余りにも、話が飛んで一瞬ポカーンとしてしまった。間抜け顔だと思われてないといいな。


「知ってるよ、伸と同じクラスだよね」


中3になったから、流石に同学年は全員覚えているんだけどな。私は馬鹿だけど人の名前を覚えられないほど馬鹿じゃない。


「ああ、その宇田川がな何か違うんだよ」


「違う?」


思い浮かべるのは、私と同じ位の身長で坊主頭の宇田川君。ニコニコとしているけど体格がそれなりにいいので怒ると怖い、そんな宇田川君。


「宇田川もな、左利きなんだよ」


「伸と一緒だね」


伸の利き手も左手だ。私は、右手だから、分からないけどハサミとか専用のじゃないと使いづらかったりするみたいなのだ。


「だけど、最近宇田川は右手を利き手にしてるみたいなんだよ。あいつ野球部だからさグローブ持ってるじゃん?わざわざ左利きの買ってるのに最近はそれを右手で使ってるみたいなんだよおかしいじゃん」


使いづらい以前の問題じゃないと思うんだけど、それは。


「それに、宇田川は真面目な奴だから授業中に、寝たりなんて絶対にしない奴なんだ」


確かに、野球でも名門の所に行って活躍すると公言していた宇田川君は、授業でも特に熱心に受けていると先生達が絶賛する程なのに。


「宇田川君は疲れているんじゃない?」


今の時期野球部は夏の大会があるみたいだし。


「左手グローブを右手で使うようになった宇田川は降格されたよ」


うーん、確かに可笑しな話だ。


「咲が、人体模型の話をしたから思ったんだけど宇田川は人体模型に消されたんじゃないのか?」


「えっ、でも弟は人になりすましているだけだって」


生きてる人の存在を消して成り代わるなんて私は知らない。


「だから、宇田川という人になりすましているだろ」


怒って、頭をかいている。これは、伸の癖だ。他に、照れたら頬をかいたり、嘘をついたら耳を触ったりとても伸は分かりやすいのだ。


「ねえ、伸」


何だろう、とても嫌な感じがする。


「宇田川君に問い詰めるとかしないでね、何もしないで」


宇田川君はもう消されちゃったのかもしれない。けど伸は消されたくないのだ。


「しねーよ、俺だって命が惜しいからな」


私を安心される為か、八重歯が見えるほど口を開いてにやっと伸は笑ったのだ。


「あっ、家に着いちゃった、誕生日プレゼントについて何も考えれなかったね」


私達は、親ぐるみで仲がいい。生まれた時から伸と一緒なのだ。もう少しで伸のお母さんの誕生日だから、一緒に買おうという話になって待ち合わせしてたのに全然その話ができなかった。


「じゃあ、明日話そうぜ」


明日も一緒に帰れる。その事に嬉しくなって勿論私はうんと答えたのだ。



*2



「ただいまー」


「おねーちゃん、おかえり」


トタトタと覚束無い足取りで弟がよってきた。まだ小2の弟はとても可愛い、可愛いすぎて食べてしまいたいくらいだ。


「おねーちゃん、あのねあのね、学校のじんたーいもけーがねなくなっちゃったの」


……言ってる内容は全然可愛くないんだけど。


「そんでね、じんたーいもけーは、やっぱりだれかになってるんだーってねなって女の子がこわかってたから、ボクだいじょーぶだよーって言ったの」


「そうか、えらいね」


「うん、こわがってないちゃったこがいたんだけどね、せんせーがじんたーいもけーはないぞーていうやつをうばえばうごけなくなっちゃうからだいじょーぶだから、こわがっちゃ、だめよって言ってた」


弟のクラスの先生は、何言ってるんだろうか、あんなグロテスクな物が近づいてきてそんな冷静に対処できる訳ないじゃないか。


「そしたら、女の子がなきやんだの、せんせーは凄いよね」


凄いのかな、それは……。


「だからね、おねーちゃん、もしじんたーいもけーがおそってきてもバラバラにすればいいんだよ」


人体模型をバラバラに……宇田川君をバラバラに?何を考えているんだろう私は……ただもし伸が言ってた通り宇田川君が人体模型だったら伸は、バラバラにしないといけないのかな。


「おねーちゃん?」


「何でもないよ」


その日の夜、お風呂に入った後、伸に電話をかけた。1つに誕生日プレゼントの件で、もう1つは人体模型の件で。


「そうか……バラバラにか」


「うん、だって伸自分も不安な時でも私が不安がってると八重歯が見えるほど笑うじゃん、だから対処法知ってると伸は少しでも安心かなって」


「ああ、咲ありがとうな」


柔らかいその声にやっと安心できた。今日は、怒ったり悲しんでいたり心配してたりする声だけだったから、普通のいつもの声を聞くととても安心できる。それは、とても優しくてああ好きだなと感じられるから。


「うん、伸また明日ね。今度こそおばさんの誕生日プレゼントを考えようね」


「分かってるよ、また明日」


ピッと電話を切って、考える。


おばさんの誕生日プレゼントの事、人体模型の事、宇田川君の事。そして、伸の事。


私は、これから先も伸と一緒にいられるだろうか。 考えても仕方ない事だけどやっぱり気になる。いつか恋人になれたらなと思うけど、暫くは幼なじみという関係を崩したくない……。


「よし、寝るか」


最終的には、考えること自体を放棄してしまったのだ。



*3



つぎの日、普通に学校に向かった。ようは、関わらなければいいんじゃないかなと思う。人体模型だろうが、普通にしてればちょっとおかしくてもそれは宇田川君に代わりないはずなんだから。


「恵美里ちゃんおはよー」


恵美里ちゃんは、何時でも一番乗りだ。私は、弟が今日飼育当番で早く出るから友達も一緒じゃないし時間帯も早いしまだ幼いから危ないとだから、姉である私がどうせ中学校に行く途中に小学校があるんだからと早く家を出された。


校門が開いていたから良かったけど、恵美里ちゃん以外まだ来てないんだけど……。


「おはようございます咲さん」


それにしても恵美里ちゃんは、不思議な子だと思う。不思議な子というか、雰囲気が他の子と違うように感じる。何だか大人びているように感じるのだ。


私は、そんな恵美里ちゃんが好きだ。


「恵美里ちゃんは、人体模型の話が本当だと思う?」


「昨日の続きですか?」


心なしか、人体模型の話をふったらしかめっ面になった恵美里ちゃん。


「咲さん」


「なあに?恵美里ちゃん」


「嘘か、誠かは判断出来ませんが余り口になさるのはやめた方がよろしいですわよ。嘘であっても誠となることすらありますもの」


「難しいよ……恵美里ちゃん。恵美里ちゃんにも聞いてもらいたかったんだけど、話さない方がいいの?」


「私は怪談が苦手です。それは……いいえ、やめときましょう。しかし、今回ばかりは話を聞かせてください、何か嫌な予感がするのです」


恵美里ちゃんの真剣な表情に、何も言えなくなった私は昨日の事を話すことにしたのだ。


「この時間帯なら、宇田川さんは来てますよ、行きましょう」


話を終えたら恵美里ちゃんは立ち上がって私の腕をつかんだ。そのまま、引っ張られる形となった。


「えっ!?今から行くの」


突然、腕を引っ張られて驚いた。まさか、恵美里ちゃんが乗るなんて思ってなかったのだ。


ズンズンと、進んでいくけど何だか確かめるのは恐い。人体模型何て信じてなんかないけど実際に見るのは怖い、そんな気持ちだ。


「宇田川さんいます?」


鈴を転がしたようなリンとした声でいてそれでいてたのもうと乗り込んでいるそんな感じで恵美里ちゃんは堂々と入っていった。


「えと、エミリー?どうしたの突然、学校では僕に話しかけないのに何かようでもあるの?」


「ええ、宇田川さん。あなたは確か今姪っ子さんが家にいらっしゃるのよね?」


「えと、恵美里ちゃん?」


ついていけないのは、私だけではないはず。突然、別のクラスの子が男子を呼び出して姪っ子の話を始めたのだ。意味がわからない。何か、宇田川君と恵美里ちゃんは、仲いいんだなと分かったけど。


「う……うん、いるよ。おばさん、僕の母さんの妹何だけど盲腸になっちゃって入院する事になったからその間僕の家で預かってるんだけど」


「授業中に、真面目で1度も寝たこともない宇田川さんが眠ってしまったのは姪っ子さんの相手をしたからでしょう」


「う……うん」


知らなかったよ恵美里ちゃん。けどなんで知っているの?……てか戸惑っているよ宇田川君。


「私、野球が好きなの」


「そ……そうなんだ知らなかったよエミリー」


「ええ、言ってないもの。それで、私は宇田川さんの所属している野球チームが全国中等学校野球大会予選突破すると約束してくださるなら、宇田川さんに変わって姪っ子さんの送り迎えをしてあげましょうと申し込みに来ましたの、数時間なら相手もしてさしあげますわ……これは、家が隣なのですし気にしないでくださいな」


「えと、それを伝えにエミリーは来てくれたの?」


「ええ、宇田川さんとはクラスが違うゆえ話す機会もなかなか無いので。おば様にも伝えといてください、明日からしますわ」


「本当にいいの?ありがとうなエミリー絶対に僕甲子園に行くよ。あっ、鍵いる?」


そう言って、宇田川君は、左ポケットから鍵を出そうとしたけど恵美里ちゃんが、それをやんわりと止めてた。明日から行くと言ったでしょうとちょっと怖い顔をしてる。


「本当の本当にありがとうなエミリー」


「お気になさらず、その言葉を忘れてはいけませんわよ。それでは咲さん行きましょう」


宇田川君はきっと感謝を込めて左手をブンブンと降っていたのに恵美里ちゃんは1度振り向いたきり普通に歩いている。


「咲さん、これで分かりましたか?」


そう言って、恵美里ちゃんは私の顔を見つめてきた。その真っ黒な瞳はどこまでも透き通っていた。


「知らなかったよ、恵美里ちゃんが宇田川君を好きだなんて」


「はい?」


そう言えば、恵美里ちゃんは心底不思議そうに首をかしげている。が、私には分かってしまったのだ。


「だって、恵美里ちゃんわざわざお世話をかうほど宇田川君の事を想っているんだよね」


「これは……前々から考えていたのですし、咲さんが考えている事が違うという事を証明したかっただけですわ」


「違う?」


「ええ、宇田川さんは人体模型なんかではありませんわ……授業中に、急に寝るようになったのは今までよりもさらに睡眠時間が無くなったからで、野球部降格も無かったでしょう?むしろ、宇田川さんが引っ張るとおっしゃっていましたし。それに、宇田川さんは、左手を使って手を振ってましたわ」


恵美里ちゃんの言ったことを一つ一つ考えると、確かに宇田川君は、鍵も左ポケットに入れてたし、右手を使って取り出そうとしてなかった。


「うん、そうだね」


「姪っ子さんは、お母様を思い出して夜中に泣くのですよ。わたくしの家にもその声は届くのでそれは凄い音量だとおもいますの」


「そうなんだ」


確かに、そんなふうに泣かれたら宇田川君もまともに睡眠時間を取れないだろう。


「ねえ、恵美里ちゃん」


「なんでしょうか咲さん」


まさに見返り美人といった感じの恵美里ちゃんの口元は深入りしちゃダメですわと動いて次の言葉を言えなかった。


「……何でもない」


なら、伸が疑問に思ったのはどういう事だろうかとは聞けなかった。



*4


「伸おまたせー」


放課後、待ち合わせていた伸と色々見て回って誕生日プレゼントを決めようという話になったのだ。


「商店街でいいよな」


「まあ、そこが妥当だよね」


2人でお金を出し合って、2000円位のものを買おうという話で昨日の電話で決めたのだ。


「おばさん、何が好きだったっけ?」


返事が来ない……。


「伸、聞いているの?」


「ああ、うん聞いてるよ母さんが好きなもの……ああ、そういえばフラダンスとか」


「えっ!?」


「いや、あれフラダンスに興味持ってたよな」


「……知らないよ」


フラダンスは、問題じゃないのだ。確かに、以前おばさんが興味もってるらしいとお母さんが言ってたけど、今も興味あるかは知らない。


伸は、割と雑で乱暴だ。最近は、受験があるからか収まっていたけれど頑としておばさんの事をババアと呼んでいたのだ。


おばさんが、悲しそうに言っていたから印象に残っているのだ。


「フラダンスかー、誕生日プレゼントとして考えると難しいね。他に好きなものは?」


「母さんは……可愛らしいものが好きだ」


違うよ、伸。それは伸のお姉ちゃんの趣味だよ。どちらかというとシンプルなのがおばさんは好きだ。


「ありがとうございましたー」


結局、誕生日プレゼントは私が押したシンプルなトートバッグにした。バレないように私が預かることにしたんだけど。そのバッグは伸が持ってくれた……右手で。


「ねえ、伸」


「何だ、咲?」


どこからどう見てもこれは伸だ。けど、私はもしかしたら昨日から気づいていたのかもしれない。


「私は、伸が好きだよ」


何ともないように吐く小さな言葉は伸にも届いたようで目を泳がせた後


「……悪い、お前をそんなふうに見れない」


私をふった。


「知ってる」


そう、知ってるのだ。伸のお母さん達には叶わないかもしれないけど、同級生の中では一番私は伸の事を知っているのだ。だから、伸が私を幼なじみの枠以上に見てないことなんて知っているんだ。


「ねえ伸を返してよ、私は本当の伸から返事を聞きたい」


本当なら、伸の迷惑になるから言うつもりなんて無かった。


「伸は……そんな風に笑わないもん。それに優しくもないし、本当に最低な人なの、だけど伸は伸で代わりはいないの……あなたは違うでしょ」


だけど、それは伸といられるからでそれすら出来ないなら何もかもぶちまけたい。宇田川君なら、別の人でも平気で伸ならダメなんて我ながら最低だ。


「何を言ってるんだ咲」


困惑した、伸に似た何かが近づいてくる。


その一歩は遅いけど確実に近づいてきている。


「嫌、来ないで」


「俺は、加藤伸だよ」


犬歯が見える笑い方で言うけど、それは伸が不安な時するもので……こんな時しないもので。


「貴方は……人体模型でしょ?」


宇田川君ではなかったのだ。むしろ、宇田川君に疑いを向けた伸の方だったのだと思う。


「……何を言ってるんだ。人体模型が人になるなんてただの噂だろう?」


私もそう思っていたけど……人体模型が消えたという話と伸が伸じゃないということはもう、人体模型のせいなんではと思ったのだ。それに、伸の顔でそんな風に笑わないで欲しい。


「なら、何で宇田川君に疑いのめを向けるようにしたのよ」


もし、それが無かったら多分気づかなかったに違いないと思う。


「話に乗った方が面白いかなと思ったんだよ」


「人を貶めるような嘘は伸は言わないよ」


「お前の前ならな」


人体模型の対処法は、その内蔵を奪うといいんだっけ?


「もしかして、俺をバラバラにするのか?咲」


……見透かされている。それでも三日月型に歪んた笑みを浮かべ、伸のようなものはニヤニヤと、笑っている。


「ここまで来たらダメかなもう、そうだよただの人間になりたかった人体模型だよ俺は」


決定的な言葉を伸の姿をした人体模型は言った。


「ねえ何で、私に嘘を言ったのよ」


「だって、咲ちゃんは加藤伸の事が好きじゃないか。いづれ僕に疑いをもつ。しかも、人体模型の噂を知っていたしね、このままだと、危なかったんだ。なら、疑いを別の所に向けた方が楽かなと思ったけど、逆効果だったね」


咲ちゃんなんて、伸は言わない。伸の声だけどそれは別の声のような感じがしてとても気持ち悪かった。


「伸を返してよ」


それで、ちゃんと振られたい。そう、思って人体模型に向かって睨んだのだ。振られないのが一番だけど伸がいてくれればいい。


「無理だよ」


「なんでよ」


即座に思いついてしまった伸が死んで誰にも見つけてもらえずに朽ちていくそんな姿を……。そんな事ないと必死に願うが人体模型は非情で。


「もう、加藤伸は消えたからこの世から完全にね」


そう、言い切ったのだ。


「嘘よ」


「嘘じゃないよ」


伸は、こんな奴に負けない。こんなニヤニヤ人をバカにするようなやつには伸は、負けないから。伸は、優しくないけど強いから。伸は伸は伸は伸は……。


「嘘うそウソ嘘うそウソ嘘うそウソ嘘うそウソ嘘ウソ嘘うそウソ嘘ウソ嘘うそウソよねえ返してよ」


「僕は、ただ1人しか消せないんだ、だから加藤伸が好きな狂った咲ちゃんは死んでね」


そう言って、伸のようなものは困ったように私の首に手をかけたのだ。


*5


友達が死んだ。


首を絞められて殺された。犯人は、幼なじみだったそうだ。捕まった時呆然とこんなはずじゃ無かったと呟いたそうだ。


あの子の幼なじみもあの子もあいつらに未来を奪われてしまったのだ。


私は、あいつらに気づいても関わらないようにしている。それが一番安全だからだ。


あの子は、自ら首を突っ込んでいった。


好きという感情はよくわからない。


だから、私にはあの子があんな行動をするとは思わなかった。


噂は嫌い、あいつらが力をつけるから。


学校は余り好きではない、あいつらが特にたくさんいるので。


あいつらが嫌い、大切な人を奪ってくので。


それでも、私は学校に通うしそのうちあの子のことも記憶の片隅に追いやってしまうだろう。


そんな、私が一番嫌い。


動き回る人体模型&成り代わり人体模型の七不思議完

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