帰り道
「たくさん買ったっスっね、和泉[カズミ]さん!」
「そうだねぇ」
12月。
寒さの深まる時期、今週の食事当番である和泉は片手にビニール袋を下げ、傍らには手伝いで来ている美咲[ミサキ]の姿があった。
ちなみに美咲は両手にビニール袋を下げている。計三袋の食材入りビニール袋を二人で運んでいるのだが、なぜか和泉の片手はコートの中だ。
美咲はとくにそんな様子に不満をもつことなく楽しそうに歩いている。
「あ、雪降ってきたっスよ、和泉さん」
「そうだね、真っ白でまっすぐで綺麗だね…誰かさんみたいに」
「え?何か言ったっスか?」
最後のポツリとささやかれた言葉は聞こえなかったみたいだ。
「なにもないよ、耳鼻科でも紹介してあげようか」
「なっ!なんでもないっス!」
少し怒ったような慌てたような様子で否定する美咲がかわいくて少しだけ頬を緩めてしまう。
いつの間にか足を止めていた和泉は歩き出そうとする。だが、
「和泉さん、1つ、袋持ってくれないっスか?」
「ふぅん…まさか、この俺に持たせようっての?」
突然の申し出に、でも素直になれない和泉はいつもの態度で見下ろした。
「はい!、、その、手、繋ぎたい、っス」
「…っあそ」
恥ずかしさからか俯きがちになった美咲から和泉は袋を1つ奪った。
左手に袋をまとめて持ち、右手を美咲に向けて差し出す。
はじかれたように顔を上げた美咲に和泉はそっぽを向いた。
「ほら、手、つなぐんでしょ」
「っうん!」
満面の笑みを向ける美咲。
とりあえず、家に帰ったら待っているであろうだらしのない同居人を殴ってやることにした。
この俺を、食事当番にしたことを後悔すればいい。