怪しげな少女
有栖川はそんな京極を見て、大きく溜息をついた。
「……まぁ、ああいう気持ちになるのはわからなくはないけどね」
それから有栖川はあくまで落ち着いて俺と芽衣、そして、二階堂に目を向ける。
「他に何か質問は?」
まるでそれこそ、自分はことの全貌を知っているかのようにニッコリと笑った。
「ふむ。僕は、ちょっと家を見てみる。もしかしたら、脱出できる場所があるかもしれない」
そういうと二階堂も京極と同じように先程俺達が入って来た扉を開けて部屋から出て行った。
残されたのは俺と芽衣、そして有栖川。
「コウちゃん……」
心配そうに芽衣が俺を覗き込んでくる。
元々気弱な芽衣だ。こんな状況下では俺に頼る以外にないのだろう。
「大丈夫だよ。一週間、ここにいればいいんだろ? 安心しろよ」
そういうと芽衣は少しほっとしたように俺を見た。
心にもないことを言うのは少し後ろめたい。
正直、この状況下で幼馴染のことを気にかけられるほど俺は出来た男じゃない。
むしろ、この異常な状況下、俺はどうやって過ごせば……
「いいわね、幼馴染って」
と、そんな俺に有栖川が声をかけてくる。
目を細めてうっとりとした表情で俺と芽衣を見てきた。
「え、えへへ……恥ずかしいな、有栖川さん」
「うふふ。仲がいいことは素敵なことよ」
すると、有栖川は何を思ったのか、俺の方に手を伸ばしてきた。
「……な、何の真似だ?」
「一週間とは言え、ともに過ごすのよ? 私だって、折原さんほどでもなくても、犯人さまのお気に入りの北村君と仲良くしたほうがいいと思ってね」
「お、お前なぁ……俺は犯人なんかじゃ……」
「分かっているわ。でも犯人じゃない、と言い切ることもできないでしょう?」
有栖川は意味ありげに微笑んだ。
実際、俺は気になっていた。
隣で脅えている幼馴染のことよりも、むしろ、今自分に手をさし伸ばしてきている腰までかかる黒髪の少女のミステリアスな雰囲気に。
「だから、よろしくね、北村君」
ニッコリと笑う有栖川。
俺はあくまで無表情で有栖川の手に触れた。
こうして、俺の長い一週間が始まったのであった。