日常への復讐
その質問を聞いて思わず俺は手のひらを叩いてしまった。
ついに有栖川は聞いてくれたのだ。俺がもっとも聞いてほしかった質問を。
「そうだな……復讐ってのはあながち間違っていないんだ。これは……俺の日常に対する復讐なんだよ」
有栖川は不審そうな顔で俺を見る。どうやらやはり、俺の言っていることがわかっていないようだった。
「なぁ、有栖川。俺達の日常ってつまらないよな?」
俺の質問に対し、有栖川は何も答えない。
「つまらないよな? いいや、答えなくてもわかる。お前はつまらないと思っているはずだ。犯人役の俺がつまらないって言っているんだ。お前だってつまらないさ。俺は、そんな日常に対して怒りを覚えていた。もちろん、役に立たない幼馴染や、傲慢な性格のイジメっ子女になんか怒りなんて覚えていない。問題は、ソイツ等によって成り立つ日常だ。俺はそんなくだらない日常に対してこの上なく怒っていた。だから、復讐してやったのさ」
思わず笑みが零れる。有栖川はそれでも険しい顔のままだった。
「……アナタ、自分が犯人だって告白しているの、わかってる?」
「ああ。だが、証拠がない。どんなに俺がアイツらを殺したといっても、俺を犯人足らしめる証拠がない……この俺の言葉が何よりの証拠だなんていうなよ?」
そういって、俺はそのまま芽衣が倒れている近くの小さなテーブルに近寄って行く。
「……まぁ、証拠がないのはいままでの話。これから俺がする行動によっては、俺が犯人であることの証拠ができてくるかもしれないんだよな」
俺はそういって、薄い黄色ではない、芽衣が飲まなかったもう一つのカップを手にした。
「北村君……アナタ、何をしようとしているの?」
「有栖川よ。俺がお前はさっきカップに毒を塗った可能性も示したよな? だが、芽衣が持ってくるカップなんて判断がつくわけがない。この薄い黄色いカップ以外にはな。だとしたら、もし、俺が犯人で芽衣を殺そうと思ったなら、それ以外のカップには全て毒を塗っておく必要があるんじゃないのか?」
「……そうね。間違ってはいないわ」
「だろ? そうなると、このカップにも毒は塗ってあるわけだ。つまり、このカップに口をつけて俺が死ねば、俺が犯人だっていうことの、何よりの証拠ってことになるよな」
俺がそういうと有栖川は目を丸くする。
「や、やめなさい! そんなことしたら……」
「慌てるなって。これを飲んで死ぬって決まったわけじゃない。俺が犯人じゃない可能性だってあるんだからな」
俺はそういってカップを今一度見る。
……これでいい。これで大丈夫だ。
俺はこのゲームの勝者になる。何者にも、俺が犯人であることを証明できないのだ。
だから、俺はこのカップに口をつけても何の問題もないのだ。
「北村君!」
有栖川が大部屋に響き渡るくらいに大声で俺の名前を呼ぶ。
しかし、俺はそのままカップに口を付け、一気に中身を飲み干した。




