状況把握
「……さて」
と、スピーカーが終わったのを確認してから有栖川がその場にいる全員に向き直る。
「今のスピーカーでわかったこと。まず、私達が何者かによって集められたってこと。そして、その何者かは北村君のために私達をここへ集めた。また、この家は密閉状態で、私達は一週間経たないとここから出られないということ……」
自分自身でも確認するように有栖川は一つ一つゆっくりと述べる。
皆固唾を呑んで有栖川の口上を聞いていた。
「で、私達をこんな状況に追いやった人間はなぜか北村君を知っている……ああ。さっきも言ったけど、北村君に私達四人を集めるのは不可能よ」
「な、なぜですの?」
京極が怪訝そうな顔で有栖川に訊ねた。
有栖川は聞きわけの悪い子をなだめる母親のように、ニッコリと京極に微笑む。
「だって、北村君が起きたのは私より後よ。廊下で会った時北村君はまだ状況を把握できていない様子だった。だから、そんな北村君に犯行は不可能。この家は完全に閉鎖されているのだから、元から家に閉じ込められているのに、どうやって私達を拉致してくるの?」
「しかし、もしかしたら、閉じ込められたフリをしているのかもしれないぞ?」
睨むようにして二階堂が俺を見る。
二階堂も案外に疑り深いヤツだな……
「ふふふ。そうね。でも、私が密閉された空間だと北村君に伝えたときの北村君の反応はとてもフリをしている人とは思えなかったけど」
嬉しそうに笑ってから、有栖川は俺を見る。
なんだ、コイツは……なんでそんな風に俺を庇ってくれるのか。
「な、なんですの、それ? じゃあ、全く北村君に対する疑いは晴れないということですわね!」
憮然とした態度で京極がそういう。
コイツは単純に俺を犯人にしたいだけなんじゃないだろうか。
「そうね……でも、北村君だけじゃないわよ」
しかし、有栖川がそんな京極に対し、きっぱりとした口調でそういう。
出鼻をくじかれた京極は悔しそうに有栖川を見る。
「どういうことですの?」
「確かに、犯人は北村君を知っていた。けど、それはあくまで知っているだけ。北村君のことを知っている人物が犯人であるという可能性があるということ……つまり、私達全員が犯人であるという可能性も、捨て切れないのよ」
そういうと再び場を沈黙が襲う。
皆ショックを受けたように愕然とした顔で有栖川を見る。
「そ、そんな……じゃ、じゃあ! ワタクシも、二階堂さんも、アナタも、そして、折原さんも……犯人である可能性がある、って言いたいんですの?」
「あくまで可能性の話よ。もしかしたら、ここにいる誰かではないかもしれない。でも、そういう可能性もある、って話」
興奮した京極と対照的に、有栖川はあくまで冷静に語る。
俺や芽衣、二階堂はその様子を一歩引いて見ていることしかできなかった。
「う、うぅ……き、気分が悪いですわ!」
そういうと京極は先ほど俺達が部屋に入って来た扉を開き、そのまま部屋から出ていってしまった。