有栖川美咲、決着の推理 其の5
「……どういうことだ?」
俺が訊ねると、有栖川はニッコリと微笑む。
「あのね、私だって馬鹿じゃないのよ。同じ手は二度通用しないわ」
そういって有栖川はカップの一つを手に取る。
「これ。二階堂さんが口を付けたものよね?」
有栖川が手にしたカップは、色が違った。
そう。かつて二階堂が口にして死亡する原因となった、あの薄い黄色いカップだったのである。
「なぜ、これがここにあるのか。私には非常に疑問だわ。だって、キッチンには京極さんが死んでからずっと、この薄い黄色いカップだけがなかったんだもの。昨日の食事のときでさえこれはキッチンにはどこにもなかった。それなのに、どうしてそれが今ここにあるのかしら?」
有栖川の言葉にはすでに俺と芽衣に対する疑念が確信に変わっているのだということを明確に示すものがあった。
「つまり、昨日と今日の間……いえ。正確にはついさっき、このカップにお茶を入れてきた人が、それまでずっと隠していたこのカップにお茶を注いだってわけ」
「それが……私だっていいたいの?」
芽衣が不安げに訊ねると、有栖川は残念そうに眉間に皺を寄せた。
「そうね。できることなら言いたくはないけれど、そう考えるのが自然よね」
有栖川のその言葉を聞いて芽衣は何も言わなかった。ただ、ゆっくりと、俺の方に顔を向けてくる。
「……コウちゃん」
そして、ボソリと呟くように俺の名前を呼んだ。
「……芽衣」
「……で、でも! それは私がカップを隠していただけであって! コウちゃんが事件と関係があったってことにはならないよ!」
有栖川はその言葉を聞いて、さらに残念そうな顔をする。まるでそれこそ、今から芽衣にさらに残酷な真実を告げねばならないのを後悔しているかのようだ。
「それは……この二つのカップのお茶を飲んでみればわかるわ」
「……え?」
有栖川はそう言って、薄い黄色のカップ以外の二つを指差す。
「犯人はこの場でゲームの決着を付ける、と言ったわ。だとしたら、このカップにこそ毒が塗ってあると考えるのはおかしなことじゃないわよね?」
有栖川は俺に対し挑戦的な目を向ける。
「で、でも! このカップを持ってきたのは私だよ? だったら、毒を塗ったり、毒を入れるのは私ってことになるんじゃないの?」
「ええ、そうね。というか、折原さんはおそらくどちらかのカップに毒を入れたのでしょうね。でも……どちらのカップを飲んだとしても死んでしまったらどうなるかしら?」




