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ハーレム・ゲーム  作者: 松戸京
6日目
71/82

最後の晩餐

「あら、遅かったわね」


 キッチンのある部屋に入ると、有栖川が相変わらずの飄々とした態度で俺達を待っていた。


「……飯、もしかしてこれか?」


「そう。まぁ、正直に言うと実は最初からあんまり食材自体は少なくてね……調子に乗って使い捲くっちゃったのよね」


 小さく舌を出すが、まったく反省している様子のない有栖川。


 テーブルの上に乗っていたのは、茶碗に盛られたご飯と市販されているパック詰めの納豆だった。


「で、これだけ、と」


「そう。ごめんなさいね」


 仕方なく、俺と芽衣は席につく。有栖川もその向かいに座った。


 俺達は誰からともなく食事を始めた。この屋敷で食べる最後の晩餐が納豆ご飯になるとはさすがの俺も思いつかなかった。


 部屋の中には納豆の匂いが充満する。ただ、皆無心に納豆ご飯を口の中に押し込んでいた。


 最初に食い終わった俺は大きく息を吐き出す。上手くもなければ不味くもない。そんな食事だった。


「そろそろ、このゲームも終わりね」


 まだ少し茶碗にご飯を残した有栖川が、唐突にそう言った。俺は目だけを動かして有栖川を見る。


「……そうだな」


「まぁ、たぶんアナタ達二人ももしかすると気になっているかもしれないのだけれど、今日の放送のことよね」


 そういって有栖川は茶碗の上に箸を置いた。


「……最後の『ヒロイン選択』か?」


 有栖川は無言で頷く。


「最後の『ヒロイン選択』……これってつまり、その対象は間違いなく、私か折原さんってことになるのよね?」


 有栖川がそう言うと芽衣が「え」と小さく声を漏らす。


「だって、もう私か折原さんしかいないじゃない。こうなると私か折原さんのどちらかがヒロインとして『選択』されるってことなんじゃないかしら?」


「そ、そんな……」


 芽衣が絶句する。有栖川のほうは落ち着いた様子で俺を見ていた。


「……で、仮に俺が『ヒロイン』選択した場合、どちらを選ぶと思うんだ」


 俺は思わずニヤリとしながら有栖川と芽衣を見る。二人は顔を見合わせる。そして、有栖川のほうが俺に笑い返してきた。


「そりゃあ、私でしょうね」


「ほぉ。そりゃ、またどうして?」


「だって、アナタにとって折原さんは幼馴染じゃない。そんな人をアナタは殺そうと思うって言うの?」


 有栖川は淡々としてそう言った。俺は何も言わずに有栖川を見る。


「……なるほどな」


 それだけ言って立ち上がった。


「あ……コウちゃん」


 芽衣の呼びかけに応じたわけじゃなかったが、俺はその場で二人を見る。


「俺はもう部屋に戻る。お前達はどうするんだ?」


「ええ、私もそろそろ戻るわ。折原さんもよね?」


「え? あ……うん」


「ああ。そうだ。明日、お昼くらいでいいから大部屋に集まってくれるかしら?」


 有栖川の突然の提案に、俺は面食らう。


「何? どうしてだ?」


「どうしてって、そりゃあ、このゲームの黒幕を私が言い当てるからよ」


「……はぁ?」


 俺は思わず呆れてしまった。芽衣も同様に驚いて有栖川を見ている。


「おいおい、有栖川……さっき言ったよな? 犯人はもはや俺達の中にいるわけがない。いるとしら外部の人間だ、って」


「ええ。そうね」


「だったら、一体そこで何をどうするっていうんだよ? まさか、俺や芽衣が犯人だっていうのか?」


 すると、有栖川はヤレヤレと言わんばかりに肩をすくめた。


「もし、ここでそれを言ったら、今夜中に私、犯人に殺されちゃうじゃない」


 俺も芽衣も何も言えなかった。


 有栖川は一体どういうつもりなんだ? こんなことを言っては三人の中で猜疑心を高めるだけではないか。


 どうしようもなくなった俺はそのまま扉の方に向かった。


 そして、扉を閉め、廊下に出て大きく息を吐く。


「……大丈夫だ。俺は、大丈夫」


 そう。俺は少なくとも大丈夫なのだ。絶対に、大丈夫。


 言い聞かせるようにそういって俺は部屋に戻ることにした。

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