優越感
キッチンのある部屋に入ると、既に有栖川が椅子に座っていた。
その前には四人分のオムライスが並んでいる。
「……なるほどな」
芽衣が必死で取繕った気持ちがわかった。
そのどれもが形は悪く、とても先日有栖川が作ったものとは比べ物にならないものである。
「あ……で、でも、味は大丈夫だと、思うよ」
芽衣が引き続き必死に俺に訴える。
なんだかそこまで必死にそういわれるとどうやら、とんでもないものを食わされそうになっているのだと薄々感じてきた。
俺も椅子に座る。芽衣、京極も同じように座った。
「じゃあ、食べるぞ」
俺がそういってスプーンを手にし、そのまま一口、口に運んだ。
そして、何も言わずに租借する。
「あ……ど、どうですの?」
聞いてきたのは京極だった。
不安そうな顔で俺のことを見てくる。
なんだか不思議だった。
あの京極が俺に気を使っているのである。
正直、これまでの展開でいかに京極が小さな人間であることは充分に承知できたが、ここまで滑稽なものを目にできるとは思ってもいなかった。
俺はスプーンを置いて京極を見た。
「まぁ、不味い」
俺は良く聞こえるように京極にそう言った。
京極は俺の言葉が聞こえたようで悲しそうな顔で俺を見ていた。
「こ、コウちゃん……きょ、京極さん。仕方ないよ。でも、京極さん、頑張ったんだし――」
「頑張ってこれか? お前、料理の才能、ないんじゃないの?」
芽衣の言葉を遮って俺は続けてそう言う。
京極は悔しそうに下唇を噛んでいるのがよくわかった。
「おい。京極。お前、何か言い返さないのかよ? 学校でのお前にこんなこと言ったら俺、とんでもない目に合うよな? でも、お前、そろそろわかっただろ? お前に力があるんじゃないんだ。お前の家が金持ちで資産家だから、皆寄ってきているだけなんだ。それを何を勘違いしたんだが、お前自身の力だと思って好き勝手やりやがって……なぁ、どうなんだよ?」
俺が少し声を荒げてそう聞くと、京極は肩を震わせて椅子の上で小さくなった。
「こ、コウちゃん……」
「なんだ」
芽衣もいちいちうるさかった。
俺は思わずキツイ目つきで睨みつける。
それにびっくりしたのか、芽衣はそれ以上何も言わなかった。
「とにかく。今回の件がわかったら、この家から無事に出たあとは、今後の行動に気をつけるんだな」
俺は小さくなっている京極に、そう言い放った。
強烈な優越感だった。
それは、別に京極に勝ったとかそういう次元の話ではない。
京極由香里という一人の女の子をとことんまで追い詰めている。
そのことこそが、俺の心を満足させていたのである。
「そうね。もっとも、無事にこの家から帰れたら、の話だけどね」
有栖川は口にオムライスを運びながらそう言った。
俺はチラリと有栖川のほうを見る。
「さぁ、食事の時くらい楽しく過ごしましょう」
わざとらしく俺に微笑みかけて、そのまま食事を続けたのだった。




