犯人の不都合
俺は、その有栖川の言葉を聞いても納得いかなかった。
京極が犯人であるに決まっている。
俺が今まで苦労してきたのは、コイツのせいだ。
そんな性悪女のことだ。二階堂を殺したのだってコイツに決まっている。
そうでなければならないのだ。
「北村君? それとも、京極さんが犯人じゃないと、不都合でもあるのかしら?」
「……は?」
有栖川は俺のことを鋭く睨みつけてきた。
その視線はまるで鋭い刃物のようだった。
「仮に京極さんが犯人である可能性をゼロとした場合、アナタと折原さん、どちらかが犯人という可能性が高くなってくるからよ」
「なっ……お前……自分だって、犯人かもしれないって言っていたじゃないか」
俺がそう指摘しても、有栖川は動揺することなく、長い髪を指先で弄くってから、俺のことを見た。
「ええ、もちろん、わかっているわ。でも、誰かを疑うときには、自分が犯人ではないということも仮定しているでしょ?」
「そ、それは、そうだが……」
俺が言いよどむと、場は静まり返ってしまった。
ちらと、芽衣のほうに視線を向ける。
困り顔で俺を見ている。
芽衣にはどうすることもできないだろう。かといって、俺にだって……
「……ま、ここで誰が犯人だって断定することはできないわ。まだゲームは終わっていないわけだし」
と、有栖川が唐突に口を開いた。
「とりあえず、明日、何も起きないことを祈りましょう」
そういってそのまま勝手に一人で大部屋を出て行ったのだった。




