召集の手段
そして、5日目の朝。
目覚めはお世辞にも良いとは言えないものだった。
起きた瞬間に、明日、また何かがあるのではないかと思わせるからである。
いや、思わせる、というか、あるのだ。
俺はそう思いながら、ベッドから起き上がりそのまま立ちあがった。
時計を見れば11時。
そういえば、既に4日、学校に行っていない。
芽衣ではないが、家族は心配しているのだろうか。学校はどうなっているのだろうか。
そして、そろそろ行方不明者届けが出て、警察が俺達を探しているのでは……
「あ」
いや。そうではなかった。
一つ、重要なことがあった。
俺達はどうやってここに集められたのか。
皆それぞれ、瞬時に記憶を失くしてここにいる。
「……京極の奴、そのことを言い忘れてやがったな」
ここに俺達を集めたのは京極である。
どうやったかは知らないが、金持ちの権力を使ってどうにかしたっていうくらいはおおよそ想像は付く。
「そうなると、警察にもそれ相応の対応をしているのか……となると、ニュースにもならなそうだな」
俺は一人で勝手にそう納得した。
とりあえず、着替えてから大部屋に向かうことにした。
一瞬、部屋に篭って今日が終わるのを待っていようかと思ったが、結局、明日が来てしまえば一緒なのだと考え、そのまま大部屋へと向かった。
扉を開け、廊下に出る。
「あ。コウちゃん」
と、聞こえてきたのは芽衣の声だった。
「芽衣か」
俺がそう言うと、芽衣はこちらへ駆け寄ってきた。
「お、おはよう……」
「なんだ。元気ないな」
「あ、うん……ちょ、ちょっと……やっぱりこんな状況だし……」
まぁ、芽衣の性格を考えればこんな状況、長く耐えられるものじゃない。
弱音を吐くのも当然である。
「まぁ、そうだな。でも、後二日だろ? それに、スピーカーからももう音声は流れないわけだし」
「そ、そう……だよね?」
不安そうに芽衣はそう言う。
まったく……俺に聞いたところでどうするというのだ。
俺にこの状況が解決できるわけでもなし。
頼られても困ってしまうのである。
「あ……コウちゃん」
「ん? なんだ?」
「その……ごめんね」
「は? なんで謝るの?」
すると芽衣は少し躊躇ってから俺の顔を見る。
「コウちゃん……最近、なんか……ちょっと怖い感じがして……」
「はぁ? 俺が……怖い?」
「う、ううん! なんていえばいいのか……ご、ごめんね。変なこと言って」
そう言うと芽衣は小走りに廊下を走って先に行ってしまった。
俺は間抜けに一人だけ取り残される。
「怖い、ねぇ……」
芽衣の言葉を呟きながら、俺も今一度そう言ったのだった。




