高見の見物
「なるほど。ここからあの音声を流していたわけね」
京極の部屋は、例えるならば学校の放送室のようなところだった。
俺はCDがセットされていた機器からそれを取り出す。
「これか? 犯人から贈られてきた音声っていうのは?」
京極は完全にしぼんでしまった風船のように、しょぼくれて頷いた。
俺はそれを確認した。
「それを……セットして、時刻になると流れるようにしていたんですわ」
「なるほどな」
俺はもう一度その機器を確認してから、あまりの設備のすごさに見蕩れている芽衣と有栖川の下に戻る。
京極がこの部屋にやってくるまでに話したこと。
自分の部屋が実は放送室となっており、そこで京極が自分達を監視していたのだということ。
理由をつけては部屋に戻っていたのは、高見の見物気分でここから俺達を見ていたからだという。
なんとも性悪女の京極らしい行動だ。
しかし、その行動さえも犯人にとっては織り込み済みだったというわけである。
「しかし、これだけ設備が揃っていて、外部との連絡手段がないっていうのは、なんとも皮肉なものね」
有栖川は相変わらず部屋を見回していたが、やはり電話やトランシーバー、無線といったものは放送室にはないようだった。
「……この部屋はあくまでこの屋敷専用の放送室ですわ。外部との連絡手段は、ありません」
申し訳無さそうに京極はそう言った。
「じゃあ、京極さん。悪いのだけれど、今日からは別の部屋で眠ってもらおうかしら。まだ部屋は余っているものね」
有栖川が反論を許さない様子でそう言うと、さすがの京極も、素直に頷いた。
「ああ、後、いい加減教えて欲しいのだけれど、このお屋敷、放送室があるぐらいなんだから、シャワー室もあるのよね?」
「え……ええ。ありますわよ」
「後で、私と折原さんには案内してくれないかしら。北村君は?」
いきなりそういわれて俺は戸惑う。
「え? あ、ああ。俺は後で」
「そう。さて……とりあえず、この部屋はこれ以降立ち入り禁止にしましょう。もちろん、私達の中で立ち入り禁止の約束を立てても、犯人さんが勝手に入ってしまう可能性あるけど……京極さん」
「え? な、なんですの?」
「最後に一つだけ。アナタ、もしかして……このお屋敷のマスターキー、持っていたりしないわよね?」
そう言われて京極は少し驚いたようだったが、それからすぐに小さく溜息を吐いて有栖川を見た。
「持っていたらとっくに使っていますわ。そもそも、それ、どういう質問ですの?」
「ああ。ごめんなさい。マスターキー、って言い方は可笑しかったわね。少なくとも、このお屋敷の全ての部屋の鍵をあけることの出来る鍵……無論、出口以外の、ね」
有栖川が言っている意味がわかってきた。
要するに有栖川は明確に疑い始めてきているのだ。
京極が、このゲームを裏で執り行っている、真の「犯人」なのではないか、と。
さすがの京極もそのことにはわかったようだったが、怒るわけでもなく、むしろ、困った顔で有栖川に対応する。
「そんな……持っていませんわ。ワタクシは……」
「そう。じゃあ、この部屋の鍵を外からかけることも不可能ってわけね」
有栖川は淡々とそう言った。
最後の言い方だと、まるでこの部屋の鍵を閉めることを目的としていたようないいぶりだったが、おそらく、京極にカマをかけていたというのが正しいだろう。
「さて。色々分かった所で、大広間に戻ろうかしら」
そういうと有栖川は一番最初に部屋を出る。
続けてオドオドと芽衣が。
その後を俺が。
と、最後まで京極は部屋に残っていた。
俺は振り返る。
「おい」
「え……ああ。ごめんなさい」
京極は俺に言われていそいそと部屋を出た。
ますます、京極由香里という人間が小さくなっていくような気がした。




