感情の爆発
「で、なんでお前、わざわざ俺の部屋までやってきたんだよ」
俺がそう言うと椅子に腰掛けた京極は、睨むような目つきで俺を見た。
「な、なんですの!? その態度。ワタクシがわざわざアナタのような下賎な人間の部屋にまで出向いてきてあげたというのに……」
「はぁ? お前なぁ……自分の立場、わかってのかよ?」
俺がそう言うと京極はビクッと反応する。
その反応は俺にとって意外だった。
どうやら、京極の中で昨日と今日の間に何か心境の変化があったらしい。
「そ、それは……わかっていますわ」
「へぇ。なんだ。ようやくこの状況がお前が招いた結果ってことは、認めてくれたみたいだな」
俺がそう言うと悔しそうに京極は下唇を噛む。
今まで俺をイジメていた黒幕がそんな風な態度に出ていると思うと、俺はなんだか気分が高揚した。
「え、ええ……昨日からワタクシもずっと後悔していましたわ。あまりにも迂闊であったと」
京極は悲しそうに俯いた。
無論、今更そんな風にされても遅すぎるのだが。
「そうだな。迂闊、というか、間抜けだよな」
俺がそう言うと京極はまたキッと俺を睨んだ。
しかし、俺はまったく動じなかった。
考えてみれば当たり前だ。
いつもは、コイツには大勢の取り巻きがいる。
いわばコイツは王様なのだ。
しかし、今この場にはコイツしかいない。たとえ、京極が王様だとしても、王を守ってくれる兵士がいなければ王といえどもただの人間である。
つまり、俺がいまコイツをこの場でどうこうすることだって、簡単なのである。
「なんだよ」
「え……あ……な、なんでもありませんわ」
京極は俺と目を合わせると、酷く脅えた様子で目を反らした。
ここまで来るとなんとも情けないというか……憐れにも思えてくる。
俺はこんなヤツを相手に苦労をしていたというのか。そうなると俺自身も相当に滑稽な存在だ。
なんだか自分自身にイラ付いてくる。
俺は一体何のために、こんなこと……
「……お前、もう帰れよ」
「え?」
「帰れって言ってんだよ! お前の顔を見ているとムカつくんだよ!」
俺が怒鳴ると、京極はその目に涙を浮かべていた。
ほとほと弱い。弱い存在である。
俺はこんな弱い存在を相手に今まで戦ってきたというのか。
だとしたら、俺の戦いはなんだ?
こんな戦い甲斐のないヤツ相手に戦ってきたなんて、あまりにも馬鹿らしい。
「い……言われなくても、帰りますわ!」
京極はそのまま立ち上がり、俺の部屋を飛び出していった。




