有栖川美咲
俺と芽衣は同時にそちらの方に顔を向ける。
「この家は完全に密閉されているわ。換気口からトイレの窓にいたるまで、どこからも私達はこの家から抜け出すことはできない」
そういって姿を表したのは、制服姿の髪の長い少女だった。
切れ長の瞳は、人を値踏みするような狡猾なそれで、見ているだけで不思議な気持ちになる。
「……有栖川?」
「どうも、北村君に折原さん」
クラスメイトの有栖川美咲は、ニッコリと微笑むと俺と芽衣を見た。
「有栖川さんもいたんだ……でも密閉って?」
「そのままの意味よ。つまり、この家からは絶対に出られない」
有栖川は大きく溜息をついて下を向く。
密閉? そんなまさか。
俺は怪訝そうに有栖川を見る。
「有栖川、それは本当なのか?」
「ええ。本当よ。全部確認したもの」
「……つまり、俺達はこの家に監禁されているってことか?」
有栖川は黙って頷いた。
監禁……あまりにも非現実的な言葉だった。
「え……な、なんでそんな……」
芽衣が不安そうな顔で有栖川を見る。
「さぁね? 私だってさっき目を覚ましたらこの家の中にいたんだもの。アナタ達より先に目を覚ましたから家の中を回ってみて出口を探したけど、結局どこにも出口はない、ってわけ」
そう言って有栖川は肩をすくめた。
「そ、そんな……コウちゃん」
「……有栖川。この家にいるのは俺達だけなのか?」
俺がそう訊ねると、その質問を待っていたとばかりに有栖川はニヤリと微笑んだ。
「いいえ、私達だけじゃないわよ」
すると、有栖川は俺と芽衣に背中を向けて歩き出した。
「お、おい! どこに行く」
「案内するのよ。アナタ達以外の人達がいるところへ」