折原芽衣
部屋の外には、長い廊下が広がっていた。
キョロキョロと辺りを見回すと、廊下に面していくつかの扉がある。
どうやら、俺のいた部屋以外にも何個か部屋があるようである。
「しかし……一体どうなっているんだ?」
思わず俺はそう呟いた。
と、その時だった。
俺から向かって真正面……つまり、俺の部屋の向かいに位置する扉が開いた。
「あ、あれ……あ……コウちゃん!」
「あ……芽衣」
扉を開けて出て来たのは、女の子だった。
首の辺りでそろえたショートカット。愛嬌のある人懐っこそうな瞳。
俺の幼馴染、折原芽衣だった。
「……え? あ、あれ……ここは?」
「さぁな……お前もか?」
「え? お前も、って?」
「俺は気付いたらこの家のこの部屋にいた。お前もそうかって聞いているんだよ」
「あ……うん。そうだよ」
どうやら、芽衣もここに来るまでの記憶がないらしい。
「なんだってんだ……一体……」
「コウちゃん、あのね、 私、家に帰って、コンビ二に行っていたんだけど……あれ? なんで、私、ここにいるのかな……」
言葉通り、学校指定の制服姿の俺に対して、芽衣は普段着だった。
俺が帰宅途中で記憶をなくしているように、芽衣も、家に帰ってコンビ二に行っている途中で記憶をなくしたらしい。
「さぁ……いずれにせよ、どうやら俺達はよくわからないことに巻き込まれたらしいな」
「え……も、もしかして、コウちゃんもコンビ二に行っている途中だったの?」
「いや、俺は家に帰る途中で……」
「え? あ、ホントだ。制服だもんね。あ、でも、コウちゃん、そういえば、どうして私と帰ろうって言った時帰ってくれなかったの?」
芽衣が思い出したように言う。
余計なことは思い出さなくていいというのに……
「あ、ああ。ちょ、ちょっと用事があるって言っただろ?」
「え? あれ? そうだっけ?」
芽衣はよく覚えていないという風に首をかしげた。
そう。それでいい。芽衣は何も知らなくていいのだ。
そう、芽衣は俺のことを理解しているようで、何も理解していないのだから。
「……とりあえず、この家から出よう。他人の家に勝手に上がりこんでいるのは不味いだろ?」
「え? あ、ああ。そうだね」
そうだ。なんだかこの家にこのままいるのは不味い気がする。
これ以上面倒なことになりそうだ。ただでさえ俺は面倒ごとが嫌いなのだ。だから、一刻も早くここから――
「無駄よ」
と、廊下の奥から声が聞こえてきた。