平和な一時
キッチンに戻ると既に芽衣が食事を始めていた。
キッチンがある部屋は、食事用のスペースもあり、そこの机で芽衣は既にオムライスを上手そうに食べている。
「ああ。お帰り」
有栖川が相変らずの低テンションで俺と二階堂を向かえる。
「おや? 京極君の姿が見えないようだが……」
二階堂が当たりを見回すが、確かに京極の姿は見えない。
「食べたくないそうよ。せっかく作ったのに、失礼しちゃうわ」
困ったように俺と二階堂を見る有栖川。
京極は寝室で不貞寝したままか……
あの女の子ことだ。俺なんかが見に行ったら余計に気分を悪くするに違いない。
俺は席についてオムライスを食べることにした。二階堂も同じように席に着く。
「じゃあ、いただきましょうか」
有栖川は俺と二階堂が席に着いたのを確認してからお辞儀をして食事を開始した。
俺と二階堂も同じように食事を始める。
オムライスは、おいしかった。
この味からすると有栖川は相当の腕前のようだ。
思わず口に運ぶ箸の手が早くなる。
二階堂も同じように夢中で食事を続けている。
「おかわり!」
芽衣が元よくおかわりの声を上げる。
「お、おい。芽衣。おかわりって……」
「え~? だって、有栖川さんのオムライスおいしいんだもん!」
「あら。気に入ってもらえたのなら何よりだわ」
嬉しそうに目を細める有栖川。
確かにおいしいからおかわりするのもわからんではないが……
「大丈夫よ。多めに作っておいたから」
「わーい!」
そういって有栖川はキッチンに向かった。
「そういうことなら、僕もおかわりしたいな」
少し恥ずかしそうにしながら二階堂がそういった。
有栖川はニッコリと笑ってそれに応える。
「コウちゃんは、おかわりしないの?」
「え、あ……」
正直、こんなにおいしいのならおかわりしたい。
だけど、素直にそういうのはなんだかすごく恥ずかしい。
大体。俺達は今ここに閉じ込められているんだぞ?
なのに、そんな暢気にオムライスをおかわりしている場合じゃ――
「あ、じゃ、じゃあ……俺も」
「はい。北村君もね」
本能には逆らえなかった。
いや、そうじゃない。
ここでちゃんと食べておかなければいけないのだ。
でなければ明日からの対策も考えられない。
そう。恥ずかしくてもおかわりしなければいけないのである。
結局、その後全員満腹になって、自分達が監禁されていることも忘れてそのまましばらくは幸せな気分のままに過ごしたのだった。




