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神剣×黒翼 中篇

2013年9月23日、全面改稿しました。

2年ぶりの改稿を行いました。

 薄闇の中でゆれる銃身に魔術紋様の光が走り、夏輝は微かな緊張をおぼえる。

 巫女が手にしたのはただの銃ではない。魔力を媒介に弾丸を撃ち出す魔道具だ。

「あ……ごめんなさい」

 銃がおろされる。持ち手は微かに震えていた。

 長い黒髪をまっすぐにおろした女性だった。十代後半くらいの外見。少女と大人、ちょうどその過渡期のような様相。凛とした表情ながら、やや童顔のせいか瞳には子供っぽさが見えた。

 巫女服を着ているが、ここまで走ってきたのだろう。生地がやや乱れ、煤に汚れている。

「あんたが現地諜報員か」

 女性の持っている銃は、財閥がメンバーに支給する魔道具だった。はたしてその言葉に女性は頷く。

「……穂村ほむらです。諜報部より潜入の任についていました」

「何が起こってるか、分かるか?」

 夏輝が周囲の闇を警戒し、視線を投げる。他の式神がいる様子はない。

「それが……氷室という男が天叢雲剣を奪い、起動させてしまいました。この襲撃も、氷室が式神を使って行ったことなんです」

「氷室?」

 よどみなく紡がれる情報は、さすがといったところか。夏輝は続きを促す。

「数か月前に出雲衆より破門された術師です。理由は不明。年齢は二十五。当時の位階は第四種級とされています」

 財閥において、魔術師は力量により数段階に分類されている。第一種から第七種までに大まかに分けられたうち、第四種は「一人前」程度の意味合いを表す。

「第四種はこんなことできねーだろ」

 だからこそ、それは意外な情報だった。出雲衆は少数ながらも第三種――熟練の魔術師――を多数抱え、中には第二種に至る者すらいると夏輝は聞いていた。だからこそ彼が派遣されたのだ。

 先ほどの式神も、第四種では到底作りえない。

「理由は分かりません」

 穂村も首を振った。その目は夏輝以上に闇へとせわしなく向けられ、足は地面を踏んだり、離れたりしている。一刻も早くこの場を去りたいようだった。

「ですが、実際に氷室は長たちを殺し、剣を手にしました。一度本部へ戻り、対策を練るべきかと――」

「いらないだろ」

 穂村の提案を一蹴し、夏輝は歩き出した。穂村は呆けたような顔をしたあと、我に返って慌てた。

「はあ!? あ、あの、今の話聞いてました?」

「ばっちり。でも、相手が強かろうが魔道具もってようが、『エレメンツ』になって初仕事だしな。長引かせて面倒にしたくねえ」

 返答に、地球外生命体でも見ているような目つきをする穂村。ようよう次の言葉を絞り出す。

「……私はどうすれば?」

「避難しとけばいいだろ。少し待ってたらその氷室っての、すぐ終わらせるから」

「それは随分、大きく出たな」

 声は闇の奥から聞こえた。顔を引きつらせる穂村から、夏輝は視線を声のした方向へ向ける。おりしも火の粉をちりばめた闇の中に、人影が浮かび上がってきたところだった。

 フロックコートを着た、細面の男だった。色素の薄い肌と白髪が、炎を受けて赤く染まって見える。

 その右手には、刀身から紫電を散らす剣が握られていた。大魔術を瞬時に展開しえる神剣、天叢雲剣だ。 予想外なのは剣のみならず、男の纏っている魔力もプレッシャーとなって、夏輝の身体を打ってきたことだった。尋常ならざる気配が、夏輝の顔を険しくさせた。

 ――こいつが氷室か。

 確かに少々、手強いかもしれない。

「今、エレメンツと言ったな?」

 獲物を見定めた蛇のような表情で、氷室が夏輝に薄く笑いかけた。

「財閥最高位の魔術師『Elements』の一人か?」

「だったらなんだよ?」

 禍々しい笑みに、夏輝も挑発的な笑みを返す。氷室が剣をかかげ、夏輝へと向けた。

「神剣の相手に申し分ない――死ね」

 言い終わるより早く、切っ先から雷撃が迸り、夏輝の肩を直撃した。


 魔術師の最も恐ろしいところは、無手の状態から近代兵器級の威力を生み出せることにある。逆に言うと、実戦でその威力を出す『間』がなければ、ただの無手の人間だ。

 実践慣れした魔術師――ひいては魔術の歴史はその『間』をいかに縮めるかを至上としてきた。魔術の発動方法に重きを置いた第一世代。魔方陣の構成に着目した第二世代。そして『魔方陣』の原理が理解されることで到達した、現代における高速魔術戦闘を可能とする第三世代。

 都合六つに大別される魔術大系のうち、一つの大系を修めて、初めて一人前の魔術師とされる。若い世代の魔術大系を熟知せずに次の大系を修めるのは容易ではない。第三世代、更にはそこから独自の魔術大系まで築き上げた者は、畏怖と敬意をもって超一流とみなされている。

 桜宮財閥にはある部署がある。財閥の主、桜宮さくらのみや路陰ろいんを筆頭に、構成員全員が超一流である第一種指定の魔術師。魔術戦闘のエキスパートばかりを集めた部署が。

 その部署、ひいては所属する魔術師たちの通称を、Elementsエレメンツという。


「きゃ!?」

 突然襲われた浮遊感に、穂村が悲鳴を上げた。雷光に視界を奪われていただけに、声が動転している。

「少し我慢してろよ」

 彼女を抱え上げていた夏輝が建物の屋根に着地した。魔力で脚力を強化したのだ。降り立った屋根を鋭く蹴って、夏輝は次の建物に飛び移る。

「いったん離れて降ろすから、あいつが来るまでに逃げといてくれ」

 その声には先ほどまでにはない焦りがあった。違和感を覚えた穂村が見れば、夏輝の右肩は服が炭化し、その下から焼けただれた皮膚がのぞいていた。

「きみ、肩……!」

「やばいなアイツ。まさか雷を撃ってくるなんてな」

 顔をしかめ、そう言う夏輝。額には油背がにじんでいた。

 だが本来、雷が直撃すればその程度では済まない。魔力で身体を保護しようにも、限度がある。

「なるほど、それが<神衣かむい>ですか」

 背後の夜気から言葉が届いた。舌打ちした夏輝が顔だけ振り返れば、氷室が屋根を蹴り、追って来ている。

 その瞳は、夏輝の身体を纏う、薄く輝く膜のような魔力を見ていた。

「第三世代の攻防結界魔術……雷まで減殺するとは驚きましたよ」

 だが――と、氷室は空中で剣を構えなおした。剣を持たぬ手がフロックコートの懐に入る。

「この剣で直接斬れば、タダでは済むまい」

 取り出した手には大量の呪符があった。放たれた紙片は使用者の魔力を吸い、その意に従って重ね合わさり形を成していく。さながら紙細工の工程を早送りにしたように現れた立体物は、鋭い爪と嘴を備えた鷹の姿をしていた。

 第二世代は錬金魔法大系、式神作り。

 猛禽類となって生まれた式神は三体。それぞれが独自のルートで空を飛翔し、夏輝たちへと迫る。同時に氷室の持つ天叢雲剣が光った。

「掴まってろよ。あと耳塞いどけ!」

 ほぼ光速である雷を、見てから避けるのは不可能に近い。夏輝は剣に集った魔力を頼りに、発動の寸前で屋根を蹴った。転瞬、足元を光が駆け抜けた。雷光は進行方向にあった屋敷を貫き、一拍遅れて巻き起こった衝撃波が破壊の限りを尽くす。衝撃波は凄まじい音も伴っており、夏輝たちは至近距離からその圧力を受けて次の家屋に降り立った。

 そこへ、鳥型の式神が急降下して来た。

「借りるぜ」

「あっ」

 夏輝は穂村の魔銃を手に取り引き金を引いた。銃身に魔術紋様の輝いた時には、銃口から放たれた光弾が式神の一体を打ち砕いている。立て続けに放たれた弾丸は、しかし残る二体には当たらない。式神たちは一度舞い上がって夏輝の頭上で旋回すると、息を吐く間もなく第二撃へと転じた。夏輝に嘴をまっすぐ向けた垂直落下の勢いは、弾丸のそれにも迫る。

 迎撃は困難――そう結論した夏輝は身を翻す。直前でかわされた一羽目は屋根を突き破り、衝撃に耐えきれず自壊した。

 しかし内包していたエネルギーもいかんなく撒き散らされ、振動に足を取られる。

「くっ!?」

 二羽目は避けきれなかった。防御していた魔術を打ち破り、式神は夏輝の手から銃を弾き飛ばす。衝撃に体勢が崩れる。

 刹那、氷室が肉迫した。上段から雷の刃が落ちてくる。

「もらった」

「……っ!」

 咄嗟にできたのは、抱えていた穂村を投げ落とすことだった。

 彼女の悲鳴が上がり――それすら瞬時にかき消す雷響が夏輝を襲った。

5966→3265

改善案:キャラ性の確立、意志のぶつかり合い、主人公の独自の動機をどう自然に出すか

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