8jewelry
朝食を終えると、可憐は制服に着替えた。
今日はいつもよりゆとりがある。
のんびりリボンの位置を直していると、横からマリンが騒ぎ出した。
「ねえ、可憐てば!どこにいくの?」
可憐は面倒臭そうに答えた。
「うるさいなぁ。学校よ。決まってんじゃん」
「えー?そんなことよりも、お願い事は?あと五個も残ってんだよ?早く考えなきゃ!」
可憐はぼんやりと考えた。
そういえば、遅刻を免れたのと、勝手に理香子と入れ替わったので、残りは五つか…。
「何がいい?もっと美人になるとか?頭がよくなりたい?それともスポーツ?あ、マルチって手もあるよ!その場合は、お願いは一個ずつに分けるけど…」
「残念でした!まだ思いつかないよ」
マリンは不満そうに口を尖らせた。
「いつ決まるの?」
「それは…わかんないわよ」
「いつ?いつ!ねえ!」
「もう!知らないってば!急かさないでよっ」
可憐はしがみついてくるマリンの手をほどくと、リュックを肩にかけた。
「五時には帰ってくるから。それまでここにいてね」
「へーい」
「…まさかお夕飯も、ああいうのになるの?」
先ほどのカエルステーキを思い出したのか、可憐は顔をしかめた。
「ん~とね、夕ご飯はナメクジのシチューかな」
「おえっ」
「デザートにバッタの肝臓ゼリーがあればもっといいんだけど…」
聞かなければよかったと半ば後悔しながら、可憐はドアノブに手をかけた。
最後に、マリンの方をちらっと睨みつける。
「いっとくけど、学校にはついてこないでよね」
「ケチ!」
マリンはそういったあと、やけに顔を緩ませた。
「ははーん。さては可憐、学校に好きな子でもいるんでしょ?だからマリンに知られたくないんだ!」
「な…っ」
「あっ、図星!可憐顔真っ赤だ!」
マリンはさも楽しそうに笑ったが、可憐はそれどころじゃない。
「ち、違うわよっ!別に私は…」
「好きな子がいるんなら話は早いや。マリンの力で、両想いにさせてあげる!それから、告白させて~、初デート、キス、それからまあ、プロポ…」
「うわあぁぁぁっ!」
可憐は慌てて遮ると、呼吸を整えた。
「大丈夫、可憐?」
「だ、大丈夫だから…それ以上は何もいわないでっ」
マリンが黙ると、可憐はその顔に指を突きつけた。
「別に私には好きな人なんていないし、仮にいたとしても、魔法の力になんか頼んないから!じゃ、大人しくしててね。また勝手に何かしないでよ!」
激しい口調でいうと、バンとドアを閉めた。
マリンはしばらく、きょとんとした顔でそれを見ていたが、やがてにやりとした。
「魔女に向かって、魔法に頼らないだなんて、よくいうねぇ。軽ーくマリンを怒らせちゃったみたい」
マリンは杖を取り出した。
中に向かってくるくるとそれを振ると、渦の中心からずるずると服が這い出してきた。
可憐の高校と同じ制服だ。
それに杖を向けると、マリンはあっという間にそれに着替えた。
「魔界のプリンセスの恐ろしさ、見せつけてやる…」
マリンは呟くと、舌なめずりをした。