5jewelry
全身がガタガタを震える中、クラスメイトが心配そうに可憐を覗きこんでいる。
「理香子、具合でも悪いの?」
「保健室いく?」
女子たちが優しくいってくれるが、可憐は首を振った。
だって、どう説明すればいいの?
どんな言葉を並べたてても、全っ然理解できない!
そうだ。
理香子は?
あたしがここにいるってことは、今の理香子はあたしってこと?
可憐は慌てて周りを見渡した。
理香子…つまり、可憐はいない。
咄嗟に近くにいたクラスメイトにたずねた。
「ねえ!理…えと、か、可憐は?」
そのクラスメイトは目を丸くさせた。
「何いってんの?可憐は気分が悪いからって、あんたが保健室に連れていったんじゃない」
「ええっ!?」
可憐が叫ぶと、その子はビクッとした。
「ねえ理香子。あんた、やっぱりおかしいんじゃないの?早退したら?」
「う…うん。そうする…」
可憐はふらっと立ち上がると、よろよろとした足取りで理科室を出た。
そのままゆっくり保健室に向かった。
幸いなことに、先生は今日は出張中だ。
可憐は保健室のドアを開けると、ひとつだけカーテンのかかっていたベッドを見つけ、ずかずかとそちらへ歩み寄った。
思いっきりカーテンを引っぺがすと…いた!
可憐はベッドの横でうつらうつらとしていたマリンを見て、頭に血がのぼってきた。
「ちょっとあんた!何してくれんのよ!」
「ふにゃ…?」
マリンは寝ぼけ眼で可憐を見た。
更に、ベッドで眠っている人を見て、可憐はさっと背筋が冷たくなった。
「理香子!しっかり。大丈夫?」
慌ててその手を握り、今は可憐の姿をした理香子に話しかける。
マリンはようやく目が覚めたらしく、欠伸をして笑った。
「平気だってばぁ。今はちょっと眠ってもらってるだけ」
「な、なんで眠る必要が…」
「そりゃ、可憐のお願いを叶えるため、よ」
マリンは当然のようにいった。
「はぁ!?いつ私がそんな…」
可憐が否定しようとすると、マリンはきょとんとした。
「あれれ?この子みたいになりたいっていったよね?」
「みたいに、でしょ!理香子本人になりたいっていったわけじゃない!」
マリンは面倒そうに頬をかいた。
「何カリカリしてんの?カルシウム不足?お肌荒れるよー」
「ふざけないで!」
可憐は怒鳴った。
「理香子に何かあったらどうしてくれるのよ!理香子は私の親友なのよ?」
「そんなのマリンは知らないよ。マリンの仕事は、可憐の願いをかなえることだもん」
可憐は眉をひそめた。
「私の、願い?」
聞き返したが、マリンは至って真面目な顔でうなずく。
「そ。一ヶ月以内に、可憐の願いを七つ叶えなくちゃいけないの。朝の遅刻とやらの件と、今ので残りは五つ」
「ちょ、ちょっと待って!」
可憐は片手をあげて、マリンを制した。
いきなり現れて、なんで私の願いを叶える?
意味がわからない!
「な、なんで初対面のあんたが、私の願いを叶えるのよ?」
「ん?それはねぇ…」
マリンは考えるかのように、顎に手をやった。
「…わっかんない」
「おい!」
マリンは口を尖らせた。
「しようがないじゃん。わかんないもんはわかんないんだもん。でも、そういう掟なの!」
「掟…?」
可憐が繰り返す。
マリンはにやりとした。
「あのね、可憐。マリンは魔女なの」
「………」
「もっと細かくいえば、魔界の次期女王。いわば、お姫様ってやつ」
気取ったしぐさで髪をなびかせたりしているが、可憐はそんなの見ちゃいなかった。
マリンの顔、服、自分の姿、そして眠っている理香子を順々に見比べている。
「で、その女王になるための試験に、可憐の協力が必要なわけだから、よろし…」
ふらっ…
マリンの言葉を最後まで聞くこともできぬまま、可憐は意識を失った。