20jewelry
まさしく夢のような時間だった。
可憐は玄関先に立って、頭を下げた。
「今日はありがとうございました」
悠也の母親はにこにこ笑って答えた。
「いいのよ!おばさんが無理いってきてもらったんだもの。こちらこそ、楽しかったわ」
可憐はもう一度おじぎをすると、ドアノブに手をかけた。
ここに悠也はいない。
可憐がこの家に上がってすぐ、自分の部屋に引きこもってしまった。
少し残念な気もしたが、仕方がない。
「お邪魔しました」
「また来てね、可憐ちゃん」
温かな言葉に見送られ、可憐はそこをあとにした。
帰り道は迷うことはないだろう。
早く帰って、マリンにお礼をいわなくちゃ。
それからお母さんに、デザートのカエルの肝のチョコレートがけを頼もう。
今日はマリンに、お願いをふたつもかなえてもらったんだもの。
思わず鼻歌を歌っていると、救急車がそばを通って、鼻歌が遮られる。
しばらく歩いていると、可憐はビルの上をふよふよと漂う何かを見つけた。
「マリン!」
箒に跨っていたマリンは、可憐の姿を見て、スーッとおりてきた。
その様子を見ながら、可憐はふと心配になった。
もしかしてマリン、ずっと箒で飛んでたのかな。
それって結構、ヤバくない?
けれども、マリンの方は気にしているふうではない。
「やっほー、可憐!初の南君ちはいかがだった?」
「もう最高よ!マリンのおかげ」
マリンは満足そうに微笑んだ。
「まあねっ。可憐が楽しんでくれたんなら良かった。魔法をふたつも使ったかいがあったよ」
「うん。本当にありがとう」
マリンが箒からおりると、二人は並んで歩きだした。
「南君のお母さんて、すっごく料理が上手なんだ!さっきもね、パウンドケーキにミニマフィンと、マカロンでしょ。それからクッキーとビスケットも!」
「すごーい!いいなぁ、可憐。マリンも食べたかったな」
「そんなこといってもしょうがないでしょーが。今度お母さんに頼むから。ねっ?」
「…まあ、それならいいけど」
マリンは口を尖らせたかと思うと、可憐の手を握った。
「それならすぐ帰ろう!マリンおなか減っちゃった。空飛んでると、体力も消耗するんだ」
「はいはい」
可憐は笑い返すと、走り出した。
家についたころには五時を回り、日も傾きかけていた。
「ただいま!」
可憐とともにドアを開けると、すぐさまお母さんが出てきた。
「お帰り。ねえ、可憐。あんたたちのクラスに、南悠也って子いるの?」
可憐はマリンと、チラッと顔を見合わせた。
今日、二人は理香子と三人で遊んできたことにしている。
今までお母さんたちに悠也の話をしたことはないから、知らなくて当然だ。
「いるけど、どうして?」
「さっき電話がかかってきて…」
電話?
可憐は疑問を感じた。
可憐たちのクラスでは、全員がメアドを教え合っているが、電話番号までは知らないはずだ。
まして、自宅の番号を知っているのは、理香子ぐらいだ。
「それ、南君ちからってこと?」
可憐がたずねると、お母さんが困惑顔で首を振った。
「違うのよ。学校の担任の先生から」
「何それ。どういうこと?」
マリンも眉をひそめた。
「可憐が南君ちに遊びにいっちゃったのが、もう学校にばれ…」
「わあああああっ!!なっ、何でもない!」
けれど、お母さんは聞いていなかったようだ。
ずっと頬に手をあてて、戸惑ったように視線を揺らしている。
可憐の胸に、さっと不安の影が生じた。
「ねえ、お母さん。南君ち、なんかあったの?」
「あ…そ、そうなの。実はね…」
お母さんがはあっとため息をついた。
「南君ての子のお母さん、つい先ほど亡くなったって…」
「…え?」
可憐は耳を疑った。
「どして…?」
「ほんとについさっきみたいよ。三〇分ぐらい前。自宅から出てしばらくしたところで、飲酒運転のトラックに撥ねられた…とか。打ちどころが悪かったみたいで、即死だそうよ」
嘘だ。
三〇分前といえば、可憐がちょうど悠也の家を出たあたりだ。
それからすぐに、そんな事故が?
ありえない。
けれども、可憐の脳裏にふと、あることが思い浮かんだ。
そうだ。
あの家を出てすぐ、救急車とすれちがった。
もしかして、あれが…。
「あんたもお通夜ぐらいは顔出しなさいよ。私もいった方がいいのかしら…。可哀想にね、息子さん。これからどうなるのかしらねぇ…」
そういうと、お母さんはせかせかした足取りで、台所へいってしまった。
可憐はその場にへたりこんだ。
頭の中が全て液体になったかのようだ。
液体が沸騰して、ぐらぐらする。
頭は熱いのに、反対に体が冷たくなっていく。
可憐は隣のマリンを見た。
マリンの表情には、困惑と驚愕、それから恐怖が浮かんでいた。
私も今、こんな顔をしてるんだろうか。
こんな時に、可憐はふと思っていた。
どんどん更新が不定期になっていく…。
そしてどんどん暗くなっていく…。
これからどうなるのやら、私にも想像がつかない(汗)
まだ読んでくれている読者様がいらっしゃいましたら、どうぞ見捨てないでください<(_ _)>




