2jewelry
私、夢見てる?
また目覚まし止めちゃったのかな?
可憐はそう思ったが、現実には確かに、空から女の子が落ちてきているのだ。
「どいてぇ!」と叫びながら。
可憐はよけようとした。
しかし、そんな咄嗟に動けるほど、可憐は素早くはなかった。
だからこそ、どしん!という音とともに、彼女が女の子とぶつかるのは目に見えていた。
「あいたたたたた…」
可憐はしりもちをついて、腰を抑えた。
可憐の上に落っこちた女の子はすぐに立ち上がった。
「ごめんなさい!大丈夫?」
「え、ええ…」
女の子は心配そうに可憐をのぞきこんだ。
うっわ、可愛い!
可憐は思った。
目の前の女の子は、目が大きくて、透き通るくらい色白で、豊かな金髪は緩くウェーブがかかっていた。
だが、ずいぶんと奇抜なファッションだ。
頭には大きな三角帽子、肌を覆い尽くしそうなほどたくさんのアクセサリー、所々フリルがあしらわれているワンピース、先の尖がったブーツ。
そして手には、やけに装飾の施されたほうき。
外人さんかな?
魔女のコスプレとかはやってるのかも。
「怪我はない?」
女の子はいった。
「う、うん。なんともない」
「そう!よかった」
女の子はにっこり笑った。
「ちょっと操縦に失敗しちゃって。何せ、こっちに来てから初めて飛んだから」
操縦?初めて?飛んだ?
頭の中をはてなマークいっぱいにして、可憐は女の子を見た。
「あ、あの、あなたは一体…」
「ん?ああ、自己紹介が遅れちゃった!」
女の子は立ち上がると、可憐に手を差し出してきた。
「私の名前はマリン。アクアマリンよ!」
ポカンとして女の子を見つめる。
「あ…アクア、マリンさん…?」
「そ!マリンでいいよ。マリンも可憐って呼ぶから」
今度は絶句する。
「わ、私、自己紹介した?」
「へ?してないけど」
マリンはきょとんとして可憐を見ている。
「じゃ、じゃあなんで名前…」
可憐が震える声でいうと、マリンは「なんだ、そんなこと?」といって笑った。
「当ったり前じゃん。マリンはねえ、超才能のある…」
その時、ちょうど学校のチャイムが聞こえてきた。
可憐は嫌な予感がして時計を見た。
8時30分…。
「ち…遅刻…」
今月で3回目だ。
いい加減にしないと、放課後に居残りは確実だ。
「急がなくちゃ!さよならっ」
「あっ、ねえちょっと」
マリンが箒を引きずりながら追いかけてきた。
「何?」
急いでる所を呼び止められ、可憐は無愛想に返事をした。
「そんな慌ててどこいくの?」
「どこって…学校よ!決まってるじゃない」
可憐はいらいらしながら、すぐ側にある古い建物を指差した。
「ふーん」
マリンは可憐の学校をじっと見つめた。
「…ね、連れてってあげよっか?」
「はあ?」
可憐は意味がわからず、マリンを見た。
「マリンがそのガッコーってとこまで、すぐに連れてってあげる」
「べ、別にいいです」
可憐は警戒した。
マリンは自分と同い年ぐらいだが、どうもあやしすぎる。
関わらない方が身のためかも…。
そう思って後ずさりしたが、すぐにマリンに腕を掴まれた。
「あっ、ちょ、ちょっと!」
「大丈夫だって。さ、いくよ。ガッコーってとこまでテレポート!」
マリンが手を高々と上げて何やら叫んだあと、可憐は目の前が真っ白になるのを感じた。
眩しい!
しかし、それもものの数秒のことだった。
光が消えて、可憐が目を開けると、そこはもう校舎の中だった。
「…嘘」
可憐は呆然とつぶやいた。
まだ着いていいはずがないのに。
あの白い光のあとの記憶がない。
可憐はきょろきょろとあたりを見回した。
確かに可憐の通う高校だ。
何が起きたんだろう…。
何はともあれ、遅刻は免れそうだ。
可憐は頭を振ると、教室まで駆けだした。