G)入部?!
グラウンドに響く音……。
硬球と金属バットがかもし出す絶妙なハーモニー。
なんとも言えない音が響きわたる。
そして、打球は全て右中間に飛び、フェンスを越えていく。
見ている人は呆然と見ていた。
大輔
『アイツ、なにものなんだ……。』
純平
『翔太が連れて来た最後の一人……。』
貴裕
『負けた……。』
目の前で起こっている現実をボーっと見ている。
翔太
『9本か……。』
落ち込む翔太。
昂一
『じゃ、オレ帰るわ。』
勝負に勝ったのでさっさと帰ろうとする昂一。
徹
『待った。』
昂一の前に立ち塞がる。
昂一
『どいてくれませんか?』
少し見上げる昂一。
徹
『野球部に入ってくれ。打順、ポジション、背番号、好きなモノを選んでいいから、頼む。』
突然、土下座をする。
昂一
『やめて下さい。オレ、あなたに土下座される覚えがないんで。』
突然の土下座で焦る昂一。
徹
『そんなに広くないウチのグラウンドだけど、9本も柵越えした選手を入部させなかったら野球の神様に申し訳ない。』
一番星学園の野球部専用のグラウンドは両翼約75メートル、高さ2メートルのフェンスのグラウンド。
公立高校の時のものだが、他にグラウンドで行う部活動がないため専用で使用している。しかし、私立校になったので、一番を目指す理事長の方針で、本格的なグラウンドとして工事される予定になっている。しかし、本格的に工事をするのは4年後の予定になっている。これは、15年後に運動部、文化部、全ての部活動で日本一になることを目標にしている理事長の方針で、順番に工事をし、本格的な物を5年後までに用意すると言うことで、今の部活動にはまだ予算が用意されていない。
昂一
『野球の神様って……。オレ、そんな選手じゃないですから。』
苦笑いをしながら断る昂一。
徹
『頼む。今年の夏の大会が終わるまででいい。』
再び土下座をする。
昂一
『わかりました。頭を上げてください。』
あまりにしつこいので8月までの入部という条件のもと一番星学園野球部に新たな仲間が入部した。
入部したものの野球道具を全て実家の松山市に置いてきているので送ってもらわないとグラブも無かった。
したがってしばらくはランニングとバッティング練習しか行えなかった。
しかし、チーム内は昂一の衝撃的な入部によって気合が入っていた。
一番下手だった大輔の頑張りは計りしれなかった。
貴裕も昂一との勝負に敗戦したことによって上を目指す姿勢が生まれてきた。
しばらくして昂一の野球道具が届くと、昂一も本格的に練習を始めた。届くまでに余っていたグラブを貸してくれると言う人がいたのだが本人が断り続けていた。
こうして、一番星学園野球部は夏の大会に向けて本格的に始動し始めた。