E)翔太の脅し
昂一の家で前年の夏に行われた世界大会の話しが続いている。
翔太
『佐藤クンから見てさぁ、ショートどうだった?』
ショートにこだわりを見せている翔太。
昂一
『凄い選手だったよ。』
なぜか素直に言っているように聞こえない。
翔太
『そうかなぁ?オレの方が上手かったと思ったんだけどなぁ〜……。』
少し落ち込む翔太。
昂一
『お前の方が上手かったと思うよ。』
翔太
『え…………。』
いきなりの言葉に驚く。
翔太
『どう言うことだよ?さっき、凄い選手って言ったじゃん。』
昂一
『バッティングが凄かったんだよ。お前も見に来てたなら覚えてないか?準決勝で5打席連続本塁打打ったヤツ。』
翔太
『準決は見てないからニュースで知っただけだけど、5打席連続本塁打したヤツがいたのは覚えてる。』
興奮気味に話す。
昂一
『そいつだよ。レギュラーでショート守っていたのが。お前、ホントに試合観たのか?』
翔太を疑う。
翔太
『決勝しか観てないからなぁ〜。でも、決勝は確か8番バッターが守ってなかったか?』
必死に記憶を探る。
昂一
『そお。準決で、5打席連続で本塁打を打ってもサインを無視したり、守備でも飛びつけば捕れるボールも点数差があるからって言う理由で必死にプレーしなかったから決勝は外されたんだよ。代わりのヤツはサードがメインの選手。』
当時の話しを普通に話す昂一。
翔太
『じゃ、オレなんで選ばれなかったんだ?』
補欠で選ばれなかった事に疑問を持つ翔太。
昂一
『あ〜それは補欠が全員、監督のジュニアチームから連れてきた連中だったから。正直、オレもびっくりしたけどな。』
翔太
『よくそんなんで世界一になれたよなぁ〜……。まぁ、1点で勝てたほど、日本のピッチャーがよかったもんなぁ〜。』
ちなみに、決勝戦のスコアは2-0で日本の勝利だった。しかも、2点はソロ本塁打2本であげた得点。
昂一
『……………。』
無言になる。
翔太
『ホント凄いよ。佐藤クンわ。』
と、昂一の顔を見ながらニコっとする。
昂一
『誰にも絶対に言うなよ。全くこんな何もない島まで来たのにすぐにバレるなんて……。』
落ち込む昂一。
翔太
『言わないからさぁ、野球部に入って。』
誰にも言わない条件に野球部に勧誘する翔太。
昂一
『ヤダ。』
即答する。
翔太
『何でそんなにイヤなんだよ?ウチのチーム投手、いないんだよ。だから頼む。』
土下座をする翔太。
昂一
『頭、あげろよ。土下座されてもイヤだから。それにオレ、外野が本職だから……。』
翔太の突然の行動にアタフタする昂一。
翔太
『え……。』
昂一の言葉に固まる翔太。
昂一
『だから、オレは外野手なの。決勝戦は先発予定のヤツが腹痛で急遽オレになったってだけ。』
世界大会の決勝戦で昂一は投手として出場していた。
翔太
『もぉ、なんでもいいや。ともかく入部決定ね。入部しないとみんなに言って、野球部全員で毎日家まで通うから。じゃあ。』
と、立ち上がりそそくさと帰っていった。
反論できずにしばらくボーっとする昂一。
次の日。
昂一が学校に着くと翔太がよってきた。
翔太
『今日からちゃんと練習に参加しろよ。』
嬉しそうに話しかける。
昂一
『オイ、オレはまだ入るだなんて言ってないぞ。』
翔太
『佐藤クンが入らないと甲子園で優勝できないだろう。』
昂一
『甲子園優勝?バカかお前。そんな簡単にできることじゃないぞ。』
翔太の発言に呆れている。
翔太
『できる。君が入れば絶対に。』
真剣な目で言う翔太に昂一は圧されているのだった。