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除霊☆…したハズなんですがっ?

作者: 和貴

「本当よ。その電柱の傍に、女の子の霊が出たの」


「ふうん」


「なによ、信じないの? 昨日お祭りの帰りにこの道を通ったら、白いワンピースを着た五、六歳くらいの女の子が独りで立っていたの。ともも愛も見えないって言って怖がったから、冗談よってごまかしたけど、あれ、絶対に霊だわ。関わらないようにと思って自転車で通り過ぎたんだけど、やっぱり気になっちゃって……それで振り返ったら、もう居なかったの。後で母さんに聞いたら、昔、この辺りで何かを祀っていたほこらが在ったんだって」


 同級生であり、俺と同じく霊感を持った水晶みあきからそう言われて、気乗りのない生返事をした俺は、水晶が指し示した何の変哲も無い電柱をじっと見詰めた。


 急速な宅地開発で住宅街へと変貌してしまったこの辺りは、数年前までは道が一本通っているだけの見渡す限りの水耕田だった。隣の線路に沿って造られたその道は、車が離合出来る程度の道幅で、市内を中心にして同心円上に造られている環状線と国道とを繋いでいる。地元のドライバーはこの道を『抜け道』として利用している為に、車の往来は意外と多く、法定速度も守られてはいない。


 状況から察すると、この場所で車に撥ねられた動物か何かの仕業だろうと思った。


 水晶の言う通り、確かにその電柱の袂からは、何やら得体の知れないケモノの発する妖気が漂っている。



 この地域は、俺の実家である神八代かみやしろ神社が守護している土地だ。水晶から聞いてしまった以上、放ってはおけないし、どうやらその妖かしは電柱で偶然封印されてしまったみたい。恐らく白いワンピースの女の子は、水晶が言っていた祠の主なのだろう。


 宮司で陰陽師でもある親父の手を煩わせる程でも無いだろうから、見習い神職であるこの俺――高校二年の八神 しんが、このモノノケのみたまを祓い清めてやるのが妥当だなと思った。


 とは言っても、不思議な事にその妖気からは禍々しい邪気は一切感じ取れないし、祠で祀られているだけあって、その霊は下級霊とも思えなかった。



 やれやれ。これはもしかすると、とんだ災難が降り掛かって来たのかも知れないな。


 動物の妖かしは人間の言霊ことだまをなかなか理解してはくれないし、人災に見舞われた妖かしは人を憎んだり恨んだりする。先代の爺ちゃんや親父はそんなケースも力尽くで祓ってしまうが、俺は見掛けに因らずそんな手厳しい事がなかなか出来ない性分だ。そのせいか、頼まなくても動物の方から勝手になつかれてしまう。



「ねえ、どんな感じ?」


 集中して探りを入れていた俺を、水晶が心配そうに覗き込んだ。


「ん。何とかなりそうだ。今晩祓っておくよ」


 水晶は霊視しか出来ない。俺は水晶に要らぬ気遣いをさせないよう、そう言って笑ったが、心の中は複雑だった。



  *  *



 その晩は、綺麗な満月だった。


「真様ぁ、みかんは厭な予感がします。ここは御屋形様にお任せして、お止しになってはどうですか?」


 俺の式神である『みかん』が巫女の姿をした人形に変化して、清めの聖水を宝剣のやいばに注ぎながら、口を尖らせる。


「目醒めた妖かしをこのまま悪戯に放っておくわけには行かないよ。時間が経てば憎悪を抱いてしまうかも知れないからね。何より妖かしが可哀想だ」


 みかんは浮かない顔で頷いた。


 俺は地の封印から妖かしを解放すべく、先祖代々伝わる聖剣聖ひじりを両手でうやうやしく天に向かって捧げた後、自分の言霊に合わせて印を組み、何度も左右に薙ぎ払った。


掛巻かけまくかしこ伊邪那岐いざなぎの……御禊祓みそぎはらひたまひし時にせる……」


 俺が祓詞はらひのことばを告げた直後に、澄み渡っていた星空が突然俄かに掻き曇り、暗雲が垂れ込んだ。地面からゴゴゴ……と言う地鳴りが響く。


「真様、来ますっ!」


 御霊鎮みたましずめの神楽鈴を振りつつ舞い踊っていたみかんが、張り詰めた声で告げると、電柱の接地部分から眩い閃光が周囲を覆う。



 青白く燃える鬼火と共に現れたのは、一匹の小柄な純白の銀狐。


 そして高貴な気品を放つその銀狐が、いにしえの『神の使い』だったのだと直ぐに判った。どうりで変わった妖気だなと思ったはずだ。


 銀狐はぺこりと一礼をして、フサフサの九本の尾を優雅に振ったかと思うと、空中へ鬼火とともに消えてしまった。




 数日後、俺のクラスに一人の女子生徒が転校して来た。


 腰の辺りまである亜麻色の長い髪に、猫のようにやや吊り上った大きくて丸い瞳。整った顔立ちや透き通るような白い肌の小柄な彼女を見た瞬間、俺と水晶は飛び上がって驚く。


 彼女の頭には銀の毛並みの獣耳があり、腰には銀色の尻尾が九本も生えていたんだ。だが、それはどうやらクラスの中でも霊感が強い俺と水晶だけにしか見えないらしい。


「宜しくね」


 セーラー服を着たお狐様は、俺達を見て天使のように微笑んだ。


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