第三話 魔王軍、来襲
翌朝。
「申し訳ございません。王の命より一度ヌクレウス島に戻ることとなりました」
リーベはそう告げた。
ウムクルは鼻を鳴らす。
「ふん!身勝手な奴じゃ!」
すると、ニャンピンガの父が言った。
「ピンガ、魔法騎士様を魔法陣まで見送ってきたらどうだ」
「はぁ?」
リーベが慌てて言う。
「そんな……!大丈夫ですよ。私は転移魔法で――」
「そうよ!あなた達、もうすっかり仲良しみたいだし、いいじゃない!」
母が遮る。
「別に仲良くなってねぇし……!」
ニャンピンガがゴネていると、両親は「ほらほら!行った行った!」と二人の背中を押した。
―――
ヌクレウス島へ転移する魔法陣は森の奥、この小島の端にある。
ニャンピンガとリーベは森の中を歩いていた。
「魔導士って転移魔法使えないの?」
ニャンピンガが問うと、リーベは穏やかに答えた。
「使えるよ。かなり高難易度だけど、勉強したら使えるようになるよ」
「勉強ね……」
ニャンピンガが呟く。
「どうしたの?」
少しして、ニャンピンガは答えた。
「オレ、勉強したことねぇんだよな。生きていくために必要なことは家族と村の皆に教えてもらったし、別にこの島を出ていくつもりもねぇから良いかなって……」
リーベは優しく言う。
「そっか……確かに勉強は大事だけど、ニャンピンガくんがそれで良いならそれで良いんだよ。何より本人の意思が大事!」
「え……何でオレの名前……知って……」
ニャンピンガは驚く。
「あっ……ごめんね。君のご両親から聞いたの。私だけ君の名前を知らないのは不公平でしょ?」
リーベは微笑んだ。
「父さん……母さんめ……」
ニャンピンガは小さく呟く。
「てか、転移魔法使えるのに、なんで島の端の魔法陣まで来るんだよ?」
「それは勿論、ニャンピンガくんとお話したかったからだよ!」
リーベはまた微笑む。
「は?」
「私達の王はね、ちょっと気難しいお方でさ。魔法騎士団の仲間も真面目な人ばかりで……ニャンピンガくんみたいな面白い子、中々いなかったの」
「そうかよ……」
ニャンピンガは少し照れた。
―――
二人が話しているうちに、島の端の魔法陣に到着した。
「じゃあ、用事が済んだらまた来るからね。またね」
リーベは手を振る。
「ああ……」
ニャンピンガは自然に手を振り返していた。
―――
リーベが村を去ってから数日が経った。
ニャンピンガはいつも通り力仕事をし、休憩がてら以前リーベと話した野原に寝そべり、海を眺めていた。
(魔法騎士団長、いつ戻って来るんだ……『またね』って言ってたのに……)
その時、焦げ臭い匂いが鼻を刺した。
ニャンピンガは跳ね起きる。
匂いは村の方角だった。
(まさか……!!!)
ニャンピンガは全力で走り出した。
村は炎に包まれ、赤い光が空を染めていた。
家々は崩れ落ち、黒煙が立ち上っている。
「父さん!母さん!」
ニャンピンガは自宅の瓦礫の下で、血を流している両親を見つけた。
父は震える声で言う。
「ピンガ……無事か……良かった……」
「父さん……!しっかりして……!」
母も苦しげに言う。
「襲われたのよ……きっと……あれが……魔王軍……」
「母さん……!オレが二人を助けるからっ……!」
ニャンピンガが瓦礫に手をかけた瞬間、二人の息は途絶えた。
ニャンピンガはその場に崩れ落ちる。
だが、すぐに顔を上げた。
(……まだ……じーちゃんが……!じーちゃん……どこに……!)
ニャンピンガは祖父を探して走る。
「じーちゃん!!!」
倒れているウムクルを見つけた。
「じーちゃん!じーちゃん!」
ニャンピンガは必死に叫ぶ。
ウムクルは最後の力を振り絞り、手を伸ばした。
「ニャンピンガ……逃げろ……生きるんだ……」
その手は力なく落ち、ウムクルは息絶えた。
「あ……あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!!」
ニャンピンガの叫びが、燃える村に響いた。
その時――地面が揺れた。
空から何かが舞い降りる。
「……無い。どこにも無い……なぜだ……?」
低く重い声が響いた。
そこには、体長二メートルを超える黒い大男が立っていた。
マントを羽織り、フードを深く被り、顔は仮面で覆われている。
(コイツがっ……!コイツが皆をっ……!)
ニャンピンガは怒りに任せて石を投げつけた。
男は振り向いたが、微動だにしなかった。
「お前……!よくも……皆をっ……!オレの愛する家族と大切な仲間を……!」
ニャンピンガは叫ぶ。
「何だ貴様は……?こんな極小な島が何だと言うのだ。邪魔だ。消えろ」
男は手をかざし、魔法を放った。
「……っ!!!」
ニャンピンガは目を瞑る。
しかし、魔法は当たらなかった。
恐る恐る目を開けると――
「遅れてごめんね。ニャンピンガくん」
ゴールドイエローの長い髪を揺らし、騎士のマントを翻す女性の後ろ姿がそこにあった。




