第二話 魔法騎士団長、来訪
ニャンピンガは家を出て、祖父を探しに森の方へ向かった。
「だから何度も言っとるじゃろ!この村からは出ていかん、と!」
祖父の声だ。
「重々承知しております……!ですが、この村は危険なのです!早く避難しなければ、魔王軍――魔王に仕える軍勢が……!」
そこには、ゴールデンイエローの長髪にターコイズブルーの瞳をした女性がいた。かきあげた前髪の隙間から見える顔立ちは整っていて、思わず見惚れるほど綺麗だった。
(綺麗な女の人だなぁ。あれが魔法騎士団長?随分若く見えるけど……何か言い合いしてるっぽいぞ)
「しつこいわ!いい加減にせぇ!」
「……っ!」
女性は身を硬くした。
「この村は儂らの思い入れのある場所じゃ!絶対に出ていかんぞ!」
そう言い捨てて、村長ウムクル・イントワーリはニャンピンガの元へ歩いてきた。
「おう、ニャンピンガ。どうかしたのか?」
「いや、じーちゃんが心配で様子を見に来たんだよ。あれが魔法騎士団の団長?何があったの?」
「この女史が変なことを言いおってな。『この村に魔王軍が襲撃して来るから避難しろ』と。全く意味が分からんじゃろう?思い入れのあるこの村を捨てるわけにはいかん」
(魔王軍?何だそれ?少なくともこの島じゃ聞いたことがない)
「そうだね、じーちゃん。気にすんなよ!今日の夜飯はダイコンのステーキだって!早く行こうぜ!」
ニャンピンガはウムクルの手を引いた。
「おう、それは楽しみじゃのう。早く戻るか」
たった一人、夜風が微かに吹く森に取り残された女性は、小さく呟いた。
「まずい……このままじゃ……」
―――
翌朝。村には人だかりが出来ていた。と言っても数人程度だ。ニャンピンガはその輪に近づく。
「何だ?」
そこにはウムクルがいて、その隣には昨日の綺麗な騎士団長が立っていた。
「今日からお世話になります。ヌクレウス島を拠点とする魔法騎士団の団長、リーベ・フライハイトと申します」
リーベが名乗ると、村人たちはざわめいた。
-「何?」
-「魔法騎士?」
-「どういうこと?」
ウムクルが手を上げ、皆を静める。
「落ち着け。昨日、この女史は儂に『この村に魔王軍が襲撃して来るなら避難しろ』と言った。儂は断った。じゃがこの女史は『魔王軍の襲撃まで村を護るから滞在させて欲しい』と言ってきた。魔王軍なんざ現れん。よってこやつが満足するまでここに滞在させることとなった。分かったな?」
村人たちはまたざわめく。
-「魔王軍の襲撃?」
-「物騒ね」
-「ありえない」
-「好きにしたらいいさ」
「では解散じゃ。各自戻るのじゃ」
「ウムクルさん、ありがとうございます」
「ふんっ!勝手にしろ」
―――
リーベは魔法騎士団長なだけあって、魔法の腕も非常に優秀だった。
彼女は次々と魔法で住民の手助けをし、すぐに村に溶け込んでいった。
-「あら、とても助かるわぁ」
-「流石魔法騎士団長!」
-「サンキュー!」
リーベに感謝する声が増えていく。
(そんなことされたら、オレの役目がなくなるじゃん……)
―――
リーベは村から離れた野原で、海を眺めていた。
「何してんの?」
ニャンピンガが声をかけると、リーベは微笑んだ。
「海を眺めているの。この島からヌクレウス島が見えるわ。ヌクレウス島は建物が多くて風が遮られてしまうけど、この島はいつでも風を感じられる」
「それって嫌味?それとも自慢?」
「え?」
「『自分はお前らと違って魔力にも住まいにも恵まれて羨ましいでしょ?』ってこと?全然、嫌味にも自慢にもなってねぇから!オレは今の状況が恵まれてなかったとしても、父さんと母さんとじーちゃんと村の皆と暮らせて幸せだし!」
「ふふ……」
「何笑ってんだよ!」
「とても素敵だなぁって」
「は?」
「まだ少ししかこの村にいないけど、皆さんはお互いに助け合って、世間話をして、まるで家族みたい。ヌクレウス島では、住民同士がこんな家族のような関係にはなれないから……とても素敵だなって思ったの」
リーベは微笑んだ。
オレは一瞬、見とれてしまった。
「そ、そうだろ!羨ましいだろ!」
「うん。だからこの村を護りたい。必ず護ってみせる」
リーベの表情が強くなる。
「ま、信じてねぇけど頼んだぞ」
ニャンピンガは拳を突き出した。
「任せて」
リーベは微笑み、ニャンピンガの拳に自分の拳を合わせた。
この時のニャンピンガは、まさかあんな悲劇が起こるなんて、夢にも思っていなかった。




