第一話 小さな島の無魔少年
この世界〈マギクス〉には、魔法の力を持って生まれた者と、何の力も持たずに生まれた者が共存している。
世界の中心には巨大な島――ヌクレウス島があり、非常に発展した島として知られている。その周囲には、そこそこ大きい七つの島が環状に広がっていた。
そのどれにも属さない極小の島に、ブリンディア村という小さな村がある。
魔法を持たずに生まれた青年、ニャンピンガ・イントワーリは、そこで愛する家族と村の仲間たちに囲まれ、静かに暮らしていた。
スマルトの髪にインディアンレッドの瞳を持つニャンピンガは、五分もあれば一周できるほど小さな村を、いつものように歩いていた。
彼は村で力仕事を引き受けている。仕事といっても金を稼いでいるわけではなく、ただ村の皆の役に立てればそれでいいと考えていた。
そのとき――
「ピンガくん!いい所に…!ちょいと手伝ってくれないかしら?」
中年の女性・アババニが声を掛けてきた。
「お!アババニさん!これを運べばいいんだな!」
ニャンピンガは大きな木箱を指さす。
「そうなの。商家の人が台車に乗せてくれたんだけどねぇ、家の前まで運んだものの降ろせなくて困っていたのよ」
「了解!任せな!」
「助かるわぁ。ピンガくん」
ニャンピンガは笑って胸を張った。
「ま、オレは生まれつき筋力と体力だけはあったからな!それにオレはもう18歳だぜ!」
「あんなに小さかったピンガくんがもう18歳だなんて…大きくなったわねぇ」
ニャンピンガは木箱を両手で持ち上げる。
「それにしてもすげぇ買ったな!アババニさん!こんな綺麗なモン、ヌクレウス島で買ったの?」
「ええそうよ。ほら!最近、ウチの島にも転移の魔法陣が置かれたじゃない!今まで貯めに貯めたお金で買ったのよ!あっちに行って帰る分には思ったよりもお金は掛からなかったわ!」
(ふーん。オレには無関係な話だな。それにしてもアババニさん、すんげぇ目輝かしてるぜ)
と、ニャンピンガは心の中で思った。
―――
「ピンガくんありがとねぇ。部屋の掃除まで手伝ってくれて」
日が落ちかけた頃、アババニは礼を言った。
「いいんだよ、これくらい!じゃまた何かあったら呼んでくれよな!」
そう言ってニャンピンガは自宅へ向かう。アババニの家から十五秒ほどの距離だ。
「ただいまー」
扉を開けると、父と母が迎えてくれた。
「おう。ピンガ、お帰り」
「お帰りなさい、ピンガ。今日はダイコンが採れたから、ダイコンステーキを作ってみましたー!」
イントワーリ家は小さな畑で自給自足の生活をしている。
「よっしゃ!ステーキだ!ってあれ?じーちゃんは?」
ニャンピンガは首をかしげた。彼らと共に暮らす村長の祖父の姿が見えない。
「外に居なかったか?」
「大事な話だと言ってたものね。森の方に居るのかしら」
(大事な話?何だそれ)
ニャンピンガは眉をひそめる。
「大事な話?」
「ええ、お客さんが来ていたのよ」
(お客さん?何だそれ。こんな小さな村に?)
「お客さん?」
「そうだ。“エクエス・マギカエ”という魔法騎士団の団長が来たんだ」
「…? エクエス・マギカエ…?」
ニャンピンガは聞き返した。
「マギクスを護る、魔法能力にも運動能力にも優れた魔法騎士団よ。団長さん、とても綺麗な方だったわね」
「そのトップの団長が何でこんな小さな村に…?」
父は「さぁな」と肩を竦め、母も「さぁね」と首を傾げるだけだった。
(オレには程遠すぎる存在だな…じーちゃん、大丈夫か?)
その疑問とともに、ニャンピンガの胸には、不安とも予感ともつかないざわめきが広がっていった。




