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魔女戦記  作者: 好きな言葉はタナボタ
第一章

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第5話 私の斧槍を受け止めるとは、なかなかやるわね!

プッペプッペプッペプッペプッペプッペプッペプッププッペプッペプッペプッペプー。 ソ連合軍とセガワ軍からほぼ同時に、突撃を指示するラッパが鳴らされ、両軍が激突する。 両軍とも兵士は歩兵のみ。 槍と盾を手にしている。


セガワ軍の先頭は猛将セガワ・アイコ。 92という武力値は全国的に見てもトップクラスだ。 灰色の戦馬にまたがり、銀色の甲冑を身に着け、魔女のトレードマークとも言うべき総鋼鉄製の斧槍を手にしている。


「フジワラノ・ハズキ! 大将同士で勝負をつけようではないか」


アイちゃんが自分に向けたとは思えない厳しい声で一騎打ちを申し込まれ、ハズキは身をすくませる。 武力90オーバーの声に気圧(けお)され、腰が抜けそう。 勝てる気がしない。 自分が斬り殺される結末しか思い浮かばない。 しかし挑まれた勝負から逃げるのは恥とされる。


「わ、わかったわ」


魔女社会の慣習に捉われ望まぬ勝負に応じようとするハズキをガブリエラが救う。


「私がお相手しましょう」


そう言ってハズキの隣から進み出た。 ガブリエラは魔女社会の慣習を歯牙にもかけない。 それでいて他の魔女に蔑まれもしない。 (ひる)まず、()びず、情けを知る。 彼女の振る舞いは、周囲の尊敬を集めるポイントを抑えているのだ。 計算ではない。 あらゆる面で恵まれる彼女だから、自然とそういう振る舞いになる。


アイコの目に、これまでと別種の戦意がみなぎる。


「ガブリエラ・ハニーゴールドか。 よかろう、相手にとって不足なし!」


進み出たガブリエラの背中に、イナギリ・クルチアが声を掛ける。


「ガブリエラ様、ディアマンテ殿は殺すなと仰せです。 お忘れなく」


ガブリエラが負けるとは(つゆ)ほども考えていない。


        ✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩


一騎打ちが始まった。 激しい音を立てて、ガブリエラとアイコの斧槍の刃がぶつかり合う。 ガシーン! 超高速で飛来する斧槍の重厚な斧の刃は、魔女武将が着用する重厚な鎧兜をも切り裂く。 だから魔女武将どうしの戦いでは、斧の刃どうしがぶつかり合うことになる。


ガブリエラは華やかな美貌に勇ましい笑みを浮かべる。


「私の斧槍を受け止めるとは、なかなかやるわね!」


この称賛は2つの意味を持つ。


1つ目は、"私が3リョフの力で繰り出した攻撃を、よくぞ見極めました"。


並の武魔女将なら、目にも留まらぬ速度で襲い来るガブリエラの斧槍に対応できず、防具ごと体を切断されていた。 "リョフ" は〈肉体強化〉の魔法の程度を示す単位。 "1リョフ" で豪傑1人分のパワーである。 一般的には、一騎打ちでも2リョフが用いられる。 3リョフは力の制御が難しく、魔力の消耗も激しい。


もう1つの意味は、"よくもまあ、斧槍の刃を私の斧槍の刃で切断されずに済んだものです"。


板金鎧を切り裂く魔女も、鋼鉄の塊である斧槍は切断できない。 しかし一握りの魔女は、それすらも切断する。 魔法ではなく意識の力で切断する。 いわゆる "一念(いちねん)岩をも通す" である。 この "鋼切(はがねぎ)りと呼ばれる技に対抗するには、自分も同じように意識の力を使うことだ。


アイコの表情に余裕は無い。


「くっ、流石はハニーゴールド」


見れば、アイコの斧槍の刃が欠けている。 ガブリエラの斧槍はアイコの斧槍を真っ二つに切断しはしなかったが、切れ目を入れた。 100年かかって 〈鋼切り〉 を身に付けたアイコだが、彼女の技は未だガブリエラの領域に達していなかった。


        ✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩


イナギリ・クルチアはアイコの技量の向上を認めた。


「腕を上げたわね、セガワ殿」


クルチアもまた、〈鋼切り〉 の使い手だ。 平素より訓練でガブリエラと斧槍の刃をぶつけ合っている。 つまりガブリエラに匹敵する腕前の持ち主である。


ソ連合の盟主フジワラノ・ハズキは、一騎打ちの迫力を感じ取るのみ。


「すごい...」


武力値が69のハズキは 〈鋼切り〉 のことをよく知らない。 斧槍が切断される事があると知りはするが、力任せに防具を切り裂く延長線上にそれがあると思っている。 ガブリエラとアイコが意識の力で競っていると知らない。


        ✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩


10数合の打ち合いの末、ついにアイコの斧槍が切断された。


アイコは自分の斧槍の先端を見上げる。


「ここまでか。 首を取るがいい」


微笑みを(たた)え、清々しくすらある。 長年の憧れだった 〈鋼切り〉 を習得し、タバサ王国時代には遥か高みにいたガブリエラ・ハニーゴールドを相手にここまで戦えた。 老獪な女狐(めぎつね)ナタリー・ディアマンテの首を取れなかったのが残念だが盛者必衰(じょうしゃひっすい)、そのうち誰かが取るだろう。 自分の人生に(おおむ)ね満足である。


「そうさせてもらうわ。 さよならセガワ殿」


ガブリエラの斧槍がブンと音を立て、アイコの頭部は胴体から切り離された。 切り離された頭部は兜に包まれたまま重い音を立てて地面に落下し、首の切断面から(おびただ)しい量の血が溢れ出す。 不老不死を(うた)われる魔女だが、首を切り落とされると絶命する。


        ✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩


イナギリ・クルチアは地面に落ちて血を流し続けるセガワ・アイコの頭部を見て()め息をつく。


(ガブリエラ様にも困ったものね)


クルチアには分かる。 ガブリエラは魔女王ナタリー・ディアマンテの(めい)に背き、あえてセガワを斬り殺した。 アイコを捕らえ反逆者として処刑しようとするナタリーに反発し、戦士としての誇り高い死を与えたのだ。 言いつけに(そむ)いたガブリエラをナタリーが何らかの形で処分する恐れがあった。

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