第31話 三顧の礼①
サイバラ砦から出陣するまでに数日の準備を要する。 斥候を出して地形や進軍ルートを確認せねばならない。 タバサ連盟の側からダナウェイ女王国へ侵攻するのが初めてだから、なおのこと時間がかかる。 遠路を移動してきた兵を休ませる必要もある。
実務はニンゲンの武官に任せきりだから、この数日のうちに魔女武将がやることと言えば軍議だけ。 それ以外の時間は余暇であり、お茶会や鍛錬などをして過ごす。
魔女王ナタリー・ディアマンテは、この時間をシュクガワ・マナミの登用に充てることにした。 ベティー・パーカーを倒したマナミを武将交換してやると息巻いていたが気が変わり、真正面から登用しようと思い立った。 テツナンドの魔女王フジワラノ・ハズキに真正面から魅力勝負を挑むのだ。
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そういう訳で今、シュクガワ邸の前に、ナタリー・ディアマンテの姿がある。 サイバラ砦は小さな都市ほどの面積があり、有力な武将は一軒家を与えられる。 シュクガワ・マナミもテツナンド王国のトパーズ将軍だから、邸宅を与えられている。
ナタリーの随行者は3人の魔女武将のみ。 武力値91のサファイア将軍クレア・クイックシルバー、〈能力視〉の異能を持つクロエ・シューベルト、そして〈忠誠視〉の異能を持つジャノメ・マコである。 前線の砦とは言え戦いの最中ではないから、ナタリーらは甲冑姿ではない。 魔女の正装たるワンピースを着用している。
クレア・クイックシルバーは厳しい顔をしている。 ナタリーがマナミの登用に成功したとき、一名将軍の座を追われるのは彼女だ。 現在のディアマンテの一名将軍4人のうち、クレアの武力値が一番低いからである。 しかしナタリーはクレアの心境に気づいていない。 その辺も、ナタリーの魅力値が71に留まる理由である。
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マナミの邸宅の玄関に歩み寄りながら、ナタリーは憂い顔でつぶやく。
「シュクガワ殿が不在だと良いのだけど...」
願わくば、人材登用の究極奥義とされる『三顧の礼』を使いたい。 この奥義では、君主が登用ターゲットの住処に三度足を運んで熱意と誠意を示す。 つまり、二回会えずに引き返さねばならない。 それには、ターゲットが留守や昼寝をしていることが肝要である。 とはいえ、ターゲットの留守や昼寝を見計らって訪問するような卑しい真似は禁物。 さもしい魂胆がターゲットに伝わり逆効果に終わる。 初回でターゲットに面会できてしまったなら、運が悪かったと諦めるほか無い。
玄関の前には、軒下から呼び鈴の紐が垂れている。 ナタリーが紐を引っ張ると、家の中で鈴が鳴った。 チリンチリン。 出てきた使用人の女の子に、ナタリーは丁重に用向きを伝える。
「私はディアマンテ女王国の魔女王ナタリー・ディアマンテ。 シュクガワ・マナミ殿にお取り次ぎ願いたい」
使用人は一度家の中に引っ込み、再び出てきた。
「お会いになるそうです。 どうぞ中へ」 お入りください。
ナタリーの顔を落胆の陰がよぎる。 シュクガワ殿は留守ではなく、居眠りしてもいなかった。
(いよいよフジワラノの魅力と真正面から勝負するしかないわけね。 あの小娘の魅力値は83、私は71。 12の差は大きいけど、魅力値は絶対じゃない。 相性もある!)
ナタリーは決意を固めつつ、土間でパンプスを脱ぎ廊下へ。 クレアら3名のお供が、その後に続いた。




