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魔女戦記  作者: 好きな言葉はタナボタ


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第3話 ハズキの馬鹿っ!

物見(ものみ)の兵がセガワ軍の接近を告げ、ディアマンテ軍とソ連合軍は戦闘配置に付いた。


ハズキは黒っぽい甲冑を身に着け、馬鎧を着た馬に乗っている。 ただの馬ではない。 体高が人の背丈ほどもある巨大な戦馬(せんば)だ。 得物(えもの)斧槍(おのやり)。 槍の先に分厚い斧の刃が付いた武器である。 魔女武将が使う斧槍は柄の部分まで鋼鉄製。 重量は7カンヌ。 8才児に相当する重量である。 魔女武将は魔法で肉体と体重を強化して、この重量級の武器を ―ときに片手で― 自在に振り回す。


同じく戦馬に乗りハズキの両脇を固めるのは、蜂蜜色の頭髪の美しい魔女と、鉄錆(てつさび)色の頭髪の丸い頬の魔女。オリーブ村の領主ガブリエラ・ハニーゴールドとその配下イナギリ・クルチアである。 兵を連れず、2人きりでの参戦だ。 ガブリエラとクルチアはハズキが最も信頼する魔女武将であり、全国レベルでも屈指の実力者。 2人が麾下(きか)にいるのは、ハズキにとって得難い幸運である。


        ✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩


遠くにセガワ軍が姿を現した。 先頭を歩む戦馬はセガワ・アイコのものだ。 アイコは猛将であり、常に陣頭で軍を率いる。


セガワ軍を目の当たりにして、ハズキの心は揺らぐ。


(本当にアイちゃんに槍を向けるの?)


手綱を強く握りしめ、猛烈に思考する。


(結局、セガワ軍と協力してディアマンテを打倒する方が賢いのでは? ディアマンテの属国のままじゃテツナンドはジリ貧。 いつかセガワ王国と同じ末路を辿る。 それなら勝ち目が薄くても―)


セガワ軍からの同盟の誘いを断りディアマンテに付いたのは、イナギリ・クルチアにそのように強く言い含められたから。 ハズキの本意ではない。 知勇兼備で知られるイナギリ殿のアドバイスだからと、ハズキは不承不承ディアマンテ陣営に付いた。


(私がアイちゃんに味方すれば、ドレミちゃんも加勢してくれる。 決して勝ち目がない戦いじゃないはず。 イナギリ殿はドレミちゃんの参戦を計算に入れてるの? どうしよう。 どうする? 早く決めなくちゃ。 今ならまだ間に合うっ!)


頭脳の限界まで葛藤したのち、ハズキは心を決めた。


(やっぱりアイちゃんに味方する!)


ディアマンテ女王国の搾取によりテツナンド王国の国力は低下を続けている。 このままではテツナンド王国に先はない。 ならば、ここでアイちゃんと手を取り合って賭けに出るべきだ。 イナギリ殿は勝ち目が無いと言うけれど、勝ち目がゼロなんてことは有り得ない。 私は今この選択により、自分の未来を切り開く!


        ✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩


ハズキは戦馬を駆り立て、単騎で前方へ突出した。 両脇で馬を進めていたガブリエラとクルチアはハズキの突然の行動に驚き、慌ててその後を追う。


「フジワラノ殿!」「いかがしました!」


ハズキはガブリエラとクルチアに構わず馬首を(ひるがえ)し、ソ連合の軍勢5千人と向かい合った。 大きく息を吸い、腹の底から大きな声を出す。


「全軍止まれぇ! これより我らはディアマンテ軍を離脱する! セガワ軍に与力(よりき)し―」


ハズキの言葉が途中で止まる。 横合いから鎧に包まれた手がニュッと延びてきて、ハズキの口を(ふさ)いだのだ。 手はハズキの口を恐ろしい力で(つか)む。 (あご)が痛くて外れそう。


「馬鹿っ! あんた気でも狂ったの!?」


イナギリ・クルチアだ。 凛々(りり)しい目でハズキを鋭く睨みつけ、ハズキの口を塞いだまま全軍に向かって大音声(だいおんじょう)を放つ。


「今のはフジワラノ殿の戯れ言(ざれごと)である! 敵はセガワ軍。 戯れ言に惑わされてはならぬ、前進を続けよ!」


ハズキの命令に動揺し始めていたソ連合軍は、何事も無かったかのように前進を再開した。


クルチアは片手で斧槍と自分の馬の手綱を握り、もう片方の手でハズキの馬の手綱を掴む。


「馬鹿ハズキっ! さっさと元の位置に戻りなさい」


クルチアはハズキがタバサ王国の魔女武将だった頃の先輩だから、必要に応じてハズキに対する言動を荒らげる。 今回のハズキの行いはゲンコツの一発でもくれてやりたい大失態だが、公衆の面前で魔女王を小突くわけにはいかない。


ハズキは馬の手綱をクルチアに握られ、項垂(うなだ)れて元の位置に戻る。 みじめさに目が(うる)む。 一念発起した決意を頓挫(とんざ)させられた。 人前で叱られた。 クルチアにあっさり命令を上書きされた。 魔女王にしてソ連合の盟主であるハズキの言葉よりも、一介の魔女武将であるクルチアの言葉のほうが強かった。 クルチアとの格の差を痛感する。 人は地位のみに従うのではないのだ。

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