第23話 試合
試合の当事者2人が戦馬に跨り訓練場に入ってきて、スザンヌはそちらへ向かった。 この勝負の言い出しっぺだから見届け人を買って出た。
訓練場に入ってきたマナミもベティーも、ワンピースから鎧下に着替えている。 鎧下のみを着るベティーに対し、マナミは鎧兜まで身に付けている。
スザンヌがマナミに要求する。
「シュクガワ殿、鎧兜は脱いでください」
「なんで?」
「魔女武将の試合では鎧兜を身に着けず戦うのです」
ベティーが口を挟む。
「魔女武将の試合は寸止めじゃないからね。 あんたがブチのめされて降参するか失神するまで終わらないよ」
「失神するのは テメエ だよ」
「あーもうだめ、早くあんたをブチのめしたい」
「今すぐかかってこいや ゴラァ」
「喧嘩じゃねえっつうの。 これだから傭兵は トホホ」
ベティーと口喧嘩しつつ、マナミは鎧兜を脱いだ。
マナミが鎧兜を脱ぐうちに、スザンヌは訓練場の片隅にある倉庫へ試合用の斧槍を取りに行った。 試合用は斧槍の柄も刃に相当する部分も木製で、実戦用に比べて殺傷力は低い。 重さは鉄の1/5に満たず、斧槍の刃先がずんぐりと丸められている。
倉庫から戻ってきたスザンヌは、戦馬に跨るマナミとベティーに木製の斧槍を手渡し、試合のルールを述べる。
「頭部への攻撃と刺突による攻撃は禁止です」
✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩
マナミとベティーは訓練場の中央で、戦馬に乗り10歩ほどの距離を置いて向かい合った。
マナミが斧槍を持つ手つきで、ベティーはマナミの斧槍の実力を見抜いた。
「ハン、あんた斧槍を使ったこと無いでしょ。 やっぱり半人前ね」
ベティーに鼻で笑われ、マナミはぶっきらぼうに答える。
「無くはねえよ」
マナミは自分の斧槍を持たないが、戦場ではちょくちょく敵の魔女武将から奪った斧槍を振るう。
「それでは始めてください」
スザンヌは試合開始を宣言し、小走りでマリカの隣へ戻った。 猛将2人の一騎討ちに巻き込まれると大怪我をしてしまう。
✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩
試合開始と同時にベティーは、〈肉体強化〉の魔法を2リョフの出力で発動させ、マナミ目がけて馬を駆る。〈重量変化〉は使わない。 試合用の斧槍は軽いし、甲冑を身に着けていない。 体重を増やす必要はない。
互いの斧槍の間合いに入り、ベティーの斧槍が猛烈な勢いで、横殴りにマナミに襲いかかる。
「死ねぇっ!」
当たった者を殺さずにおかぬ勢いの攻撃はしかし、マナミの体に届かなかった。 スイングの途中でベティーの体が斧槍の重さに耐えかねてバランスを崩し、馬上から落ちてしまったのだ。
重い音と共にベティーの体が地面に投げ出された。
「ぐっ」
常人なら怪我をせずとも衝撃でしばらく身動きできないが、ベティーの体は〈肉体強化〉により強靭になっている。 落馬のショックはほとんどない。 しかし頭が混乱している。
(何が起こった!? いや、何をされた?)
手に持つ斧槍が急にズシンと重くなり、そのせいでバランスを崩して落馬した。 スイングの途中だったから、堪えきれなかった。 斧槍を手放せば良かったが、咄嗟のことゆえ、取り落とすまいと握りしめてしまった。 いや、斧槍を手放して、その後の戦いをどうするのか? どうすれば良かったのか?
思考に気を取られベティーの行動が遅れた隙に、マナミは栗鼠のごとき素早さで馬を降り、立ち上がろうとするベティーの体をドンと突き飛ばした。
「あっ」
声を漏らしつつ仰向けに倒れたベティーの上に、マナミは馬乗りになる。 いわゆるマウント・ポジションだ。
ベティーは2リョフのパワーで起き上がろうとする。
「どけっ!」
だがマナミの体重がそれを許さない。 豪傑2人分のパワーでもどうにもできない重さで、ベティーの胴体の上にずっしりと座り込んでいる。
マナミはゲンコツを振りかぶり、ベティーに選択を突きつける。
「降参する? それともブチのめされたい?」
「誰が降参など―」
「あっそ」
マナミはベティーの顔を殴りつけ、ベティーは失神した。
「楯突いていたのは、やっぱり テメエ の方だったな」




